クッキーと拳銃⑤ / 分割Ver.

 銃弾の数が限られる中でエトウは、正確な射撃を繰り返した。テロを止めて街の人々を守る。エトウは、テロリストを殺害しないように、遠距離にもかかわらず致命傷を避けて撃ち込んだ。

 「エトウ!」

電信柱を撃つことで、戦車の行く手を阻む。電信柱を破壊して戦車は進むが、高電圧が繰り返し流れることで、戦車内の電気系統が徐々に摩耗していく。

 「エトウ!」

走りながら、たった1人でテロリストとの戦闘を繰り返すエトウは、ふと自分の名が呼ばれたのに気付いた。

 「だれ!?」

 「こっちだ!エトウ!」

 路地の隙間から1人の男がエトウを呼ぶ。

 「シロタ?どうしてここに居るの?」

 エトウは路地に入り、かつての戦友との再会を喜んだ。

 「エトウ!なんて久しぶりだ!あぁ、先に紹介しよう、こちらがキムラだ」

 「あ、どうも、エトウです。というか、なんでこの戦いの中で冷静なの?2人は」

 「補給地で爆発に巻き込まれた時、ボス不在のなか、エトウが指示を出してくれたから救助隊を呼べたんだ!病院でも感謝したけど、エトウは俺の命の恩人だよ!」

 「とても心強い方なんですね、エトウさんは。」

 「ほんとうにその通りだ!それで、エトウ、君の質問に答えよう」

 シロタは少し顔をしかめて、理解をしてくれるかどうか不安になりながら答えた。

 「このテロの指導者は俺だ。この国を壊している」

 「はぁー!?何いってんだ?」

 「分かる。平和の為に戦った俺が、こんなことをしている。分かっている、俺は悪だ。だが、覚悟の上だ。このクソみてぇな政治をぶっ壊すためには、悪を名乗る『何か』が必要だ。正義なんて簡単には現れてくれない!だから俺は、ひとまず悪にでも何でもなりきって正義がこの世界を素晴らしい世界にするためのスイッチになるんだ。死んでも構わない」

 「なに言ってんだ、シロタ?本当に?」

 「俺らが補給できなかった野営地、シルソーでは連合国が敗北した。シルソーの大敗。これはな、俺らが補給に失敗したからじゃない。シルソーの大敗は、連合国とポダートの政府や利害が一致する企業や、裏の組織みてぇな奴らが結託して、何か月も前から仕組まれていたんだ。ポダートは東方戦争で敗北するが、シルソーでの大勝を考慮して、エムラッヒの執政権を公的に獲得する。その代わり、秘密裏に半年以内の終戦が決定した。もちろん、その中の約束には、シルソーへの補給隊を攻撃することも含まれていた」

 「が、え、はぁ?」

 「まぁ、そうなるだろう。驚きで何も考えられない。そんで、あの苦しみや、大事な人を失ったのは、いったい誰のせいなのか考える。そうすると、そう、湧いてくんだよ、怒りが。なぁ?誰のせいだ?」

 「クソみてぇな、世界を裏で操ろうとしている奴らのせいだ、、、」

 「その銃口を向ける相手は、ひとまず俺たちじゃない。そうだろ?」

 「だが、民間人の犠牲が、出るのは、どうなんだ?」

 「そう、だからよ、俺たちは天国に行くつもりなんてねぇんだ。地獄行きの電車に乗り込むときに、その隣に、この世界を裏で操って、誰かの幸せを奪おうとしてる奴が居てくれるだけでいいんだ」

 「そんな、、、そう、か、、、」




街の破壊は、2人の静かな会話と裏腹に、轟音と爆発と共に進んでいく。そして、2人の会話は、5分も経たないうちに終わり、もう2度と会話をすることはない。

「だから、でも、シロタはそれで良いのか?」

「良いかどうかは、誰の基準だ?最初の攻撃で殺害された人の家族は、俺たちテロリストを心底恨むだろう。だが、これから生まれる子たちはどうだ?少なくとも、生まれる前に起こった『秘密裏の制約』によって苦しむことはない。テロに感謝することはないが、テロを恨むことはないだろう。教科書には正義しか載らないわけではないんだ」

「そう、その通りだよ」

口を閉ざして2人の会話を聞いていたキムラは、腕時計の針を確認すると、胸から拳銃を取り出した。そして2発の銃弾を正確に放ったはずだったが、エトウは身を縮めて回避、ホルスターから素早く拳銃を取り、キムラの額に打ち込んだ。エトウから遠く離れて侵攻を続けていた戦車やテロリストたちは、国で一番の大きな図書館の横を通り過ぎる際に、埋められていた大量の地雷を踏み鳴らした。そして、業火に焼かれながら、建物と共に姿を消した。テロが終わる。



エムラッヒの首相と秘書が話す。

「テロは今どんな状態だ?」

「最初の砲撃から、丁度1時間が経過したので、テロリスト全員を無効化して、街の破壊を完了しました。特別作戦は完了です」

「ふっ、そうかそうか」

「それと、テロ主導者のシロタから、今回の武器提供について、礼品が届きました」

「礼品?というか、俺がここに居るのを何で知っている?」

「それは、やはり!ルゼナ運輸だからなせる業でしょう!正確に届けるのがお仕事ですからね」

首相はニヤケて言った。

 「そうかそうか」

 大きなゴルフクラブバックくらいの包みを開けると、ポダートの迎賓館を吹き飛ばすほどの爆発が起こり、新たな時代の幕開けとなった。




エトウは、屋根のない家の椅子に座り、自分の好きなクッキーを頬張った。

好き、だから食べるのだった。

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クッキーと拳銃 / 1ヶ月1万字小説4月号 作家志望A @o-tyan

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