第9話 死闘

 それは、魔王シェパードからの宣戦布告であった。列強各国のトップに手紙が届いた。


 ファーストカテゴリーの魔導書を所有する国々は仲が悪く、更にはサードカテゴリーの魔導書の登場で世界情勢は緊迫し、その中での魔王シェパードの宣戦布告である。


 この魔導図書館にもカレーダの王室から使者がやって来た。ルビー館長と賢者イナが同席して会議である。


 その後、使者が魔導図書館から帰ると。会議室に私達を集めてルビー館長が話し始める。


「討って出る、どの列強各国より早く、魔王シェパードを退き、この世界の覇権を握る」


 それはファーストカテゴリーの魔導書の力を協力して戦うではなく、この国、独自で魔王と戦うと言うのだ。


「無茶です、列強との同盟の可能性は無いのですか?」


 アリシアがルビー館長につめ寄る。しかし、アリシアの意見は捨てられて、ルビー館長は地図を取り出す。


「魔王シェパードからの宣戦布告に添えられていた魔王の居場所だ」


 誰だって罠だと分かる。しかし、策は無く、列強の中で魔王の首で覇権を握ろうと言うのだ。ただ、希望と言えるのが賢者イナの存在である。賢者イナは私達に協力してくれると言うのだ。


 その後


 私達は地図に記されたカレーダの南にある砂漠の遺跡に来ていた。遺跡は魔族が作ったとされる都である。中を歩くと柱や建物が砂に埋もれている。ヨルヒが何かを見つける。


「お姉さま、この石の墓標に『魔王シェパード、ここに眠る』と書いてあります」


 それは魔王シェパードのお墓であった。私達が墓標に近づくと。


「うん?この墓標の前は空間が歪んでいる」


 アリシアは小さく呟くと私も確認できた。私は更に一歩前に出ると、墓標の前にある空間の歪みに触れる。


「わわわ、吸い込まれる」


 私とヨルヒ、アリシア、シスター・アスカに持たれている賢者イナが亜空間に吸い込まれるのであった。そこは鈍い銀色に光る洞窟に繋がっていた。魔王シェパードに通じるトンネルか……。


 皆の顔を確認して先に進む事にした。しかし、謎なのがトンネルの固い地面を歩いていても私達の足音が響かないのだ。私は本能的に危険な道だと思う。


 そして、広い部屋に着く。


「ようこそ、人間達よ」


 そこに居たのは銀髪の少年であった。


『ショタかよ!!!』


 皆いっせいに突っ込む。


「落ち着け、魔王シェパードはその姿を自在に操る」


 賢者イナが私達に向かって言葉にする。


「お前が言うなよ、賢者イナ、水晶玉になっているのに……」


 魔王シェパードは呆れた様子でいる。確かに賢者イナは魂だけの存在になっているなと思う。


「さて、早速、君たちにとってのファイナルバトルといこう」


 魔王シェパードが紅の瞳を光らせ『パチ』と指を鳴らす。すると、黒い人の背たけ程の左右の手のひらが空中に現れる。


「僕の武器はこの黒き手だけだ。握り潰されるがいい」


 私達は距離を取りながら魔王の手に攻撃をする。


「ヨルヒ、フレアアローだ」


 ヨルヒは炎の矢を放つが魔王の手には効かない。


「……強い」


 決して炎属性が効かない訳ではない。ヨルヒの魔力以上の固さなのだ。


「そろそろ、絶望したかな?僕の手は君たちの攻撃では倒せない」


 反論できない、魔王の手に対して私達は余りにも無力であった。


「賢者イナよ、策はあるか?」

「ダメだ、元々は七冊の魔導書と共に戦った……イヤ、前回の時より魔王シェパードは強くなっている」

「当たり前だ、伝説の戦いと同じである訳ない」


 ショタの魔王シェパードは余裕の表情でいる。この戦況に一つのアイデアがよぎる。


「賢者イナ、サードカテゴリーの絡繰りは理解しているか?」

「えぇ、これでも賢者よ。本当にやるのか?レッドバイブルとの融合を……」

「はい」


 私に迷いは無かった。例え死しても魔王を退く。


「させぬ!」


 私は一瞬のスキに魔王の手に捕まってしまう。


「賢者イナよ、早く!」

「えぇーい、どうなっても知らないぞ」


 賢者イナの水晶玉が光る。すると、レッドバイブルが左手に吸い込まれる。それは全身が炎に包まれる感覚であった。


 ヨルヒは隣で座っていた。


「ヨルヒ、今まで本当にありがとう。この感覚、私には死が待っている」


 その言葉と共に私の体を包む魔王の手を粉砕する。


「もう一つも……」


 私は高速移動で魔王の手をパンチすると炎によって焼け落ちる。


「勝負ありだ」

「確かに、僕の負けだ、僕の本体は魔王の手の方だからな」


 ショタの姿の魔王シェパードは消えて行く。


「また、長い、眠りに着くのか……僕が眠っている間に、せいぜい、人間同士で殺し合うがいい」


 勝ったか、魔王は皮肉を残して消えてしまった。そして、私は目まいと共に倒れ込む。


「お姉さま!」

「ヨルヒ、お別れだ、私は死を覚悟でサードカテゴリーの技術を使った」


 それは全身が消えて行く感覚であった。


「お姉さま!!!嫌です、私を独りにしないで下さい」


 ヨルヒは消えてしまった私の前で座り込む。


「お姉さま!!!」


……―――。


 泣きじゃくる私に賢者イナが近づいてくる。


「落ち着け、この者は異世界から来た、この世界での死は異世界に戻ることを意味している」

「本当か賢者イナ?」

「あぁ」

「なら、私が異世界に行く事ができるのか?」

「可能だ、その方法が記された本がカレーダの魔導図書館の書庫にあるはずだ」

「なんだ、簡単ではないか」

「書庫にある百万冊の中から探すだけだ」


 い、百万冊!?


 でも、やる、私はお姉さまに会いに行く為に百万冊の本を読む。


 それから……。


 私は魔導図書館のテラスで本を読んでいた。百万冊の中の一冊を探していた。


「ヨルヒ、今日も頑張っているな」


 私にアリシアさんが声をかけてくる。その左手に包帯は無かった。


 そう、サードカテゴリーの魔導書技術は死人を出した事により、国際条約で禁止されたのだ。


 でも、列強同士の仲は悪く世界平和には程遠いのが現状であった。魔王シェパードが残した皮肉にどこまで人類が対応できるかは謎である。


 そんな事より、異世界に行く方法の書かれた本を探さねば。


『お姉さま、待っていて、今度は私があなたの世界に行くから』




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百合は異世界で花咲く 霜花 桔梗 @myosotis2

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