第2話 剣術バカは才能の塊でしたわ
「お、おい! 待てよ!」
スタスタと出ていく俺に、彼は焦ったように怒鳴りつけてきた。
「何か?」
「お前はガベージ送りだ!」
「そうですね」
「だから、ガベージに追放だと言っているのだ!」
ガベージに向かおうとしている俺に、何をいまさらと思っていた。
「ですから、ガベージに行くところですわ」
「貴様、そう言って逃げるつもりだろうが! おい、こいつをガベージに連れていけ!」
面倒なので、優雅に歩くように見せつつ、身体を少し浮かせて移動する。
自転車並みの速度で優雅に歩く俺に、衛兵は猛ダッシュで追いかけてきていた。
外には、あらかじめ準備していたのであろう、まるで犯罪者を送るためのような檻の付いた馬車が待機していた。
後を追ってきた二人の衛兵が、息を切らせつつ、俺を嘲笑う。
「ぜえぜえ、お前のような劣等種が貴族面していたとはな! 恥を知れ!」
「ひいひい、そうだぞ! 劣等種の分際で、贅沢な生活しやがって! さっさと、その中に入れ!」
衛兵に指示されるまま、俺は馬車に据え付けられた牢屋に入った。俺が牢屋の中でおとなしくしているのを見て、馬車が走り出す。
「逃げるなよ? まあ、お前に壊せるほど、やわなものじゃないけどな! はははは」
その檻は、鉄製ではあるが、特に頑丈な作りをしているわけでもなく、俺にとっては何もないのと同じであった。
だが、ポンコツ王子の婚約者に戻ることも、貴族と言う名の凡人の巣窟に戻るつもりもなかったので、おとなしくしていることにした。
むしろ、せっかく女の子の身体を手に入れたのである。
これを楽しまなかったら、前世でわざわざ死んだ意味がなくなってしまう。
そうこうしているうちに、馬車は少し寂れた雰囲気のある場所へとたどり着いた。
「ここは?」
「ここがガベージだ。お前のような劣等種を廃棄するための場所だよ!」
そう言いながら、衛兵は牢屋の扉を開けて、俺を外に出す。
「それじゃあ、ご苦労様ですわ」
さっさと邪魔な二人を追い返そうとした俺を、衛兵たちはイヤらしい目で見てきた。
「おっと、そうはいかねぇな!」
「どうせ、すぐに慰み者になっちまうんだ。その前に俺たちが楽しんでもバチはあたらねぇだろ!」
俺は
「腕を放して跪け!」
彼らは、俺の言葉通りに腕を放して、その場に跪いた。
「くそっ! 呪術か?!」
「劣等種な上に異端者だったとは。クソ、悪魔め!」
「くそっ、呪ってやる!」
異端者とか悪魔とか酷い言われようである。
というか、悪魔を呪うとか、意味不明であった。
「教会が黙っちゃいないぞ!」
「あらあら、ワタクシを辱めようとしたバチが当たったのですわ。そうですわねぇ……、このまま全裸で王城まで歩いてもらいましょうかね。ふふふ」
俺とて男の裸など見たくはなかったが、これくらいすれば辱められる苦しみもわかってもらえるだろうと考えていた。
だが、その時、背後から声をかけられた。
「おい、貴様! 何をしている?」
振り返るとぼさぼさの赤い髪を腰まで伸ばした男が立っていた。服もところどころボロボロでワイルドな感じの雰囲気なのだが、顔は傷一つなく整っていて、良いところの生まれであるようにも見えた。
「貴様、貴族だろう? ここはお前のようなお高く留まったヤツが来るところじゃないぜ!」
俺が黙っていると貴族らしい姿であることが気に入らないのか、嫌味を言ってきた。
「勘違いさせてしまい、申し訳ございませんわ。突然、劣等種と言われて、ワタクシ、この格好のまま、こちらに追放されてしまったのですわ」
「嘘を言うな! 貴様が劣等種ならば、そこにいる男どもはどう説明する?!」
「これは超能力という魔法みたいなものですわ。魔法と違って誰でも使えるものですのよ」
男は、俺の方を疑わしそうに見ていたが、しばらく目を合わせたところで、「ふっ」と言って肩をすくめた。
「わかったわかった。どうやら嘘はついていないようだな。お前の言葉を信じよう。それはそれとして……」
男は俺から二人の衛兵に視線を移す。
その視線に含まれる殺気がもたらす死の恐怖に、彼らは震えあがった。
「こいつらは俺に譲ってくれないか? 俺もここに追放されたときに色々あって、こいつらには恨みがあるんだわ」
「ええ、構いませんわ」
俺が笑顔で頷くと、彼らは短い悲鳴を上げる。
しかし、それも男の睨みによって、すぐに途切れてしまった。
「恩に着る」
そう言って、男は背負った大剣を抜くと中段に構えた。
そこで俺は、彼の
「ふんっ!」
気合一閃、彼の大剣が展開された円盤状の軌道に沿って振られる。
その直後、二人の首がコロンと落ちて、地面にコロコロと転がっていった。
「おっと、いいとこのお嬢さんには刺激が強すぎたか?」
俺が、彼の
彼は、二人の首を切り落としたことに驚いているのだと勘違いしているようだが、俺も前世では数多くの修羅場を体験していたため、さほど驚くべきものだとは思っていなかった。
「いいえ、こういう血なまぐさいことには慣れておりますのよ」
「へっ、どんなお嬢様だよ。まあ、気にしていないならいいわ」
「それより――、あなた本当に魔法が使えませんの?」
俺は真剣な表情で尋ねるが、それを聞いて、彼は爆笑していた。
「あははは、何の冗談だよ。俺はここに送られたんだぜ? 魔法が使えるわけねぇよ」
「でも、先ほど剣を振るった時に魔法のような力が出てましたわ」
「ああ、あれか。ずっと剣を振っているうちに、不思議なことに自然に刃が流れるようになったんだよ」
達人と呼ばれる人間がいる。
前世においても存在した彼らは、その技術を振るう時に超能力と同じように
男のそれは、まさに達人の技であった。
「魔法を使いたいとは思いませんの?」
彼のもつ達人の技に興味を持った俺は、そう訊ねてみた。
「劣等種の俺に、魔法なんて使えるわけねぇだろ?」
「ふふふ、最初にワタクシが2人を拘束していたのを見ていらしたのでしょう? 劣等種のワタクシができたのですもの、あなた様も同じことができるはずですわ」
「ははは、確かにそうだな。それじゃあ、俺にも魔法が使えるように指導してくれや。でも、俺は気が短いからな、さくっと頼むぜ」
「お安い御用ですわ。あなた様は下地はできておりますもの、1時間もあれば使えるようになると思いますわ」
「何だって? それはすげぇや! ま、これからもよろしく頼むぜ!」
そう言って、彼は差し出した右手を取り、固い握手を交わした。
「よろしくお願いしますわ。ワタクシはリコリス・ローゼンバーグ。いや、今はただのリコリスよ」
「おう、よろしく頼むわ。俺はガイアス・スト――ガイと呼んでくれ」
ガイは自分の名前を言いかけて、言い直した。
彼の技量を見るに訳ありだと思った俺は、そのことを深く突っ込むことはしなかった。
「よし、そうと決まったら行くぞ! 新しい仲間に俺たちの仲間を紹介しないといけないからな!」
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