第13話 特産品を作りますわ

外貨の獲得。

正しくは、ガベージとして収入を得る産業を作るのが喫緊の課題であった。


ある程度は自給自足的な生活はできているものの、砦の維持などを考えると、お金はどうしても必要になるため、避けて通れない問題であった。


「やはり、売るものは人の欲に訴えるものが良いかと思いますのよ」


「欲ですか?」


「そう、食欲、睡眠欲、性欲。これらに訴えかけるものを作るのが安定した収入につながるのですわ」


俺の言葉を聞いたガイは、自信満々な表情になった。


「そうか、ならば性よ――」


「ですが、性欲はだめでしてよ」


しかし、俺はあっさりと、性欲と言いかけた彼の出鼻を挫いた。


「当たり前ですわ。やっとガベージでの生活が安定してきたのですもの。これで性欲を産業化して、今度はノク〇ーンに追放されたらたまったものではありませんわ」


「それでは……食欲ですか?」


がっくりと肩を落とすガイを無視して、アリスが私に尋ねてきた。


「さすがアリスです。そう、画期的な調味料を作って売り出すのですわ!」


「調味料ですか……。どのようなものでしょう……」


「もちろん、どんな食材とも合う。素晴らしい調味料ですわ」


やはり、ここで料理チートは外せないだろう。

俺は前世の知識を元に、どんな食材とも合う素晴らしい調味料があることを知っているのである。


それは、マヨネーズ――。


だと思っただろうか? それは安易に過ぎるというものだ。

そもそも卵と酢と油を混ぜただけのものなど、すぐに真似されて終わりである。

前世の小説にも、マヨネーズを売って荒稼ぎするような作品があったが、はっきり言って眉唾である。


「ワタクシたちの売り物は――こちらですわ」


そう言って、白い粉の入った瓶を取り出した。

これは別にヤバい薬とかではない。

グルタミン酸ナトリウム、俗にいう旨味調味料というヤツである。


「こんなので美味しくなるんですか?」


「まあまあ、百聞は一見に如かず、よ」


そう言って、俺はサラダに振りかけて、アリスに食べさせる。


「もぐもぐ……。え、えええ? こ、これは! う、うまいぞぉぉぉぉ!」


あまりの美味しさに、アリスがキャラ崩壊したような叫び声を上げていた。


「いかがかしら? この調味料の力は」


「す、素晴らしいです。リコリス様! これは大ヒット間違いなしです!」


「ふふふ、ありがとう。私たちは、これを売ってお金を稼ぐのよ!」


「ちなみに……、この商品は何という名前なのでしょうか?」


俺はアリスに商品名を聞かれて悩んだ。

もちろん、この旨味調味料自体は前世のものだから名前はある。

しかし、それをそのまま使うのは問題があると思ったので、少し考えてみることにした。


「そ、そうですわね……。トリップパウダーなんてどうでしょうか? トリップしちゃうくらい美味しい粉ってことで」


「まあ、素晴らしい名前ですね! 早速、王都を中心に販売してみましょう」


やたらとノリノリで売りたがるアリスによって、あっという間に販路が作られた。

そもそも、彼女はメイベルをはじめとして何人かを王都に送っているので、意外と販売開始までは早かった。


「リコリス様! 例のトリップパウダーですが、初回販売分は完売いたしました」


一週間後、トリップパウダーを1000瓶作った俺は、メイベルに預けて王都で販売してもらった。

10瓶程度は売る時に試してもらう用にして、残りの990瓶を1瓶2500ゴールド(1ゴールドが約1円)で販売することにした。

たったの1週間で250万円近い売り上げを上げたことになる。


「すごいです! 私、こんな大金初めて見ました!」


アリスは、俺の机の上に置かれた大量の金貨を見てはしゃいでいた。


「この分だと、もっと稼げそうですわね。材料の仕入れも考えないといけませんわ」


「えっと……。材料は何を使っているのでしょうか?」


「小麦よ。と言っても、1瓶で小麦粉500gくらいは必要かしらね」


「え? ええ! それだけで作れるんですか? それだと材料費って、50ゴールドくらいじゃないですか!」


この世界は前世の時代と違って、農作物は全体的に安価に仕入れられる。

しかし、大量に作ることを考えると、現状では俺しか作れないことが問題だった。


「材料費は、それほどではないのですが、作れる人が現状ワタクシしかいないのが問題ですわね……」


「他の方に教えるのは難しいのでしょうか?」


「そうね。これを作るには、私の教えた魔法が必要になるのですわ。まだ、魔法が使える人はガベージの中では数名ですから、これでは大量生産は難しいですわね」


「そうですか……残念です」


アリスも大量生産が難しいと理解したのだろう、少ししょんぼりしてしまった。


「でも、せっかくの機会ですもの、この際ガベージのみんなも魔法を使えるようになってもらいましょう」


「ほ、本当ですか? でも、みんなって……。まだ使えない人って100人以上いるんですけど」


いまだに魔法が使えるのが数名である現状を見て、いきなり全員と言い出した私の言葉を信じたいと思っていても、信じきれないという様子だった。


「大丈夫ですわ。少しトリップパウダーの生産が遅れますけれども、半月もあれば、皆さん魔法を使えるようになってますわ」


「そんなに早く……。わかりました。メイベルには、半月の間は生産が追い付かないので販売中止にすると伝えておきます」


「よろしくお願いするわね」


こうして、俺の次のミッションは超能力薬の再現に決まった。


しかし、この時の俺は、この販売中止が後で恐ろしい事件に発展することが、全く予想できていなかった。

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