第4章 3はすべてのはじまり(3)

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 覆面パトカーの中から屋敷を見張っていた刑事二人は、ラルフとブラッドが戻ってきたあと、黒塗りのワゴン車が来て三人の男女が屋敷に入ったのを見ていた。と思ったら六人で出てきた。


「おい、出てきたぞ」

 ローレンスが両手を上げたのが見えた。


「なんだ、脅されてるのか? 様子が変だ。出るぞ。追え」ということで覆面パトカーでワゴン車を追跡し始めた。


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 三人は黒薔薇の庭教会に着くと、礼拝堂からバックオフィスへ入った。


「ラルフ、どうなるの?」アイビーが不安そうに聞いた。

「大丈夫だ。逆らわずに黙って彼らに従うんだ」


 先日の立ち入り禁止の倉庫から地下へと歩かされた。階段を一番下まで降り、ドリューがカードキーでドアを開け、中に入るとあの洞窟のような岩肌がむき出しになった通路が現れた。後ろから小突かれるままに三人は通路を奥に向かって進んだ。通路は下りになっていて途中から空気が驚くほど冷たくなった。


 しばらく歩くと突如として天井の高いガランとした礼拝堂が現れた。壁際のいたるところに黒い蝋燭が立てられ、ゆらゆらと炎が揺れている。突き当りの壁に逆五芒星が描かれていて、三人は祭壇の前に連れて来られた。


 ドリューはその場で用意されていた白いフード付きのガウンの袖に手をとおした。


「白なのか」と思わずブラッドがいうと

「これから行う儀式の意図が純粋であることの印」とドリューが答えた。


「儀式? 一体何が目的だ」ラルフが聞いた。


「日没までもう少し時間があるから教えてあげましょう。我々は学会の復活に必要な魔導書を探しているの。それを開くのに必要なのが地獄への鍵。けどエリザベスは地獄への鍵の隠し場所すら誰にも告げず、手掛かりになるカードを三か所に隠し、それ以外のもの全てを処分して亡くなったの。鍵を探す道程こそが信仰につながると考えてね。


 学会に残されたのは三か所に手掛かりがあることのみ。その後学会は解散命令により一度解散し、地獄への鍵を探す旅は長らく途絶えた。その後黒薔薇の庭教会として出直した。けどここ数年信者が増え学会は密かに復活。


 我々はエリザベスのお気に入りだったカーラ・オニールの名を冠したカーラ・ヘリテージを設立し、まずクラレンス・ホールを探し始めた。ようやく見つけたけれど一足違いであなたが手に入れた。そこで売ってほしいと頼んだのにあなたは拒否したの。


 それで家探しさせてもらったけどカードは見つけられなかった。もう一枚のカードがボーシャ男爵家にあることを掴み彼らの元へ行ったけれど、これも一足違いでカードはあなたの手に渡った。


 しかも彼らは、聖地であるクラレンス・ホールを手放した上にカードも手放すという二重の過ちを犯したの。彼らの爵位と今の繁栄はサタンと契約して手に入れたにもかかわらずね」


「それでボーシャ男爵一家を殺したのか」

「当然の報いよ。契約は永遠なの」


 そのときカーン! と鐘が鳴った。それと同時に黒装束の者たちが続々と礼拝堂に入って来た。その中にあのサンチェス司祭もいた。


「十三点鐘よ。黒ミサが始まるわ」ドリューが目を輝かせた。


 壇上に上がったサンチェス司祭が複雑な悪魔的記号が書き連ねられた羊皮紙を広げ「七十二の悪霊の名を唱えましょう」といった。すると信者たちが声を揃えて悪霊の名を唱え始めた。


 バエル、アガレス、ヴァサーゴ、サミジーナ……。


 その間も黒装束に身を包んだ信者たちはどんどん増え、声も反響して大きくなっていった。十三回目の鐘が鳴ると全員が跪き礼拝堂は静まり返った。


「何が始まる? 僕らをどうする気だ?」ラルフが聞いた。

「地獄への鍵を取り出してもらうわ」

「そんな義理はない。欲しければきみがやればいい」

「断れないわよ」


 黒服の男たちが後ろ手に拘束されているアイビーとブラッドの首筋にナイフを当てた。


「ラルフ…」アイビーが声を震わせた。

「ラルフ」ブラッドが苦しそうに声を絞り出した。「邪教の復活に手を貸すな」


「彼らがボーシャ家の人たちと同じになってもいいのかしら?」

「よせ!」とラルフが止めた。「カードならやる」


 ラルフがポケットからカードを出して見せると、礼拝堂内がざわついた。


「静粛に!」ドリューが声を張った。

「これを渡す。だから僕らはもう関係ない。解放しろ」


「駄目よ。鍵を取り出すのを手伝ってもらうわ」

「なぜ僕なんだ」


「自分で言ったでしょう。あなたはカードの正当な所有者。やってもらうわ。これは儀式なの」


 そういってドリューが合図すると祭壇の横の壁にかけられていた緋色の布が取り払われた。出てきたのは1から9までの数字の描かれたモザイクタイルとその下にあるピラミッド型に配置された四つの四角い窪みだった。


 するとドリューもポケットからまったく同じカードを一枚取り出した。


「どうしてこのカードをきみが持っているんだ? きみは何者だ?」


「わたしはボーシャ家と同じようにカードを守っていた守護者の意思を継ぐ者。わたしが何者か、あなたが知る必要はない。さ、鍵を取り出しましょう。鍵を取り出すには四つの数字が必要なの」といってドリューはピラミッドの頂点に当たる位置にある一つの四角を指した。


「ここに数字を一つ。それから下の三か所にカードを入れてそのカードにふさわしい数を入れる。数がカードに力を与える。お分かり? 始めましょう」


 ドリューが蝶が羽を広げるように両手をあげた。サンチェス司祭が祈りの文言を唱え始め、信者たちが同じ言葉を繰り返し、その声が礼拝堂内で反響し始めた。


「まず三枚のカードを適切な位置に入れなさい」


 ラルフは左から、クラレンス・ホールで見つけたカード、ドリューが持っていたカード、ボーシャ家で手に入れたカードの順で窪みに嵌めた。すると三枚のカードの下のタイルが横にずれ、小さいつまみが現れた。


 サンチェス司祭がそのつまみを手前に引くと貸金庫のような頑丈そうな細長い引き出しが出てきて、中から羊皮紙を丸めた文書を取り出した。


「なぜこの順番なの?」ドリューがラルフに聞いた。


「カードがあった番地が333、444、555。それを小さい順に並べただけだ」

「そうね」


 そのとき祈りが終わり、静まり返るとドリューがサンチェスから羊皮紙を引き取った。そして羊皮紙に押されていた赤いシーリングスタンプをナイフで開封すると羊皮紙を広げ、読み上げながらラルフに命じた。


「最初の数を与えよ。最初の数は我らの神、エリザベスの数である」

「ちょっと待て」とラルフが言った。「カードに力を与えるために数を与えるのは分かったが、そもそもそのメッセージに間違いはないんだろうな?」


「間違いないわ。エリザベスがここに隠したんだから。いまガードナー家の家紋入りのスタンプを開封したのを見たでしょ。疑うの?」

「念には念を入れて確認したまでだ。それならいい。続けよう」


 ラルフが数字に手を伸ばしかけると今度はドリューが「いい忘れたけど」と言ったので慌てて手を引っ込めた。


「なんだ?」

「間違えたら死ぬわよ。血の雨が降るというエリザベスの残した遺言があるの」

「それを早く言え!」


「ラルフ! 間違えるなよ!」取り押さえられたままブラッドが叫ぶと、隣のアイビーも「ラルフなら絶対間違えないわ」と震える声で叫んだ。


「気が散るから黙ってろ!」

「静粛に。今度こそ本番よ。最初の数を与えよ。最初の数は神の数である」


 ラルフは数に手を伸ばした。

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