第4話 側近を選びますわ
「ううう、憂鬱ですわね」
選別試験当日、俺は朝から頭を抱えていた。
何回も言っていたこととはいえ、120人の中から数人を選ぶわけである。
実際に、それを目の当たりにすれば、人は羨んだりするものである。
女王にさせられた挙句、不満がでて革命の上に処刑などというテンプレな展開で女の子の身体を手放すのは何としても避けたかった。
そんな俺の様子をじっと見ていたガイは、多くの人を不合格にしないといけないことに心を痛めている優しい女王だと思っているだろう。
「そこまで気にする必要はない。あの後、みんなには納得させているからな。」
どうやら、彼は彼なりに励ましてくれているようであった。
「それに、リコリスを女王から追いやろうとするやつがいたら、俺が切り捨てるから問題ない」
「悪いですけど……、それは問題ありまくりですわ……」
こいつは俺の演説を聞いていたのだろうか。
「ワタクシ、前に演説で不満があるなら女王の座を降りると申し上げたかと思いますが……」
「ああ、もちろん聞いていた。だがしかし、不満を言うヤツを斬り捨ててしまえば、不満は無くなる。実にシンプルな理屈だ。だから、お前は女王として、俺たちを導いてくれるだけで十分だ」
ガベージの人間からの信頼の篤い男だと思ったが、実は単なる狂犬だったのではないかと疑ってしまう。
そもそも、彼が信頼されているのは、信頼されない人間を切り捨てたのではないか、そう思ってしまうような発言だった。
俺が、そんなことを考えながら、ジト目で彼を見ていると、急に焦った様子になった。
「あ、いや、俺は何もしていないぞ! さっきのも売り言葉に買い言葉ってヤツだ。そもそも、ガベージにリコリス様を崇めていない人間などいないから大丈夫だ!」
言い訳がましく言う彼をジト目で見ながら、ため息をつく。
「信頼していただけるのはありがたいのですが……。崇めるのはやり過ぎでございますわ……」
「それは……、仕方ないだろう! 俺だって、それは迷惑だと思うからやめろって言った。でもあいつらはお前の演説や、その後の様子を見て、まるで聖女様の再来だと噂してるんだぞ!」
どうやら、俺の抵抗は遅きに失したようだ。
人間は、一定以上に高い信頼をしてしまうと狂信的になってしまう。
なぜなら、その信頼を否定することが、過去の自分を否定することにつながってしまうからだ。
この状況を見ると、今さら俺が暴君になったとしても、それに従順に従ってしまうだろう。
「これは……、ワタクシも今まで以上に慎重になる必要がありますわね……」
下手なことをしたら王国に特攻すらしかねないし、準備不足なまま、そんなことをすれば、返り討ちにあって処刑エンドまっしぐらである。
俺はせっかく手に入れた女の子の身体を失う恐怖に戦慄した。
「そういえば……、選別ってどうやるんだ?」
「ガイの時と一緒ですよ。みなさまの得意なことをしてもらって、あなたみたいに
「ふーん。意外と簡単なんだな」
「簡単ではありませんのよ。ガイみたいに剣術全般という方ばかりではありませんもの」
得意なこと、と簡単に言うが、実際に見つけるのは意外と難しい。
剣術が得意と言っても、特定の型のみが得意という人間も少なくないのである。
本人が自覚していればいいが、自覚していない場合も多く、そうなると見落としの危険が高くなってしまう。
「まあ……、悩んでいても仕方ありませんし始めますわ」
俺は一人ずつ調べたが、半数の60人ほどを見た時点で該当者は1人もいなかった。
「なかなかいませんわね。覚悟はしていましたけど……。まさか一人もいないとは……」
「いなかったらいなかったで仕方ないんじゃね? それにまだ半分だ。あきらめるのには早いだろう?」
「そうですわね……」
俺の心配をよそに、選別試験は進んでいく。
「次、ガヤンさん。どうぞ」
「ワシが得意なのは刀鍛冶でな。できたら工房で見て欲しいんじゃが……」
ガヤンは父親の跡を継いで鍛冶屋をしているらしく、5歳から手伝いをしているらしかった。
これは期待が持てると、ガイと共に彼の工房へと向かった。
「それじゃあ、始めますんで。よろしくお願いしますじゃ」
彼がゆっくりと刀を打ち始める。
すると、彼の
「これは……」
彼の力は予想以上のものであった。
彼によって打たれた刀は単に美しいだけではなく、うっすらとではあるがオーラのようなものが見えた。
「まさに匠の技とでも言うべきですわね……。もちろん、合格です!」
俺の言葉にガヤンは胸を撫で下ろす。
彼は刀だけでなく鍛冶全般に適性があるようで、他にも色々と作ってもらったが、いずれも素晴らしかった。
思わぬ逸材の発見により、俺の期待も大きくなっていく。
「次、アリスさん。どうぞ」
「えーと、私は……。料理が得意なんですけど……」
「具体的には何かありますか?」
「えーと、お菓子なら、みなさんに美味しいって言ってもらえています」
「では、それでお願いします」
彼女にお菓子作りを実演してもらうも、特に
しかし、彼女の説明に引っかかりを感じた俺は、少し追及してみることにした。
「うーん、ダメですね。ですが……。もしかして、他に得意なことがあるんじゃないですか?」
「えっ……。そうですね……。実は、肉や魚なんかを捌くのも得意なんですが、料理、という訳ではないので……」
「いえ、その点は気にしないでくださいませ」
「そうですか……。では、そちらもお見せいたしますね」
そう言って、彼女はガベージの奥にある森へと向かった。
「いや、何で森なんですの?! 捌くだけですよね?」
「あ、はい……。ですが、いつも現地で捌いておりますので……。では、アレをやりましょう」
そう言って、彼女は両手に肉切り包丁を持ち、一頭の鹿に音もなく近づいた。
次の瞬間、鹿の首が音もなく切り落とされた。
しかし、驚きはそこで終わらなかった。
次々に振るわれる包丁によって、鹿は立ったまま食べられる部位を切り落とされていった。
1分と経たず、俺の前には先ほどの鹿のロースやモモ、ヒレなどの部位だけでなく、レバー、ハツなどの内臓まできれいに切り分けられた状態のものが置かれていた。
「すごいですわ……。これって人も捌けるんじゃなくて?」
「ええと……。たぶんイケると思います。試したことはありませんが……」
どうやら、彼女は色々な意味で料理が得意だった。
「もちろん、合格ですわ。貴方には、これから色々な方を料理していただくことになるかと思いますわ!」
「ありがとうございます! 全力で殺らせていただきますね!」
話が違う方向に進んでいるような気がする。
しかし、俺はそのことに目を逸らしつつ、次の候補者の試験に向かった。
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