ある日、愛する人に婚約破棄を突き付けたあげく、死刑を下すという最悪な悪夢を見ました。

ゆきな

悪夢を見た王子の話




私はその日、最悪な悪夢を見た。




「アリス・ティージェルド、お前は醜い嫉妬に駆られマリアに悪質な虐めをしたな?」

「な、何を仰って」

「惚けても無駄だ。証拠は揃っている」




これは……なんだ?私は一体何をしている?なぜアリスが顔を青ざめ狼狽えているんだ?


そもそもマリアとは誰なんだ?




「ライド様ぁ……」

「安心しろマリア。今まで頑張ったな」




私の腕に馴れ馴れしく抱きつき、涙目を見せるこの女がマリアなのか?なぜ私はこの女に笑みを向けているんだ。




「アリス・ティージェルド、貴様との婚約を破棄する!」




待て!私は一体何を言っているんだ!婚約を破棄するだと?馬鹿なことを言うな!それに、心優しいアリスが人を傷付ける訳が無い!!




「お待ちくださいライド様!何かの間違いですっ!」

「黙れ!」




駆け寄ろうとしたアリスを兵士が取り押さえた。


これは一体なんなんだ。私はなぜマリアと言う女を抱き締めている?




「そして今日より、このマリア・テッドが私の婚約者だ」




自分の放った言葉に、吐き気がした。







そして場面が変わり、ある処刑場に私は居た。


その処刑台には…………汚れて艶がなくなりボサボサになった髪を下ろし、身体中がアザだらけになったアリスが座り込んでいた。服もドレスではなく、ボロ布のような服を着ていた。


まるで、死刑囚じゃないか。あんなに可愛く美しかったアリスの変わり果てた姿に、私は言葉を失った。




「アリス・ティージェルド。貴様は私の婚約者、マリア・テッドの暗殺を企てていたとして、今日死刑に処す」




自分の口から出た言葉に私は驚愕する。


暗殺だと!?アリスがそんなことするわけないだろう!それに死刑だなんてやり過ぎにもほどがある!


アリスを見ると、アリスは全てを諦めたような光りの無い虚ろな目をして青空を見つめていた。




「ライド様、これで安心ですね!」

「そうだなマリア。もう大丈夫だ」

「はい!」




なぜこの女は嬉しそうに笑っている?そしてなぜ私も…………。


キラリと、刃が太陽の光りに反射した。




──やめろッ!!!




振り下ろされた刃が、アリスの首を跳ねた。












「ッはあ……!!はぁ……!!」




気がつけば、私は寝室のベッドの上に居た。荒い息を吐きながら、嫌な汗を流し飛び起きた。




「…………い、今のは一体……」




夢、だよな?にしてはリアルだった……。私は汗を手の甲で乱暴に拭った。


…………そう言えば、あの婚約破棄をした場面。アレはパーティー会場だったな。たしか三ヶ月後に学園で恒例のイベントパーティーがあるはずだ。そこでは今年に入ってくる新入生も交えて………。


そこで、私の思考は止まった。




「(ま、待て、まさかそんな……)」




必死に冷静になろうとする。もし、もしもの話だ。あの夢が正夢だとしたら…?


有り得ない!!例え本当になろうとも、私がアリスに婚約破棄を突き付けたあげく死刑にするなんて……!


アリスのような優しく清らかな女性を殺すなんて絶対有り得ない!それに、私はアリス一筋なんだぞ!他の女に現を抜かすものか!



アリスと出会ったのは私が十歳の時だった。この国の第一王子の私の婚約者として城にやって来たアリスに、私は一目惚れをした。


誰よりも可愛く、誰よりも純粋で心優しいアリス。私はもうアリスだけを見つめていた。


そして今現在でもアリスだけを愛している。あんなベタベタ引っ付く女に目を奪われるわけがないのだ!




…………ではなぜ私は夢の中でマリアと言う女に心が傾いてしまったのだ?




イヤな予感がした私は、すぐに行動に移した。まずマリア・テッドと言う女が入学するのか、従者に調べてもらった。




結果…………マリア・テッドと言う女は、現実に居た。




知らせを聞いた私は、身体中から血の気が引いていくのを感じた。写真に写っている女は、夢と同じ髪色に同じ顔立ちをしていた。コイツだ。この写真に写っている女がマリア・テッドだ。


マリア・テッドは存在した。そして今年、アリスと私が通う学園に入学してくる。マリアはアリスと同じ公爵令嬢で魔力が高く、魔術も幼いころから使えると記載されていた。その優れた才能により、特待生として学園に入学するそうだ。




「(マリア・テッドが入学するまで時間はない………)」




あの最悪な夢が現実味を帯びてきた。もしアレが正夢になるのだとしたら、私は心から愛するアリスを裏切ることになる。


絶対現実にしてたまるか!婚約破棄も、死刑もさせない!



アリスは私が必ず守ってみせる!










その日から私は、アリスとの愛を強固にするため、学園で一緒に食事をしたりデートをしたりした。より二人の時間を作るように心がけたり、絆を深めるように努力した。


もちろん今流行りの物を下調べしてプレゼントをしたり、有名な劇場へ行って劇を見たりなど交流を深め、皆に私とアリスは仲が良いのだと猛アピールした。




「ライド様、プレゼントのお礼と言いますか…その………料理を作ってきたのです……」

「アリスの手料理かい?」

「はい。お口に合うかどうかは分かりませんが」

「君の作った手料理はきっと美味しいんだろうね。楽しみだなあ」

「あ……」




恥ずかしそうに顔を赤らめるアリスに、愛しさが込み上げる。こんな素晴らしい女性が私の婚約者だなんて……。


処刑台で見たあのアリスの悲惨な姿。今とあの姿を重ね合わせると悔しい気持ちと怒りを抱く。夢の中の自分を今すぐにでも殴りたくなった。


絶対あんな姿にさせるものかと、私は心の中で決意した。







そして、やって来た入学式当日。




「あ、あの、ライド様、私マリア・テッドと申しますっ」




あの女が私の目の前に現れた。モジモジさせながら私に赤く染めた頬をした顔を向けてくる。人形のような可愛い顔立ちをしているが、私はそうは思わない。


この女が、アリスの全てを台無しにしたんだ。そう思うと怒りが湧いてきた。




「ライド様」

「触るな」




私に触ろうとしてきたマリアを冷たく突き放す。そしてマリアをこれでもかと睨みつけた。




「貴様、私にずいぶん馴れ馴れしいな」

「え、」

「今後私に近付くな」




とマリアにそう吐き捨て、私はその場から立ち去った。後ろを見ると、マリアは唖然とした表情を浮かべて立ち尽くしていた。


よし、第一印象を悪くしたぞ。はなから気がないと態度で示せばあちらから近付いてくることはないだろう。




しかし、マリアは隙を見ては私に声を掛けて来たり、偶然を装ってアリスと私の時間を邪魔するように割り込んでくるようになった。なんて言う奴だ。私が目を合わせず「邪魔だ」と冷たく言ってもめげずに会いに来るなんて…………怒りを通り越して呆れてしまう。アリスもマリアを見るたび不安そうな表情を見せるようになったし、もういっその事ガツンと言った方がいいのかもしれないな。




そう考えていた矢先、それは起こった。




私の友人であるトーマスは、私と同じように婚約者が居る。トーマスはそんな可愛い婚約者にベタ惚れだった。


しかし、入学式からしばらく経ったある日、トーマスは婚約者のことではなくマリアの話ばかりするようになった。




「マリアって可愛いよなあ、ああなんで俺マリアを婚約者にしなかったんだろう」

「と、トーマス?」

「もういっその事婚約破棄してマリアに変えようかなあ」

「トーマス!お前どうしたんだ!?」




トーマスの肩を掴み揺する。あんなに婚約者を愛していたはずのトーマスの変貌っぷりに、私はショックを受けた。しかしトーマスの目をよく見てみると、何かが混じっていることに気付いた。


これは、まさか。




「誰かッ!!解除士を呼んでくれ!!」




私は、トーマスが何らかの強い魔術に掛かっていることに気付き、解除士を呼ぶよう従者たちに伝えた。


解除士は魔術を解除する者のことだ。呪いなども解いてくれるためこの世界では重宝されている職業になる。


この国にいる腕利きの解除士にトーマスを託し、自室で待つ。すると、




「トーマス様に掛かった魔術は無事解除出来ました…………どうやら、かなり強い『魅了』が掛かっていたようですね」


「『魅了』だと!?」




解除士の言葉に私は驚愕する。


『魅了』。異性を虜にする禁断の魔術とされているものだ。昔、ある悪女が『魅了』を使い、王国を傾けさせたとも言われている。そのため『魅了』は使うことは決して許されない。使った者は重罪に処されるほどだ。




「トーマスはなんて言っていた?」

「トーマス様は、マリアと言う女性に話し掛けられた所から記憶が朧げと……」

「そうか……そうか……!!」




やはりそうだった!あの女がトーマスに『魅了』を掛けたのだ!その時、私の頭の中で衝撃が走る。


あの夢の中で、私はアリスではなく完全にマリアに心が傾いていた。まさか、あの女は夢の中の私にも『魅了』を掛けていたのか!?だから私はマリアを愛し、アリスを平然と突き放すことが出来たのだ。




「(なんて奴だ………あの女はやはり悪女だったのか!)」




聞くと、マリアは学園で男子生徒たちに異様なほど人気があるという。恐らく『魅了』を使ったからだ。


このままではアリスの身が危ない。それにアリスがマリアを虐めたと言う話すら上がっている。恐らく自作自演だ。


あのイベントパーティーが始まるまであと一ヶ月しかない。その間に、マリアが『魅了』を使ったという証拠をたくさん集めなければ。


そうなれば…………方法は一つしかない。







そして、イベントパーティー当日。




「アリス・ティージェルド、お前は醜い嫉妬に駆られマリアに悪質な虐めをしたな?」

「な、何を仰って」




ドレスを身に付けた全生徒が状況をただジッと見守る。私は目の前にいるアリスに夢と同じセリフを言い放った。




「私わたくしはそのようなことなどしておりません!」

「ライド様っ!信じてはいけません!私、この人に酷いことをされて……!」




マリアは私の腕に抱きつき、涙で潤んだ目を向けた。……私はその腕をやんわりと離し、アリスに近付いた。




「……やってないんだね?」

「はいっ、しておりません!」

「そうか……信じるよ、君の言葉を」




アリスの頭を優しく撫でる。途端会場はザワついた。もちろんマリアも。




「え、な、なんで?だって、ちゃんと『魅了』を掛けたのに」

「マリア・テッド。貴様には心底呆れたぞ。我が婚約者を陥れようとした罪、どう償ってもらおうか」

「わ、私は本当にっ!」

「証拠か?あの出来すぎた証拠を私が信じると思うのか?この国をいずれ継ぐ私を甘く見るな。そしてさっき『魅了』と言ったな?それは証言したと捉えるぞ」

「っ!!」

「証拠ならある」




私は待たせていた従者を呼んだ。そして持ってきた水晶の魔具を手に取り、魔力を流した。すると、水晶の中で映像が写し出される。


学園の中庭で、マリアと私が対峙していた。すると私と目を合わせた瞬間、マリアの黒い目が桃色に染まったのがハッキリと見える。これは『魅了』を発動させたという完璧な証拠映像だ。


これを見たマリアは顔を青ざめた。




「な、な、な、」

「貴様は類稀な魔術の才能がある。『魅了』を使うことなど貴様にとっては造作もないはずだ」




さらに会場はザワついた。禁断の魔術とされている『魅了』を使ったのだから当たり前か。




「貴様は他の男のみならず、私にも必ず『魅了』を掛けて来るだろうと思い、一芝居打ったのだ。あの日わざと『魅了』に掛かったのは、証拠となるこの映像を撮るためだ」

「そんな…!!ならばなぜ」

「『魅了』が効かなかったのか?実は我が国はプロの魔具製作者が多く居ると有名でな。特注でコレを作らせたのだ」




と私はつけていたブレスレットを見せた。




「これは魔術を無効化にする魔具だ。効き目は数回だけだが、効果は抜群だ。強い『魅了』ですら無効化にする」

「くっ……ならばもう一回……!」




悪あがきとばかりに『魅了』を発動しようとしたマリア。しかしすぐに待たせていた兵士たちによって床に抑え付けられた。




「すぐにコイツの目を塞げ!魔術を封じる魔具も忘れるな!」


「はっ!」


「やだ!離してっ!私は【ヒロイン】なのよ!?この世界の【主人公】なのっ!アンタたちこんなことをしてただで済むと思ったら大間違いよ!?」




何を言っているんだこの女は。




「ここは現実世界だ………小説でも、夢の中でもない」

「っ!!」

「連れていけ」




兵士たちは目隠しをつけられたマリアを引き摺って会場から出て行った。去っていく兵士たちを見つめる中、私は今までの疲労がドッと押し寄せ、思わず膝をついてしまった。




「ライド様!」

「アリス」




そんな私の元にアリスが駆け寄ってきた。




「アリス……よく頑張ったね」

「ライド様も………」




アリスの手を握り、互いに笑みを浮かべる。


マリアはアリスに虐められたと言っていたが、実は反対だ。マリアがアリスを虐めていたのだ。マリアは『魅了』だけでなく、もう一つ禁断とされている『洗脳』を使い、クラスメイトを操りアリスを影で虐めていたらしい。従者からそのことを聞いた私は、マリアに気付かれないようすぐにアリスを保護し、操られていたクラスメイトたちの『洗脳』を解除士に解いてもらった。




これは好機だ。私はそう思い、作戦を立てた。




クラスメイトたちもある意味被害者だ。そのため彼らに、マリアに操られたフリをして彼女の悪事を集めるよう協力をお願いした。もちろんアリスにも理由を言って協力してもらった。


そのおかげで、このイベントパーティーまでに多くの証拠を集めることに成功した。これであの女は私たちの前には二度と現れないだろう。




「フリとはいえ、虐められるのは辛かっただろう?」

「いえ、皆さんがそのあと必ず影で謝ってくれましたから」

「そうか。彼らには感謝しなくてはな」




この三ヶ月、君との未来を守るために頑張った。あの夢を見なければ、今頃私は夢の通りに婚約破棄し、愛する人を処刑台に送っていただろう。


間違った選択をしなくてよかった。




「アリス、君はこの世で一番大切な人だ。これからも君を守ると誓おう」

「っ……はい!」




立ち上がりアリスの手の甲にキスを落とす。するとアリスは涙を流しながら微笑み、私に抱き付いてきた。その華奢な体を、私は離さないとばかりに抱き締める。その途端、周りから盛大な拍手と口笛が上がった。


私たちは互いに見つめ合い、そして額同士を合わせて幸せに笑い合ったのだった。







あれから数年後。私は王を継ぎ、アリスは王妃となった。


マリアはあのあと魔術を封印する魔具を着けられ牢屋に入れられた。禁断の魔術を二つ使ってしまったがために、恐らく一生牢屋の中で過ごすのだろう。それくらい危ない魔術を平然と人に使う女だ。外に出せば必ず被害が出るだろうと考え、念のためその身に宿る高い魔力を全て抜き取るよう指示した。


魔力を抜き取ったせいかあの可愛かっただろう顔はやつれ、きめ細かだった肌はボロボロになり、目も当てられない姿と成り果てたそうだ。そして「私は【ヒロイン】なのに」「【主人公】なのになんでこんな目に合うの」といまだにほざいているらしい。空想と現実の区別がつかないのか?最後まで哀れな女だ。


お前のせいで家が取り潰しになっというのにな。




マリアに『魅了』を掛けられた男子生徒たちも無事魔術が解けたため、無事家業に勤しんでいる。これで一件落着だ。




「まあライド様!今蹴りましたわ!」

「本当か!?元気だなあ、早く私たちに顔を見せておくれ」




私はこの国をより良くするため日々忙しく働いている。そしてアリスのお腹の中には新しい生命いのちが授かっていた。私たちの大切な宝だ。


私は、この上ない幸せを噛み締めた。




「(………そういえば)」




私はふと思う。あの夢は結局なんだったのだろうか?あんなハッキリとした正夢を見るなんて………まるで「間違えるな」と私に知らせるような感じだった。あの夢が無ければ、こうしてアリスと幸せな時間を過ごすことも出来なかった。これまでに無い最悪な悪夢だったが、今となっては本当に感謝している。



きっと、神が私に未来のチャンスを与えたのだ。そうに違いない。私は美しい青空を見上げ、祈った。




これからもアリスと我が子、そしてこの国を守っていこう。
































燃え盛る炎で真っ赤に染まった空の下。私は崩れ行く城の中でただ茫然と玉座に座っていた。




「(なぜ、こんなことになったのだろう)」




マリアを王妃に迎え、順風満帆な人生を送るはずだったはずなのに。


マリアはかなりの浪費癖を持っていて、高いドレスに宝石を買い漁っていた。私はそんなマリアに叱ることなく、欲しいもの全てプレゼントした。なんの違和感もなく、まるで彼女の奴隷のように全ての願いを聞いて。


すると財政が衰え、段々と税が高くなっていった。そのせいで今日、我慢の限界を迎えた国民がクーデターを起こしたのだ。国民は怒りに任せ王族や貴族たちを皆殺しにしていく。そして今、この城に居るのは私のみとなった。


裏切った兵士たちが仕掛けた爆弾で城は崩れようとしている。マリアはどこかへ消えてしまった。




「(………アリスと結婚していれば、こんなことにはならずにすんだのか?)」




数年前、死刑を下した元婚約者を思い浮かべた。その時、




──ランド様……




「あ………ああ………ああああああああッ!!!!」




アリスの顔を思い出した瞬間、この上ない絶望と虚無感、そして強い悲しみが私を襲った。


なぜ、私はアリスからマリアに心変わりしたのだろう。あんなに愛おしく大好きだったのに!!




「アリス、アリス」




私は玉座から離れ赤い絨毯に落ちていた短剣を拾い、刃先を首に向けた。


私はなぜマリアを好きになったのだ?アリスは清らかで美しく、そしていつも私を気にかけてくれた。あんな素晴らしい女性はどこを探しても居ない。だから大切にし、一生愛そうと誓ったはずだ。


それなのに………マリアと目が合った瞬間・・・・・・・、彼女の虜になってしまった。もうそのあとはマリアに夢中だった。マリアの言うことを鵜呑みにして、アリスを断罪してしまった。




嗚呼、私は間違えてしまったのだ。




「アリス………すまない………すまない……」




こんなこと、謝って許してくれるわけがない。でも謝らないと気が済まなかった。




「すまなかった………アリス………」




もしまたやり直せるのなら、今度こそ絶対間違えないようにしたい。こんな悲惨な運命を辿るぐらいならなんだってしてやる。そしてもう一回、君に愛の言葉を囁きたい。




「嗚呼神よ………罪深き私にもう一度チャンスをください」




アリス、アリス、君にとても会いたくなったよ。きっと君は私を恨んでいるだろう。あんな酷いことをしたんだ。許されない罪を背負ってしまった私を、どうか気がすむまで罵倒して殴ってくれて構わない。それで君の憎しみが晴れるのなら、私は耐えてみせる。


本当に、本当にすまなかった。




「………………大好きだったよ……アリス」




私はそのまま短剣で首を、一突きした。




──ランド様、愛しております




意識が闇の中へ沈んでいく時、アリスの優しい声が、聞こえた気がした。





End

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある日、愛する人に婚約破棄を突き付けたあげく、死刑を下すという最悪な悪夢を見ました。 ゆきな @999031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ