サマー・メモリー・クリアタウン

板谷空炉

サマー・メモリー・クリアタウン

「ん……。」

 陽の光がカーテンの隙間から部屋に差し込む。いつもより強く感じるせいか、なんとなく「起きろ」と言われているような気分になった。

 だから仕方なく目を覚まし、布団から出ることにした。


 枕元の電波時計を見る。現在時刻は午前十一時。いつもなら仕事から帰ってきて気絶したように眠っている時間。

 今日は叔父さん──バーの店長の気まぐれで臨時休業。おまけに明日のシフトは休み。

 もう少し寝ていたかった。でも洗濯物を溜めてしまっているし、お腹も空いた。

「……朝ごはん、作ろ。」 

 

 横で洗濯機を回しながら、賞味期限が今日までの卵を、サラダ油を少し引いたフライパンに割り入れた。

「……あ。」

 ふたごの卵だった。

 

 その瞬間、何故か君のことを思い出した。

 君が大きくなってから、偶然会えたのはあの一度きり。今となってはもうどこにいるのかすら分からない。素敵な女性になっていた君は、きっと何処かで幸せに過ごしているだろう。


 だけど。

 君が大人になったとしてもきっと、あのアイスは半分こにして誰かと食べている。

 苦しいことがあったとしても、太陽のような笑顔を心に持っている。

 そして……

 ふたごの卵を見てほっこりしてる。


 優しさと強さと純粋さを兼ね備えた大人になっている。そんな気がするのは、自分だけだろうか?


「そんな色は……。」


 ちょうど完成した目玉焼きの、黄身のような色とは少し違う。

 太陽のようで、或いは向日葵のようで、少し明るい、薄くはない黄色。

 君に似合うその色の名は、自分には解らなかった。




 朝食を食べ、歯磨きも身支度も済ませ、アパートを出て鍵を閉めた。勿論、二年前みたいに光ることは無かった。

 青空を見る。雲一つ無く、あの夏と同じような日差しが目に染みた。

「いい天気だなぁ……」

 


 ──買い物がてら散歩に行こう。

 夏の始まりのような今日は、君に会える気がする。

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サマー・メモリー・クリアタウン 板谷空炉 @Scallops_Itaya

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