第六十三話 武闘大会 その二

 私の一回戦が行われることになった。

 戦う相手は私より大柄の男で、戦斧を肩に軽々と担いでいる。


「これより戦斧使いダルドル対、槍使いレフィーの戦いを始めます!」

 私の名前が呼ばれ、対戦相手のダルドルと闘技場の中央で向かい合った。


「初戦の相手が俺だとは、お前は運が無いな!

 死にたく無かったら降参した方が身のためだぜ!」

「そうかもな」

 ダルドルが余裕の笑みを浮かべながら私を脅して来たが、その手には乗らない。

 本選に来たからには、誰に当たっても強敵には変わりないのだからな。

 それはダルドルにも言える事で、少しでも相手を動揺させて優位に試合を運びたいのだろう。

 確かに、ダルドルの戦斧をまともに食らえば、真っ二つにされて死ぬのは間違いないだろうが、まともに当たる奴はいない。

 私も当然、間合いの短い戦斧に当たるような間抜けでは無い。

 槍の間合いで上手く立ち回れれば、苦戦する事無く勝てると思う。


「試合開始!」

 両者が武器を構えた所で、試合が開始された。

 ダルドルは開始の合図と同時に、見た目に似合わぬ素早い動きで一気に私との間合いを詰め、戦斧を上段から振り下ろして来た!

 私は後方に飛び退きながら戦斧を避け、着地と同時に槍で反撃した。

 移動速度を上げる能力か、ミュリエルと同様の身体強化の能力だろう。

 重い戦斧を軽々と振り回しているし、移動速度も速い。

 まともに戦えば私に勝ち目はないだろう。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…ま、参った…」

「槍使いレフィーの勝利!」

 ミュリエルもそうだが、能力で身体強化をしているとは言え、体の基本的な構造は変わる事は無い。

 つまり、筋肉を動かすには多くの酸素が必要なのだが肺の大きさは変わらず、すぐに酸欠状態になってしまう。

 長時間全力で戦う事は不可能なのだ。

 ダルドルもそれは理解しているはずで、短時間で試合を終わらせたかったのだろう。

 私は距離をとって槍で牽制しつつ、時間を稼いでいれば勝ててしまう試合だった。


「レイ兄、やったね!」

「あぁ、楽な相手だったからな」

 試合を終えて控室に戻ると、シャドルースが私の勝利をとても喜んでくれていた。

 控室にいた他の選手たちは、私が勝ったのが予想外だったらしく驚きの表情を見せていた。

 それもそのはず、私以外の選手の殆どがステラウィッチ学園の外から来た者達ばかりだ。

 ステラウィッチ学園で授業を受けている者は、基本的に戦いを知らない素人達だ。

 戦えるようになる為に授業を受けているのだから、当然の事だ。

 その素人が本選に出て来ただけでも驚かれているのに、本選で勝利したともなれば選手達の見る目が変わって来る。

 私と戦ったダルドルの余裕の表情も、私を素人だと思って舐めていたからだ。

 しかし、次の試合からは警戒されて慎重に戦われてしまうだろう。

 私はより気を引き締めて、試合に臨むとしよう。


 二戦目の相手は有名な魔法使いだったらしいが、激しい魔法攻撃を被弾しながら突っ込んで間合いを詰め、あっさりと勝つ事が出来た。

 相手が私を殺すつもりで魔法を撃ち込んで来たなら無事では済まされなかったが、そうでは無かったみたいなので、かすり傷で済んだ。

 三戦目は盾と剣を持った戦士だったが、苦戦しつつも槍の間合いを維持して何とか勝つ事が出来た。

 そして次は準々決勝なのだが、相手は人を殺して楽しむ奴だった。

 奴は第二試合で相手を惨殺したので、第三試合の相手は棄権していた。

 それが正しい判断だし、私も棄権した方が良いのだろう。

 しかし、私自身どれだけ強くなったか知りたいので、戦って見たいと言う気持ちは大いにある。

 私は戦うことはあまり好きでは無いが、ミュリエルとシャドルースを守るためには戦わなくてはならない。

 奴の強さは本物だし、奴に勝てなくてもある程度戦う事が出来れば、今後二人を守る際の自信にもつながる。


「斬り裂きサラード対、槍使いレフィーの戦いを始めます!」

「くふふふっ、逃げなかった事を褒めて差し上げます」

「そうか」

 準々決勝の試合が始まった!

 槍の間合いから攻撃を仕掛けるも、サラードは剣で軽く受け流しながら間合いを詰め、私に斬り掛かって来た。

 予想出来ていたし躱すのは容易だと思ったのだが、剣先が急激に変化し、私の左肩へと突き刺さった!

 槍を横なぎに振り、サラードを遠ざけさせた。

 右肩を狙わなかったのは、降参させない為だろう。

 じっくりといたぶって殺してやると、サラードの怪しく光る眼が言っている。

 戦いは長く続き、私は小さな傷を幾つも作らされていた…。

 一方、私も無駄に攻撃を受け続けていたのでは無く、サラードの左脇と右肩に傷を負わせる事が出来ていた。


「くふふふっ、意外と楽しめましたよ」

「何だ、もう終わらせたつもりか?」

「えぇ、次の攻撃で終わらせてあげますよ」

「そうか、それなら降参する!」

 サラードは私の降参宣言に怒りの表情を露わにし、審判が止める前に素早く私の心臓目がけて剣を突き刺して来た!


「なっ!無茶な事をしますね…」

「死にたくないからな。審判、降参する!」

「き、斬り裂きサラードの勝利!」

 私はサラードの剣を両手を交差させて受け止め、心臓への一撃を防いで見せた。

 サラードの剣は切れ味は鋭いが、私の両手の骨を貫通させるほどではなかったみたいだ。

 両腕は魔法で治療して貰えれば治るだろうし、私の能力でも翌日には完治するだろう。

 大きな賞金を得られなかったが、私の実力が分かったので良しとしよう。

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不滅の弱者 よしの @yoshino009

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