夏なんか

祇園ナトリ

向日葵

「向日葵がねぇ、好きなの」

 君は、名を挙げた花と同じ様に笑って言う。

「早く咲かないかなぁ」

 そう言ってしゃがみ込んだ君が覗き込むのは、少し前に種を植えたばかりの鉢植えだ。

「まだ早いだろ。立夏もまだなのに……」

 俺は縁側からそれを眺めながら、小さくため息をつく。

 今は四月が終わる頃。どう考えても向日葵が咲くにはまだ早いだろう。確かにじっとりと汗ばむような気温だが、まだ日差しは柔らかい。

「えへへ、そうだよねぇ。……ふふ、楽しみだなぁ、早く夏にならないかなぁ」

「やだよ、あっついし」

「えー、ひどいなぁ。私、夏好きなのに」

 くすくすと零される笑声。ずきりと胸が痛む。

「……俺は、好きじゃない」


「なんで?」


 真っ直ぐと、ただただ不思議そうに、君の瞳が俺を射抜いた。思わず息が詰まって、即座に言葉を返す事が出来ない。


「……暑いから」


 少しだけ考えて、ようやく返した言葉はありきたり。


「あはは、なんだそりゃ!」


 そんなありきたりの言葉に吹き出して、満面の笑みで真っ白な帽子を押さえる君の手は透けていた。


 だから、夏は嫌いだ。君が死んだことを、嫌でも思い出してしまうから。

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夏なんか 祇園ナトリ @Na_Gion

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