第11話 聖騎士を撃退しますわ
砦を手に入れた俺たちは、みんなの力を借りて、その日のうちに砦として運用できるようになった。
もっとも、昨日の今日で取返しには来ないと思っていたので、焦ってはいなかったが、聖騎士の動向もあるので、悠長にしている暇はなかった。
着実に砦での迎撃準備を進めて3日ほど経過した。
その日は、朝から物々しい雰囲気であったが、メイベルが聖騎士団が進軍を開始したとの報せによって、より一層、緊張感が高まっていった。
「ホントに、あんなくだらない理由で攻めてくるなんて、どうかしておりますわ」
「全くです、リコリス様。どのように追い払いましょうか?」
砦の上で二人して呆れていると、メイベルが敵軍の情報を説明してくれる。
「敵は合計で100名ほど、うち80名が騎兵、残り20名が魔法兵となっております」
敵の編成を聞いて、俺は相手の狙いを察した。
「うーん……。相手は速攻を狙っているようですわね。無駄なことですけれども」
「速攻でございますか?」
「ええ、こちらの準備が整う前に襲撃、そのまま制圧するつもりなのでしょうね。だから、機動力のある騎兵を中心として、攻撃力のある魔法兵を少し加えた編成なのでしょう。もっとも――メイベルがいる以上、速攻など成功するはずもありませんけど」
自分たちの情報が届く前に攻め込む方法は、自分たちの被害を最小限にする目的であれば、極めて合理的である。
しかし、
「問題があるとすれば……。この砦が落ちていること、それが向こうに伝わっているかどうかですわね」
「あれから3日も経っておりますし、伝わっているでしょう」
俺の懸念に、アリスは肯定の意を示した。
しかし必ずしも、そうなっているとは限らないと考えていた。
「ここの守りは王国軍です。しかし、彼らは教会の所属……。そこの間で、どの程度の連携が取れているかですが……。ワタクシの予想では取れていないと思われますわ」
「まさか王家と教会が敵対しているのですか?」
「うーん、そういう訳ではありませんけど……。この砦を奪われたのは、王国にとって失態でもあります。教会とは協力関係にあるとはいえ、別組織ですから。弱みを安易に見せるような真似はありえませんわ」
「なるほど……」
「いずれにしても、彼らがここに来て、どのように動くかを見ればわかるでしょう。初手は……。ミーリカとユーリカ、あなたたちにお願いいたしますわ」
「私たちでございますか? ですが、私たちは……」
「大丈夫ですわ。無防備に近づいてきた場合だけ、お願いしますわ。そうでない場合は……メイベルとアリス、それから、クローディアもお願いできますか?」
「「「かしこまりました!」」」
アリスとメイベル、ミーリカとユーリカ、クローディアは会釈をして了解の意を示した。
しばらくして、騎士団の姿が見えてきたため、俺たちは砦の上で身をかがめて様子をうかがっていた。
「どうやら、情報は届いていないようですね。暢気にこちらに向かってきているようです」
「予想通りですわね。それでは早速、ミーリカ、ユーリカ。準備をお願いしますわ」
「「はい!」」
俺の号令に二人は砦前の20m四方くらいの範囲に
そんなことも知らずに、騎士団は砦の前に立つ。
その先頭にいた団長と思しき人間が砦に向かって大声を上げる。
「我々は、異端の徒であるリコリス・ローゼンバーグを粛清に来た聖騎士団である。速やかに砦の扉を開けよ!」
俺は二人に「待て」の合図をして、静かにするように伝える。
しばらくして、少し苛立った団長が再び叫んだ。
「聞こえぬのか! 我々は神に仕える聖騎士団であるぞ! おとなしく砦の扉を開けて、我々を通さぬか!」
しかし、俺たちは沈黙した。
さらに苛立った団長はさらに声を荒げる。
もはやぶち切れ寸前であった。
「貴様ら! 神の使いである我々に逆らうなど、貴様らから先に粛清してやるわ! 全軍、突撃――」
「あらあら、これはこれは、変態騎士団の皆さまではございませんこと」
彼らが強行突破しようとした瞬間を狙って、俺は砦の上から顔を出した。
「リコリス・ローゼンバーグ! 男同士の恋愛を賛美する原因を作った貴様を粛清する!」
「あらあら、それだって一つの愛の形ですわよ。それに、あなた方の教えも大して変わらないではございませんこと」
「何! 我々の教えを侮辱するか?!」
怒り心頭の彼らを煽るように、俺は教会の矛盾を指摘する。
「だって、男同士はダメなのに、女同士はOKなんて、差別じゃありませんこと? それに……男女の恋愛はOKでも、結婚相手を奪い取るのもOKなんて、節操がなさすぎではありませんか? さすがに天罰が落ちますよ?」
そう、聖愛法教の教えによれば、BLはダメなのだが、GLやNTRは問題ないのであった。
婚約者をNTRしたフローラ嬢も彼らの教義的にはOKだというのだから救われない。
俺は、改めて酷い教えだなと思った。
「貴様に我々の教えの何がわかる! そもそも天罰が下るのは貴様の方だ! 俺たち神の使いの手によってな!」
俺は、彼の言葉が終わるのを待って、ミーリカとユーリカに合図をした。
「行くぞ! 全員突――あばばばばば」
突撃しようとしたところで、聖騎士団に怒涛の電撃が降り注いだ。
「あらあら、どうやら天罰が下るのは、やはりあなた様方のようですわね。ふふふ」
「くそっ、総員撤退!」
聖騎士団はかろうじて動ける数人が残りの人間を引っ張っていく。
俺たちは、彼らが無様に撤退する様を砦の上から眺めていた。
「ほらほら、早く撤退しないと、また天罰が落ちるかもしれませんわよ」
「くそっ、煩いわ! この悪魔め! 覚えていやがれ!」
三下の悪役が言うような捨て台詞を吐いて、聖騎士団は撤退したのだった。
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