第12話 あきらめの悪い聖騎士団を粛清しますわ

聖騎士団が撤退した翌日、てっきり王都まで逃げ帰ったのかと思っていたが、意外にも砦近くの丘に陣を張っていた。


「あきらめの悪い方ですこと」


「いかがいたしますか?」


「そうですわね……。とりあえず、向こうの出方を伺いましょうか」


俺たちは、彼らがおとなしく引き上げてくれることを祈って、出方を待った。

しかし、三下の悪役の捨て台詞を吐くような人間がおとなしく引き上げるはずもなかった。


「ふはは、ここなら貴様らの天罰とやらも使えまい! ここから砦ごと貴様を粛清してやるわ!」


団長の言葉に、俺はため息をついた。


「向こうはやる気みたいですわね……。そもそも勝てるとでも思っているのかしら……」


「では、こちらも打って出ましょうか?」


アリスの言葉に、俺は考え込んだ。

しかし、今の状況を考えると、多少の犠牲が出るのはやむを得ないだろう。


「しかたありませんね。メイベルとクローディアは遠隔で狙撃を、何人か仕留めてください。アリスは、その後で混乱した敵の団長を『料理』しちゃってください」


「「「かしこまりました!」」」


俺の指示に頷いた3人のうち、まず動いたのはクローディアだった。

彼女は腰に付けたカバンから大量のゴルフボール大の鉄球を取り出して、宙に浮かせる。

それに一歩遅れて、メイベルが弓をつがえる。

メイベルは呪文を唱えている魔法兵の一人に精神領域サイコスペースを細長く伸ばすと、矢を放つ。


放たれた矢は、その作られた軌道に沿って一直線に魔法兵の一人を貫いた。

一瞬で力尽きた魔法兵を見た周囲に動揺が走り、呪文の詠唱が止まる。


それに遅れて、クローディアの浮かせた鉄球が騎兵に向かって雨のように降り注ぐ。

超音速で降り注ぐ鉄球は騎兵たちの鎧を貫き、全身に穴をあける。

それによって、先頭にいた騎兵数名の命が失われた。


「怯むな! 突撃せよ!」


混乱する兵を鎮めるため、また、その場に留まっては、さらなる攻撃の餌食になると悟った団長が突撃を指示する。

昨日、無様に天罰という名の電撃をくらったにもかかわらず、だ。


「恐れるな! 敵は少数だ! 突き進――」


味方を鼓舞する団長の叫びは、しかし、最後まで口から出ることは無かった。

団長の身体は分厚いプレートアーマーに覆われているにも関わらず、一瞬で全て剥ぎ取られていて、その上には彼の生首が転がっていた。

身体の方は首が無いまま立っていて、その脇には両手に包丁を持った少女が立っていた。


少女は団長を見つめる聖騎士に微笑むと、次々と包丁を振るっていく。

そして団長だったものは、胸肉、モモ肉、ロース、ヒレ、ハツ、レバーなどにきれいに切り分けられていた。


あまりにも美しい包丁さばきに、周囲の聖騎士は呆然としていた。

しかし、すぐに我に返って状況を理解した。


「敵襲だ! 団長がやられたぞ!」

「囲め!」


残った聖騎士たちは盾を構えながら、アリスを囲む。

しかし、次の瞬間、彼女の姿は見えなくなっていた。


「くそっ、どこに行きやがった!」

「探せ!」


彼らは、アリスを見つけるために血眼になって周囲を探し回っていた。


「相変わらず、見事な『料理』ですわね」


俺は、華麗なアリスの包丁さばきをみて驚嘆する。


「もったいないお言葉にございます」


先ほど囲まれていたはずなのに、何事もなかったかのようにアリスは俺の隣に立ってお辞儀をした。


「いたぞ! あそこだ!」

「総員、突撃ぃぃ!」


しばらく周囲を探していたが、砦の上のアリスを見つけたようで、こちらを指さしながら猛然と突撃してきた。


「ミーリカ、ユーリカ。今日もお願いできるかしら?」


「「お安い御用でございます」」


血気盛んに砦に向かってくる聖騎士たちだったが、昨日と同じように砦の前に来たところで電撃を浴びてしまう。


「あらあら、学習されない方たちですこと。お猿さんでも、ワンちゃんでもこれくらいは学習しましてよ」


「あばばばば、おのれぇぇぇ!」


「くそっ、覚えていやがれ! 総員撤退!」


昨日と同じように、何とか無事だった人が無事でなかった人を引きずって逃げていく。

しかし、連日のことで学習したのか、今回は完全に引き上げることにしたようだ。


聖騎士たちが撤退したことで緩やかな空気が流れていく。


「ふぅ、やっと帰られましたわね」


「お疲れ様です。リコリス様」


「ええ、皆さんも、お疲れさまでした。今日は様子見で、ここに泊っていきましょうか」


「「「かしこまりました」」」


「皆さんも、おかけになって。少しお茶でも飲んで休憩しましょう。アリスも一通り給仕したら、座っていただきましょう」


「かしこまりました」


俺たちはささやかな勝利を祝って、みんなでお茶をしてゆったりと過ごすのだった。


翌日、聖騎士たちの姿はどこにもないことを確認して、俺たちはガベージに戻ることにした。

ただ、警戒は続ける必要があるため、領民が交代で砦の監視に当たることとなった。


「さて、しばらくは安泰ですわね。あとは……当面の課題である外貨の獲得ですわ!」


領主の屋敷に戻った俺は、次なるミッションに着手することにした。

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