第8話 真実の口は嘘つきですわ

「あの爆発がワタクシの仕業ですって?!」


教会が爆発した事件から一夜明けて、どうやら王国では俺があの爆発の首謀者だという噂が立っていた。


「はい、それで王国の監査官が改めて事実確認に来るそうです。『真実の口』を携えて」


「真実の口?」


「はい、嘘を見破る古代の秘宝らしいのですが、それを使って尋問をするそうです。王国も、今回の件はかなり事態を重く見ているようですね」


俺が訊ねると、アリスは丁寧に説明してくれた。

今回は王国も俺を疑っているのだろう、その本気度がうかがえた。


翌日、『真実の口』を携えて王国の監査官がやってきた。

『真実の口』はライオンの頭を模した彫刻のようなもので、いわゆる口に手を突っ込んだまま嘘をつくと抜けなくなるというものと思われた。


「初めまして、リコリス・ローゼンバーグ様、エンジョー王国監査官のロベルドです。本日は、こちらの『真実の口』を使って審問を行わせていただきます」


そう言って、恭しく礼をする。

しかし、俺のことを疑っていることもあり、俺に対して圧をかけてくる。


「これはこれは、ご丁寧に。さっそく始めましょうか」


「それでは、手を――」


そう言って、私は『真実の口』の前に座ると、思いっきりライオンの口の中に手を突っ込んだ。


パキッ


『真実の口』の中から何やら音が聞こえたが、それを聞いた監査官の顔色が変わる。


「ちょっと、何をやってるんですか?! 手を引っこ抜いてください!」


「えっ?」


俺は慌てて手を引っこ抜くと、当然ながらするりと抜けた。


「ああもう、ちょっと、壊さないでくださいよね! ――あ、部品がちょっと外れただけか。これならこうして……っと」


監査官は『真実の口』のライオンの口の中に腕を突っ込むと、何やらいじっているようだった。


「これで大丈夫です。いいですか? 手をライオンの頭の上に置くんです。口の中に突っ込んじゃダメですからね! 嘘をついたら、口の中から水が噴射しますので!」


「あらあら、それは失礼いたしましたわ。ワタクシ、ガベージに追放されるような田舎者ですので、使い方がわかりませんでしたわ」


「もう、それじゃあ、改めて手を置いてください」


俺は、素直にライオンの頭に手を置いた。


「それでは、リコリス様。あなたは昨晩の教会を爆破しましたか?」


「いいえ。教会は爆破しておりませんわ」


俺は監査官の質問に正直に答えた。

当然ながら、『真実の口』は特に反応を示さなかったが、そのことに監査官は驚いた表情になる。


「え? 反応なし……? そんなはずは……。それなら、あなたは教会の爆破に使われた爆弾を作りましたか?」


「いいえ、爆弾などという恐ろしいものを、ワタクシのような淑女に作れるわけがございませんわ」


再び監査官が質問をしてきたので、俺は再び正直に答えた。

当然ながら、何も起こらないはず……だったのに、何故か口から水が噴き出した。


「ぐああああ。まじかぁぁぁ!」


俺の服が水浸しになってしまったが、そんなのお構いなしとばかりに監査官が勝ち誇ったように宣言した。


「やはり、お前が爆弾を作って、教会を爆発させたんだな!」


「いえいえ、ワタクシは爆弾を作っておりませんわ!」


手をそのままにして、俺は無実を主張した。

今度は、『真実の口』は何も反応しなかった。


「ほ、ほら! やっぱりワタクシは爆弾を作っておりませんですのよ!」


「えぇぇ? それじゃあ、さっきは何で……」


俺は、ここが正念場と思って監査官を畳みかける。


「ほらほら、やっぱりワタクシは無実でしてよ。こんな淑女のかがみみたいな……」


しかし、言い終える前に『真実の口』から噴射された水によって妨害されてしまった。

監査官も、いつの間にか冷ややかな目で俺を見つめていた。


「くそぅ、この淑女を水びた……」


そして、再び噴射される水によって妨害された。


「くっ、ワタクシは男でしてよ。ですが、爆弾など作っておりませんわ!」


無事に言い切ることができたが、監査官は先ほどの冷ややかな目ではなく、何かおぞましいモノを見ているかのような目になっていた。


「ほ、ほら、ワタクシは無実でしたわ。わかってくれましたわよね!」


「や、やめろ! 近づくな! 男なのに、そんな気色悪い喋り方するな!」


俺が、無実を主張しようと1歩近づくと、監査官は1歩後ずさった。

このまま、俺がオカマみたいに見られるのも癪だったので、手っ取り早く証拠を見せることにした。


「わかりました。私が服を脱げばいいのですよね! それで万事解決ですよね!」


「やめろぉぉ! 俺は! ノーマルなんだ! 男のハダカなんて見る趣味はないんだ!」


「何をおっしゃりますの? ワタクシ、殿方を愛する淑女でございますわよ」


「うげぇぇぇ、喋り方が気持ち悪い。男のくせに殿方を愛するとか……。もしかして、服を脱いで……俺を襲うつもりなのか?!」


手っ取り早く証拠を示して、安心させようと思ったのだが、監査官はますます憔悴してしまった。


「何をバカなことをおっしゃいますの? あなたが、私を男だ、などとあらぬ疑いをかけるからでございますわ」


「何が、あらぬ疑い、だ! 『真実の口』がお前が男であることを証明しておるだろうが! やめろ、近づくな! うわぁぁぁぁ!」


とうとう、監査官は『真実の口』を置いたまま、転がるように帰っていってしまった。


後日、王国中でリコリス・ローゼンバーグが実は男で、男であれば誰でも手籠めにするという噂が立っていた。

さらには、それを助長するように『女装公爵リコリスの毒牙』というBL小説が売れまくったことにより、ガベージにはそれ以降、男性が来なくなってしまった。

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