第17話 王国で暗躍しますわ
先日見つけた温泉の前に温泉宿が建てられた。
ほぼ内装も整っており、あとはガベージのみんなにプレオープンで来てもらうだけだった。
「でも、その前にやることやらなきゃいけませんわね!」
俺は、さっそく手紙を2通書いて送った。
1通は両親宛のもの、もう1通は国王宛のものである。
「さて、うまく動いてくれるといいのですけれども……」
そんな俺の心配をよそに、3日後、俺の両親たちはダストボックス砦にやってきた。
追放されたときに俺は両親と縁を切られているので、実際には親子ではないのだが、手紙に「今まで育てていただいた恩に報いるために、近くで見つけた温泉にお父様とお母様を実質無料でご招待しますわ」と書いたところ、欲深――利に聡い父は、滞在期間中だけなかったことにするようだ。
そんな彼らを、俺とアリスとメイベルは砦で迎えた。
「お父様、お母様、ようこそいらっしゃいました」
俺も、父に合わせて縁切りされたことなど無かったかのように振舞う。
「久しぶりだな、リコリス。元気にしておったか?」
「はい、手紙でお伝えしました通り、ワタクシ、ここの皆様のリーダーのようなことをしておりますの。今日は、新しく温泉が見つかりましたので、これまでの感謝を込めて、お父様たちをご招待させていただいたのですわ」
「はっはっは。さすがは我が娘だ。追放されても支配者としての血は争えないということか!」
「左様でございますわね。お父様からは色々と手ほどき受けておりますもの。ふふふ」
上機嫌な父を見ながら、俺は微笑みを浮かべる。
「それでは、さっそく温泉へと向かいますわ。メイベル、砦の方はお任せいたしますわ」
「はっ、いってらっしゃいませ」」
俺は茶番劇を適当に切り上げて、両親を馬車に案内して温泉へと向かう。
メイベルは見送りのために砦に残ってもらった。
「なかなか様になっているではないか。これはお前の処遇も考え直した方が良いかもしれんな」
「そんな、恐れ多いですわ。ワタクシは追放された身、公爵家を継ぐのは難しいと思いますわ」
「はっはっは、心配するな。俺は王宮の灰色狐と呼ばれた策士。ちょっと無理を通すくらい他愛もないことだ」
「まあっ、さすがはお父様ですわね。私も見習わなくてはいけませんわ」
「はっはっは、そうだ。俺くらいの強かさが無ければいかんぞ!」
「ふふっ、まあ、お父様ったら」
温泉に行く馬車の中は、一見して和気あいあいとしたムードが漂っていた。
こうして、無事に俺たちは温泉宿へと到着した。
建設した温泉宿は、和風ではあるが、かなり豪華な造りになっていて、建物のあちこちにきめ細かい装飾が施されていた。
「おお、素晴らしいな! でもいいのかい? こんなところに
「もちろんですわ、お父様。今日はワタクシの両親への感謝の気持ちですもの。実質
そう言って、両親を宿の中へと案内する。
入口から入ってすぐのところにフロントがあって、受付係のメイベルが立っていた。
「いらっしゃいませ。リコリス様のご両親の方でございますね。どうぞ、こちらがお部屋の鍵となっております。ごゆっくりお寛ぎください」
「えっ?! あ、ああ」
父はメイベルの方を2度見して、驚いた表情で鍵を受け取り、部屋へと向かったようだ。
「驚いておりましたわね」
「ふふふ、そうですわね。ですが、こんなのはまだまだ序の口……。彼らには思いっきり楽しんでいただきませんと」
俺は思わず黒い笑みが漏れてしまっていた。
そして、今頃王宮では国王が顔を真っ赤にして騎士団を送り込む準備をしていることだろう。
その原因はもちろん、俺が国王に送った手紙が原因である。
「ローゼンバーグ公爵家は傍若無人なるヤロウダ王家に代わって改革を断行し、ローゼンバーグ王国の建国を宣言する! ついては、愚鈍なるヤロウダ王家は全員処刑だ!」
たぶん……。よく覚えていないが、こんな内容だったと思う。
この手紙を見た国王をはじめとした王家は、既に顔を真っ赤にして騎士団を派遣することだろう。
一方で何も知らないローゼンバーグ領の人たち騎士団が攻めてくるのを見たら、あっさりと白旗を上げるに違いない。
もっとも、俺が追放されるのを黙って見過ごした連中なのだから、多少痛い目を見たところで問題はないのだが。
いずれにしても、喧嘩を売られた王家、無駄足を踏まされた騎士団、見捨てられた領民、それら全員から恨みを買った彼らに戻る場所はない。
「リコリス様、先ほど王家から派遣された騎士団、総勢3000名の進軍をうけて、ローゼンバーグ領が降伏いたしました。領民には、公爵は彼らを捨てて亡命したという噂を流しておきました」
「報告ありがとう。そしたら、引き続き温泉宿の受付嬢をお願いしますわ」
メイベルは俺の頼みで、いったん公爵量の偵察に向かってもらったのだが、報告の内容を聞く限りでは、予想以上にうまく行ったようだ。
「さて、お父様とお母様。もう逃げ場はありませんわよ。ワタクシが追放されたときに助けるどころか、親子の縁まで切ったあなた方には、たっぷりとお灸をすえさせていただきますわ」
俺は準備が着々と整いつつある状況に黒い笑いが止まらなかった。
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