第3話 女王に祭り上げられましたわ
「足元には気を付けな。何せ、ここは魔法を使えない連中が集まる街だ。整備しようにも人手が足りねぇ」
俺はガベージの奥へと進んでいくガイの後ろを、静かについていった。
そうして少し歩いてから、振り返って申し訳なさそうに言った。
「気にしなくても構いませんわ。ワタクシ、宙に浮くことができますもの」
そう言って、足元に
「ははは、ホントに浮いてるわ。それで本当に魔力無しかよ。マジで信じらんねぇな!」
そうして先に進んでいくと、少し開けた場所に出る。
「おーい。みんな! ちょっと集まってくれ!」
その中心部に俺たちが到着すると、彼の
大声と言っても、そこまで大きいものではなくガベージ全体に届くようなものではなかった。
しかし、自分の声を
ガベージ中から人々が集まってきた。
「こいつは、ここに新しくやってきたリコリスってヤツだ。お前らも仲良くしてやってくれ」
彼の紹介こそあったが、俺の服装が良くなかったのか、集まってきた人たちは、あからさまに警戒の色を強めた。
「ひぃっ、き、貴族じゃないか?!」
「なんで、貴族がこんなところに!」
「待ってくれ。こんな服装をしているが、こいつも俺たちと同じ劣等種と言われて、ここに追放されてきたらしい」
恐怖に震える周囲の人たちを宥めるように説明をするガイであったが、それでも俺への不信感を拭い去るまではいかなかったようだ。
「ホントかよ?!」
「でも、ガイ兄ちゃんの言ってることだしなぁ」
「ガイ兄ちゃんが騙されてるかもしれないじゃないか!」
「もしかして、あれが伝説の悪役令嬢なのか?!」
確かにガイは単純なところがあるので、騙されやすいと思われるのだろう。
しかし、彼の野生の勘は、下手に頭がいいヤツよりも的確に相手の性質を把握できている。
そのことを知らない周囲の人たちは、俺のことを悪役呼ばわりし始めた。
「みんな、落ち着いてくれ! リコリスは俺でも魔法を使えるようになると言ってくれたんだ。それだけじゃない、みんなも魔法が使えるようになるんだ」
「それって、やっぱり……」
「騙されているだけじゃないか?」
ガイのフォローもむなしく、俺はさらにガイを騙す悪役のイメージになってしまった。
しかたないので、俺は実際にガイに魔法を使ってもらうことにした。
「疑う気持ちがあるのはわかります。ですので、ここでガイ様に魔法を使っていただくことにしますわ!」
それでも、疑いの声が消えることはなかったが、それを無視してガイに話しかける。
「ガイ。それじゃあ、先ほどみたいに剣を構えてください」
ガイが構えたのを見て、俺は手のひらの上に小さい炎を現出させる。
「魔法?!」
「でも、詠唱してなかったぞ?」
「ふん、どうせただの手品だろうが!」
俺がちょっと炎を出しただけで、場が騒然とする。
しかし、今は彼に魔法を実演してもらうのが目的なので、周囲の声を無視することにした。
「そうしましたら、先ほどのように剣を振る際に、剣の軌道に沿って炎が燃えているイメージをしてくださいませ。ちょうど、こんな感じに、ですわ。」
ガイはしばらくの間、目を閉じていたが急に目を開くと、剣を一薙ぎした。
その軌道に沿って、炎が吹き上がる。
「斬撃が燃えた……?」
自分の放った斬撃に炎の追撃が加わったことに、ガイは自分自身のことながら驚いていた。
「さすがでございます。他の方が使うような魔法とは異なりますが、これも歴とした魔法ですわ」
「ははは、確かにそうだな! これは確かに魔法剣だな! まさか俺が使えるようになるとは……」
魔法剣という聞き慣れない単語が出てきたが、とりあえずガイが納得できたということで、俺は満足することにした。
彼の試みが成功したことをアピールするために、俺はわざとらしく拍手をした。
「たいへん素晴らしいですわ。いかがですか? 皆様も個人差はありますが、同じようなことができるようになるんですのよ」
「そうだ。俺は、これまで劣等種と言われて蔑まれてきた! だが彼女は、俺のことを認めてくれた。それだけじゃない、こうして俺が劣等種じゃないことを証明してくれた!」
その言葉に周囲の俺に対する態度が一変したのを感じた。
「それでだ。俺は、彼女にガベージを引っ張っていって欲しいと思う。ここを俺たちのような劣等種と呼ばれた人たちでも幸せに暮らせる国を作るんだ! そして、その国の王に相応しいのはリコリスしかいない!」
彼の呼びかけに応じて、集まってきた人たち全員が俺に熱い視線を送ってくる。
「「「「リコリス女王!万歳!」」」」
瞬く間に彼らは俺を女王として崇め始めた。
「みんな、ちょっと待ってくださいませ! ワタクシが望むのは平穏でございます。あなた方の期待はありがたいですが……正直、ワタクシよりもガイ様の方が、より相応しいと思いますわ!」
俺の願いは、すでに女の子に転生したことで果たされていた。
女王などという不穏な立場に立って早死にしたくなかった俺は、彼らに踏みとどまるように伝えた。
しかし、ガイをはじめとして彼らの熱は、俺の力ではどうしようもないほどに高まっていた。
「みんなが俺を信頼してくれているのはわかっている。しかし、ガベージに必要なのは彼女以外にはいない!」
「そうだ! 俺もリコリス様が女王なら異存はない!」
「そうだな! 俺たちも協力するから、安心して俺たちを導いてくれ!」
ダメ押しとばかりにガイが自分の主張を告げると、周囲の人間もそれに同調していき、さらに期待感が膨らんでいった。
もはや、説得も難しいと思った俺は、いったんあきらめることにした。
「わかりました。しかし、皆さんがワタクシを相応しくないと思ったら、潔く身を引きますわ! ですので、それまでは仮という形で皆さんを導いて差し上げますわ!」
全員が俺に盛大な拍手を送る。
もはや、俺に逃げ道は無かった。
「いいですか? あくまで仮、仮ですよ? それに王国に攻め込みませんからね。まずは地盤固めとして、皆さんの中からワタクシの側近として動けそうな方を選出いたしますわ」
集まってきた人たちをふるいにかけるような発言はどうかと思ったが、それも意外と好意的に受け止められた。
俺とガイを中心に話し合いを行い、側近を選別するまでの段取りが細かく決められていく。
「今回、側近として選ばれるのは、良くて数名になりますわ」
「今回、選ばれなかったとしても、恨みっこなしですわ」
そんなことを俺は何回も繰り返し言ったが、そのことに文句を言ってくる者は誰もいなかった。
こうして、恐ろしいほどのスピードで選抜試験の開催が決定したのだった。
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