第3話 「娘」
「耶恵ちゃん聞いてる?」
「ん?ごめんもう1回お願い」
「だからね、夕飯お肉かお魚どっちが食べたいっ?て話」
「じゃあ、、おさかな、かなあ」
本当に他愛もない会話。
当たり前のように存在する母親と当たり前のように毎晩食べることの出来る夕飯の話。
毎日が積み重なって出来る当たり前の日常に幸せを感じながらも、何処か不安を線で型どった様な気持ち悪いウネウネが付き纏う。
例えるならシーソー。
もう1人の自分が向かい側に座っていて、もし向こうが食べすぎたのならすぐに傾いてしまうようなそんな不安定さだ。
もやもやを取り払う様に私は、にっと口角を上げた。
「ママ、今日のテスト100点だった。」
右手の二本指を、漫画で描かれる兎の耳のように少し曲げて立てる。
「100点?流っ石! なぁに、そのピース 」
「可愛いでしょ、今考えた。兎ピーース」
ママは笑った。
これで良い。私は間違ってない。
今この瞬間、確かに一人の人間を笑顔にした「私」が母の中に存在した。
大丈夫。ママは私を見て笑った。
大丈夫。私はここに居る。
高校3年生。耶恵(やえ)・女。
両親の外見をいいとこ取りして引き継いだ私はかなり容姿が良いらしい。
そう。「らしい」
私は誰からも理解されたことの無い悩みがある。
私は自分の顔を正確に把握することが出来ない。
それがどういう事かと言うと、つまり毎日自分の顔が違って見えるという事だ。
それは何となく今日はいつにも増して可愛く見える、とか今日はブサイクに見える、とかそう言った生半可のものでない。
私は、私の顔が毎日、毎朝、毎昼、毎晩、全くの別人に見えるのだ。酷い時は、性別も違うおじいさんの顔に見える事もある。
そんな調子だと、やっぱり自分という個の存在が現実に存在しているのかよく分からなくなる事がある。
それがとてつもなく恐ろしい。
自分が自分を認識できない。
もっとタチが悪いのが、わたしは、自分以外の人間はしっかりと顔を認識出来るということだ。
それがより一層、私の見る世界をややこしくしている。
この家族、キチガイ @Yuki6621
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