第16話 温泉を掘り当てますわ

「ガベージもだいぶ落ち着きましたわね」


「これもリコリス様のご尽力のお陰でございます」


俺は、前世の記憶を取り戻してから、初めてゆっくりとした日々を過ごすことができるようになった。

婚約破棄されてガベージに送られ、襲ってきた衛兵を返り討ちにしたら、教会に因縁を付けられ、挙句には聖騎士団を送られる始末である。

もっとも、聖騎士団が全滅したおかげで、教会の勢力がかなり弱まっていて、しばらくは物騒なことができなくなったのは、思わぬ収穫と言える。


「そろそろ、ワタクシも権威を必要になってきましたわね」


外患の憂いもひと段落し、トリップパウダーの売り上げも好調となった今、次に必要なのは権威だろう。

女王と呼ばれてはいるが、それはガベージ内での話であって、公式には俺もガベージの住民の一人であった。


公爵令嬢といっても、それは親の権威に紐づいているに過ぎない。

爵位を引き継げれば、公式に認められた王国の権威となる。

かといって、ガベージに追放されてしまった今となっては、まともな方法で爵位を継ぐことも難しいだろう。


俺は、しばしの間、思考を巡らせ、答えを導き出した。


「よし、温泉を掘り当てますわよ!」


「温泉……ですか?」


「天然のお風呂ですわ。この地域は四方が山で囲まれてますので、十分期待できますわよ。そして、爵位を手に入れるのですわ!」


「温泉で稼いだお金で爵位を買う、ということでしょうか?」


アリスが不思議な顔をしながら訊ねてきた。


「いいえ、それは、お金がもったいないのでしませんわ。もっと有効な使い方がありますのよ」


「なるほど……。さすがはリコリス様。私のような浅慮な人間には窺い知ることのできない深謀遠慮、流石でございます」


「さて、そうと決まれば、さっそく明日から調査開始ですわ。ガイとミーリカ、ユーリカ、クローディア、それからトニーとコリン、あとはシャーリーとレイナにも声をかけていただけますか? 総勢10名で温泉探しですわよ」


「かしこまりました」


アリスはお辞儀をして、執務室から出ていった。


翌日、俺たちは領主の館の前に集合し、3台の馬車を使って手分けして温泉を探しに行くことにした。

俺のグループがミーリカとシャーリー。

ガイのグループがトニーとコリン。

アリスのグループがユーリカとクローディア、レイナ。

という形にグループ分けをした。


グループ分けが終わったところで、俺はL字に曲がった2本の鉄製の棒を全員に渡す。


「これは……」


「これはダウジングロッドというものですわ。これを両手に持って歩いていると、目的の近くに行ったときに、こうやって先がくっつくのですわ」


俺はダウジングロッドの使い方を説明する。

しかし、誰も意味が分かっていないようだった。


「これって、普通に動かせばくっつくんじゃね? 意味あるのか……?」


ガイが、当然のようなツッコミを入れる。

もっとも、俺たちのように超能力が使えれば、必要ないのだが、こういうのは気分が大事なのだ。


「意識してはいけませんのよ。と言っても、皆様は超能――魔法が使えますもの、あまり必要ではありませんが、念のため、ということでお渡ししておくだけですわ」


「ふぅん、別に勘で探してもいいんだろ? 熱い水が出るところならいいのか?」


「……それで構いませんわ。見つけたら、湧きだした温泉の水を採集して持ってきてくださいな。もちろん、場所もちゃんと覚えておいてくださいね」


ガイは、本当に勘で見つけそうである。

ともかく、俺たちは手分けをして山の方へと向かった。


俺のチームはミーリカにダウジングロッドを持ってもらい、俺とシャーリーが透視能力で温泉を探す。

特にシャーリーはただの透視ではなく、物体の温度まで検知できるという優れものであった。


「リコリス様! 発見しました!」


さっそく、シャーリーが発見の報告をしてくる。

ミーリカのダウジングロッドは特に反応しなかったが、慣れないうちは難しいので、参考程度だ。


「えーと、深さと温度はどのくらいですか?」


「深さは5mくらいですね。温度は95度くらいです」


距離は問題ないが、温度が高すぎるようだ。

だが、高い分には水を入れて下げられるので、あまり問題は無いだろう。

俺は温泉の水を汲んでおいた。


「さて、もう少し探してみましょうか」


その後も歩き回って探してみたが、なかなか見つからなかった。


「そろそろ帰りましょうか」


俺は時間になったので帰ろうとした。

その時、ミーリカのダウジングロッドに反応があった。


「あ、ありました! この先です!」


俺たちは、ダウジングロッドの示す方向に向かう。

すると、そこは少し奥まったところにあるが、温泉が地表に湧き出していた。

そして、湧き出した温泉は近くの池のようなところに貯まって、ちょうどいい温度になっていた。


「こ、これは! 源泉かけ流し天然露店温泉が行けますわ!」


何もしなくても温泉になる。

まさに自然の生み出した奇跡と言えるものが目の前にあった。


「せっかくですし、少し入っていきましょうか!」


「「はーい!」」


俺たちは服を脱いで、軽くお湯で体を清めてから温泉に浸かった。


「ふはぁ、ごくらくですわぁ~」

「きもちいいですぅ~」

「来て良かった……」


温泉は、これ以上ないくらい適温で、外の少しひんやりとした空気が顔に触れて、火照った身体の熱をちょうどいい形で逃がしてくれる。


こうして温泉を十分に堪能してから帰ったのだが、温泉効果のお陰で肌が行く前よりツヤツヤになっていて、温泉を堪能してきたことがバレてしまった。


「リコリス様、ずるいです!」

「ミーリカぁ、酷いよぉ」


アリスとユーリカに思いっきり責められて、後日、温泉宿を建築するついでに、みんなで入りに行くことが決定した。


ちなみに、ガイのグループが発見した温泉は硫黄泉と呼ばれる健康増進効果のある独特の臭いのある温泉で、アリスのグループが発見したのが、炭酸泉と呼ばれる、疲労回復効果のあるシュワシュワの温泉だった。

俺たちが発見したのは重曹泉と呼ばれる美肌効果のある温泉だった。


全員で話し合った結果、俺たちのグループの発見した温泉を開発することが決まった。

最終的には多数決となったが、男女比を考えれば当然の結果と言える。


こうして、ガベージの近くに新たに温泉宿が作られたのだった。

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