第2話 小太

彼の人生は不遇そのものだ。


彼(熊野 小太:男)は母親以外にはこれ以上は無いと言っていいほど環境に恵まれていた。


では問題の母親はと言うと、彼の実の母親は子どもには無関心そのもので幼少期に彼が「まま」と呼ぶものなら「ママ違う。あれが貴方のままね」と等身大のクマのぬいぐるみを指さして、自身が母親であることを拒否した。


そして彼は幸か不幸か、それを素直に受け入れた。

この日、自分の3倍はあろうクマのぬいぐるみを小太は「まま」と呼び始めた。



「まま、ただいま!今日ね僕がお昼寝1番上手だったねって先生がね!」

ままは真っ黒のくりくりまん丸のおめ目をじっとこちらに向けた。


この時、小太は 感じたことの無い胸の高揚を感じていた。


自分の話を聞いてくれている。


いつも小太を保育園に迎えに行っては、すぐに家を出ていってしまうお姉さんは彼が口を開く隙もなく消えてしまう。


対して、ままは違う。いつもここに居てくれてきっとこれからもこのまん丸のおめ目で僕をじっと見つめて話を聞いてくれるに違いない。


そっと、ままに寄りかかった。

ふほぁっ。小太の頭が巨大なお腹に沈みこんでいく。

耳元でサカサカと中綿が頭の形を退きながら移動していくのが聞こえる。


ぬいぐるみは、僕という形を受け入れる。

何も否定しない。

ただありのまま、僕を包み込む。


あたたかい。


これが、、


お母さん。


少年が初めて母性に触れた瞬間だった。

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