第22話 王国から独立しますわ

「雉も鳴かずば撃たれまい、か……」


俺は、死屍累々となった戦場を砦の上から見下ろしながら、感慨深くつぶやいた。

金獅子騎士団の命令には逆らえなかったのだろうけど、せっかく前回拾った命を、結局無駄に費やした結果を見ると、なんともやりきれない気持ちになる。


「でも……。これで王国の騎士は一人もいなくなりましたわ。ようやく、安心して暮らせるようになりますわね」


戦場に沈む夕日に、俺の心は達成感で胸がいっぱいになる。


「しかし、ガベージは王国の一部ですので……。もしかしたら、他の領主が持っている私兵を送り込んでくるかもしれませんね。あるいは、冒険者を雇う可能性も考えられます」


そんな俺の安心を、アリスが無情にも斬り捨てた。


「えっ?! そうなんですの?」


「長期にわたる反乱を許せば、自分たちの権威が落ちますからね。彼らも必死でしょう」


「うわぁ、安心できる要素がまったくありませんわ」


「もう、いっそのこと独立してしまう。というのは、いかがでしょう?」


突然、アリスから飛び出した爆弾発言に、思わず目を丸くしてしまった。


「独立ですの?!」


「はい、ちょうどリコリス様は公爵位を継承されておりますし、ガベージも実質領地のようなものになっております。ですので、公国として独立を宣言してしまえばよいかと思います」


「それで、攻撃が収まるんですの?」


「はい、現状は王国内の反乱となりますが、独立すれば一つの国として扱われますので、騎士団で攻め込んだ場合は正式な宣戦布告として扱われます」


「何が変わりますの?」


「一つは、こちらから攻め込むことが正式に認められます。それが王国の攻撃に対しての反撃であれば、周辺国が協力してくることはないでしょう。それに税金も王国に払う必要がなくなります」


あまりにも俺たちにとって有利な状況となるため、何かリスクがあるのではないかと不安になる。


「しかし……。何かリスクとかありませんの?」


「王国からの支援が受けられなくなるのですが、現状、王国からの支援など無いようなものですので、問題はありません」


「わかりました。それでは、独立する方向で進めたいと思いますわ。アリス、お手伝いいただけますか?」


「かしこまりました」


俺は、アリスに手伝ってもらって独立の準備をする。

法律や制度なども細かく決めていく必要があるのだが、アリスが一晩でやってくれた。

俺は、その内容を丸一日かけて精査し、サインをした。


「これで全部終わりですね。お疲れさまでした。あとは各国に通達するだけですが……。こちらは後日でも問題ないでしょう」


アリスが書類の最終チェックをして、微笑んだ。


「ふぅぅ、終わったぁ。疲れましたわぁ」


やっと終わったと思い、俺は伸びをしながらダルそうに言った。


「ふふ、お茶をいれますね」


この日は、二人きりでお茶を楽しんだ。



翌日、俺たちは、各国に送る独立宣言文を書き、手紙として送った。

そし3日後、各国に手紙が届く予定の日に、俺たちはガベージ公国として、王国から独立した。

独立記念日として制定された日、ガベージの中心部では普段よりにぎやかだった。


王国は独立に反対してきたが、ユイリカ共和国やベスメル聖王国、ドラグナー竜王国、マキナ帝国などの諸外国は独立を認めたため、今後はガベージ公国として、各国と国交を結ぶことになる。


王国以外が独立を認めた理由については、いくつかあるがトリップパウダーや温泉宿の経営によって、経済的に自立しても問題ないこと、領地を実効支配していること、そして、俺たちが先日、王国騎士団を全滅させたことが大きかった。


王国は魔力によって序列が決まる風習があるように、魔法を重要視している。

結果として、王国は魔法兵という魔法を主体に戦う兵士が攻撃の要となっていた。

俺からしてみれば、非常に使い勝手の悪いものではあるが、あんなものでも各国にとっては脅威に感じる部分があるようだ。


「あの攻撃力だけはバカにできない面はありますけれども……。それにしては、あからさま過ぎますわ……」


俺の執務室の机の上には同盟締結を希望する手紙が置かれていた。

それだけではなく、婚約を希望する各国の王侯貴族からの釣書や手紙も大量にあった。

むしろ、こちらは各国の王族だけでなく、公爵や侯爵といった上位貴族からのものもある。


「これがラブレターみたいなものだと考えればモテモテだと喜ぶところなのでしょうけど……。全部、政略結婚を前提としたものなのですよね」


もちろん、釣書だけでなく恋文ラブレターも別途送ってくるところもあったので、モテモテというのもあながち間違いではないだろう。

俺自身、自分の顔は可愛いと思っているし、そのことが噂になっているのも知っているので、ありえない話とは言えなかった。


「とはいうものの、男とイチャイチャするのはちょっとまだ抵抗感がありますわね……」


身体こそ女性であるものの、今の俺が男のナニをナニしたり、ナニをナニされたりと言ったことを想像するだけで怖気が走るわけで、さすがに今は男と恋愛や結婚などを考えることは難しい。


「まだ、独立したばかりで不安定ですし……。同盟の話はともかく、婚約の方は全部お断りですわね」


俺は、執務室の窓から賑やかなガベージの街を見下ろしながらつぶやいた。


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