第20話 王国が襲撃してきましたわ
徴税官が尻尾を巻いて逃げかえってから一週間後、ダストボックス砦の向かいにある小高い丘には、王国の騎士団がずらっと並んでいた。
「リコリス・ローゼンバーグ公爵! 貴様は父親と共謀し、王国に反旗を翻すのみならず、税金をちょろまかすなどの数多くの悪行、決して許されるものではない! よって、貴様に我らが天誅を下しに来た!」
「どれも身に覚えのないことですわ。ワタクシのようにか弱い乙女に、そんな酷いことを言うなんて……」
俺は「きゅるん」という音が聞こえてきそうな感じで無実を訴えるが、騎士団の意思は揺るがなかった。
そもそも、王国に反旗を翻したのは父だし、父と共謀はしていない。
それに節税はしたけれども、税金をちょろまかしたりなどはしていない。
砦を奪ったが、それは聖騎士団が攻めてくるのが悪いのだし、教会が爆発したのも、彼らがちゃんと仕事をしないのが悪いのである。
「ふむ、どう考えても……、ワタクシに非はありませんわね」
「言い訳をするな! おとなしく認めろ!」
俺が無実を主張すると、それを『言い訳』と断じて、『罪を認め』させるという、なんとも横暴なことをするヤツらである。
こういうヤツらは、自分を常に正しいと思っているようなイカれた連中である。
これで認めたら認めたで、その罪についてドヤ顔で責めてくるのだから救われないヤツらである。
「事実でないことを認めろとか、冗談がお好きですこと。さすがは王国の騎士団の方々、脳みそまで筋肉になっておりますわ」
「ふんっ、劣等種の分際で俺たちに逆らうつもりか? 貴様らはおとなしく罪を認めて俺たちに従えばよいのだ! この女の振りした変態野郎め!」
彼らは、TSして女性となった俺を変態野郎と罵ってきた。
その行為はTSという神聖なる御業を汚す行為に等しく、まさに天に唾を吐くがごとき愚行であった。
「よろしい……。ならば戦争だ!」
TSを侮辱した罪は重い。
彼らは、その身をもって償うことになるだろう。
俺は
彼らに雨のようにニトログリセリンが降り注ぐが、特に気にする様子もなかった。
しかし、次の瞬間、鎧の金属が打ち合わさったことで火花が生じたのだろう、彼らの周囲に大爆発が起こった。
その爆発により、騎士団の9割が戦闘不能となった。
辛うじて動ける者も、ダメージが深刻なように見えた。
「やめてください! 私たちのような弱者を虐げて、何が楽しいんですか! そんな爆弾まで用意して……。私たちの故郷をメチャクチャにするつもりなんですか?!」
俺は、爆発させたのを騎士団のせいにして、彼らに訴えかけた。
しかし返事が無い、ただの屍の――。
「貴様ァァァァ! やりおったな!」
さきほどから話していた騎士団長と思しき人は無事だったようで、とても怒っているように見えた。
「濡れ衣ですわ。あなた方が砦を破壊するために持ち込んだ爆弾が誤爆しただけなのに、ワタクシたちのせいにするなんて……。酷すぎますわ!」
俺は相変わらず健気さを演出しながら、無実を主張するも、彼には通用しないようであった。
「偉大なる炎、原初の炎、深淵なる魔力よりあふれたる神秘の力、炎は全ての始まりにして、全てを終わらせるもの。大いなる光と熱にあふれし奇跡――(中略)――炎の力、今こそ顕現せよ。
彼はおもむろに呪文を唱え始めると、彼の手にソフトボール大の火の玉が生まれる。
せっかく生き延びたので、俺は彼に華を持たせようと詠唱が終わるのを待ってあげた。
王子の詠唱も大概長かったが、彼の詠唱はそれ以上だった。
「アリス、ちょっと時間かかるみたいなので、紅茶を淹れていただけます?」
「かしこまりました」
その5分以上にわたる詠唱の間、暇だった俺はアリスに頼んで紅茶を淹れてもらった。
そして、彼の詠唱が終わるころに、
それと同時に、彼の火の玉を霧散させた。
「なっ、馬鹿な!」
「あらあら、今日は風が強いですから、消えてしまわれたようですわ。いっそのこと出直してきてはいかがでしょう。今なら、そこに倒れている方々も商会の方に送っていただけますわよ」
「ええい、うるさい! こっちで何とかするわ! 覚えてろ!」
一人で敗走する騎士団長を俺は見送った。
死にかけた仲間を置いて逃げるなんて騎士の風上にも置けないヤツである。
仕方ないので、彼が回収に来るまで、死なない程度に回復をしてあげておくことにした。
結局、彼が馬車の集団を率いて回収に戻ってきたのは翌日の夕方だった。
「戻ってくるのが遅すぎますわ。これでは、助かる命も助かりませんわよ」
「うるさい! 貴様らは王国の威信をかけて、最強の戦力の無慈悲な攻撃をもって、絶対に滅ぼしてやるからな! 覚えておけよ!」
そう言い残して、騎士団長は団員を連れて逃げていった。
「あらあら、捨て台詞だけはレベルアップしていますのね」
逃げ去る彼を見送りながら、俺は大きくため息をついた。
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