第15話 ヤバい人たちが迫ってきましたわ
ガベージの人たちが全員魔法を使えるようになって、トリップパウダーの製造がようやく軌道に乗せられる見通しが立った――などと俺たちが喜んでいると……。
「リコリス様、大変でございます!」
現在販売停止中のトリップパウダーを王都販売員であるメイベルが血相を変えて執務室に入ってきた。
「どうしましたの? メイベル」
「大変でございます! ダストボックス砦に向かって、王国の人が大量に迫ってきております!」
また、どこぞの物騒なやつらが攻め込んできたのか、と思って憂鬱になる。
「はぁぁ……。今回はどこの物騒な連中ですの?」
「いえ、王都に住んでいる平民の方々です」
なぜか、平民が俺たちの砦に攻め込んで来ようとしているようだった。
「そうしますと、王国が送り込んできているのでしょうか?」
「いえ、彼ら独自の判断のようです」
王国の平民……フリーダム過ぎであった。
「王国には何か動きがありまして?」
「それがですね……。彼らを追って王国騎士団がこちらに向かっております」
メイベルの報告を聞いても、俺には状況が全く分からなかった。
「うぅん、ちなみに彼らの目的は……わかります?」
「はい、平民の方はトリップパウダーの購入だそうです。それで騎士団の方は、彼らの捕縛だそうですね」
「購入って……。現在販売停止中にしておりますわよね?」
「はい、ですが、どうやら販売再開されるという噂が王都に流れていて、我先に購入しようしているとか。ただ、彼らが武装していて、それが騎士団を向かわせた理由のようですね」
「武装?! もしかして、襲撃するつもりなんですの?」
平民相手なら襲撃されても問題はないが、武装しているなら警戒は必要だろう。
しかし、そういう話では無いようだった。
「いえ、誰が先に購入するか決めるために戦うようですね」
意味がわからなかったが、メイベルの説明によれば、誰かが自分より先に並んでいる人を襲撃するために武装したことがきっかけになって、自分も自分も――と結局全員武装することになったようだ。
「しかたありませんわね。彼らを迎え撃ちましょう。メイベルは先に砦に向かっていただけますか?」
「かしこまりました」
メイベルは一瞬で姿を消す。
「さて、ワタクシたちも準備いたしましょうか。アリスは……先にトニーとコリンを呼んできてくださいますか? その後はトリップパウダーを馬車に積み込んでくださいませ」
トニーは先日の超能力薬を最初に飲んだ少年で、コリンは彼の親友である。
「かしこまりました!」
そう言って、アリスが部屋から出ていった。
そして、彼女が出ていってから15分ほど経った頃、執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
そう短く答えると、扉が開いて二人の少年が中に入ってくる。
「リコリス様! 本日はご機嫌麗しう。何か御用でしょうか?」
トニーが恭しくお辞儀し、隣のコリンがそれに倣う。
ちなみに、二人ともまだ8歳である。
初々しいコリンの振る舞いに対して、トニーがあまりにも女性慣れしているように感じられた。
「コホン、本日お呼びいたしましたのは、既にお聞き及びかと思いますが、こちらに向かって王国の方が押し寄せておりまして、お二人には彼らの対応をおまかせしたいのですわ」
「光栄でございます。リコリス様。では出発の準備に向かわせていただきます」
トニーは恭しく礼をすると、執務室から颯爽と出ていく。
そんな彼を、コリンが慌てた様子でついていった。
こうして、俺、アリス、ガイといういつものメンバーにトニーとコリンを加えた二人で砦に向かう。
砦から少し離れたところに、こちらへと向かってくる集団が確認できた。
「さて、それでは迎え撃ちますわ。まず、アリスとガイは販売所の設営をお願いしますわ。机を出して、その脇にトリップパウダーを置いてくださいな。メイベルは売り子をお願いしますね。それから、トニーとコリンは砦の上から、魔法で彼らを押さえて欲しいんですの」
「「「かしこまりました!」」」
俺の言葉に、全員が頷いて、所定の位置に移動する。
「それから、トニーは『手』を使って、コリンは『人形』を使って、列を乱すような人や暴れた人を押さえつけてくださいませ。アリスとガイは、二人が抑えきれなかったときに対応をお願いします。多少、痛い目を見てもらうのは構いませんが――殺してはいけませんよ」
「「「かしこまりました!」」」
指示をした4人が頷いた。
そして、コリンは俺にそっくりの土人形を10体作ると、それらはゆっくりと動き始めた。
「……この『人形』の見た目は変えられませんの?」
「僕は……リコリス様以外は愛せませんから……」
俺にそっくりな人形をどうにかして欲しかったのだが、その答えは唐突な愛の告白であった。
その言葉に、俺の心がキュンとなってしまう。
8歳の男の子の告白に15歳の俺がときめいてしまったことに動揺が走る。
「あ、あの。そ、それは嬉しいんですけれども、ちょっと突然すぎるというか……」
「あ、いえ、好きなことは好きなんですけど……。憧れのお姉さんみたいな感じで……。それで、まだ『人形』は想いが無い形で作れなくて……。ごめんなさい!」
「あ、あら。そうだったのですのね。いいえ、気にされなくても問題ございませんわ。おほほほほ」
コリンのような可愛い男の子と、あんなことやこんなことをしている妄想をしてしまった俺は、罪悪感が大きすぎて、取り繕うだけで精いっぱいだった。
「ま、まあ。それでは、皆さん。彼らを全力で迎え撃ちますわよ!」
既に、彼らは砦の目の前まで迫っていた。
トニーとコリンは器用に列に並ぶ人を誘導し、メイベルが手際よく販売してくれたおかげで、大きな問題もなく全員が購入して帰っていった。
後から遅れてきた騎士団の人たちも、彼らがおとなしく並んでいるのを見て安心したようだ。
もちろん、彼らもトリップパウダーを買っていった。
しかし、国民の暴動を止めるために向かったはずなのに、人気のトリップパウダーを購入してきたことが、後でバレてしまい全員謹慎処分をくらったそうだ。
そのせいで、騎士団ではトリップパウダー禁止令が発令され、まずい飯しか食えなくなったことで辞める人が増えたらしく、結局1か月でトリップパウダー禁止令は取り下げられたらしい。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。面白いと思いましたら☆評価をお願いします。
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