幽閉
kei
第1話 過去作なんで改行ないですスミマセン
暗い。何もない。私は今どこにいるんだろう。闇を振り払い続けても、光は一向に差さない。なんでこうなったかもわからない。一つだけ確かなのは、ここに自分の肉体があるということだけだ。「……ん?」
なんだか音がする。いや音じゃない。これは声だ。
「……えっ?……あっ!」
男の人の声が聞こえる。その声に聞き覚えがあった気がして、私の中で何かが引っかかった。でも思い出せない。
どうにも気になったので、とりあえず声の方へ。そこには驚くべき姿があった。子供の頃の自分がいたのだ。なぜ見た瞬間にそう感じたのかはわからない。頭より先に体が動いた。私は自分を消したかった。でも死ぬのは怖かった。私の手はそいつの顔の前に近づき、一気に目を貫いた。鮮血が飛び散る。何度も爪や指で顔を抉った。感じたことのない感覚が私を麻痺させた。こうすれば過去の自分が消え、今の自分も消えると思ったのだ。しかし私の肉体が消えることはついになく、哀れな自分の姿と遺体が横たわっていた。ここで心のつっかえが取れた。あの声のことがわかったのだ。同時に背筋が凍った。さっき殺めた男は子供の時の私ではない。私の弟だったのだ。なぜわからなかったのだろう。
弟は俺より幾分頭がよかった。私が相当悪かったのもあるが、弟は他の同年齢の人たちとは比べ物にならなかった。毎日部屋に篭り勉強をし、私にここを勉強したと言ってくれたり、質問したりしてくれた。最初は良かった。むしろ自慢の弟で、私はこんな優秀な弟がいるんだぞ、と優越感さえ感じた、しかしその感情はどんどん悪い方向に曲がっていき、嫉妬に変わった。顔立ちも良く、性格も良く、頭も良く、みんなに好かれ、非の打ち所がない聖人君子の弟がどんどん嫌いになっていった。弟は、そんな私の感情に気づいたのか、話しかけてこなくなった。それから私は猛勉強を始めた。他人にも行儀良く振る舞った。いつしか成績は伸び、みんなからも好かれるようになっていった。しかし弟には及ばない。次第に私の頭の中は、あらゆる知識と、そして弟への劣等感で埋め尽くされていった。そんな時期から十数年経ったいまも、そのことをたまに思い返す。今気づいたが、その時のことを思い出す時、私の記憶の中の昔の私は、声も顔も弟にそっくりだった。そう、私は昔の頃の私を勝手に弟に変換して記憶していたのだ。そうか、私は弟を尊敬していたのだ。だから古い記憶を変換して理想の自分にしたのだ。自分の本心にさえ気づかないなんて、私はなんて愚かで哀れなんだろう。
地獄のような夢から覚めた私はそんなことを考えていた。こんな愚かで哀れな自分を好いてくれた人達、そして弟に感謝と詫びを伝えながら、私は自分の目を自分の指で貫いた。爪と指で何度も自分の顔を抉った。夢といっても、私は殺人に等しいと思っている。そんな自分を浄化する方法は、これくらいしか思いつかなかったのだ。私はもう一度、深い闇の中に潜っていった。
幽閉 kei @keigo305
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