第六十二話 武闘大会 その一
ステラウィッチ学園祭が開催され、学園祭中は全ての授業が休みとなるため、私達は裏方として忙しく働いていた。
私とシャドルースは警備の仕事をし、ミュリエルとシャリエットは給仕として頑張っている。
貴族の学園祭なので参加する事も出来ないし、見学して楽しむことも出来ない。
唯一参加できるのは四日目と五日目にある武闘大会で、私はそこに参加する事になっている。
貴族の為の見世物ではあるが優勝賞金は金貨一枚(一千万円)で、贅沢をしなければ一生生活していけるお金ではある。
優勝は出来なくとも上位に入る事が出来ればそれなりの金額を貰えるので、家を借りる事が出来るだろう。
ミュリエルとの約束を果たすための資金になるので、出来るだけ上位に入れるよう頑張りたいと思う。
ステラウィッチ学園祭で三日間行った警備の仕事は、些細な問題はあったものの無事に終える事が出来た。
そして四日目、武闘大会の予選が行われる。
場所は大きな円形の闘技場で、戦う場所はかなり広い。
魔法を使えるのだから、広くないと観客席に被害が出かねないのかもな。
予選は非公開で行われるので観客席には誰もいないが、その辺りの事も考えながら今日は戦うとしよう。
「レイ兄、おいら緊張して来たよ…」
戦いを前にして、私の付き添いとしてついてきたシャドルースの方が緊張しているようだ。
私達の周囲には強面の参加者が大勢いるから仕方がないが、シャドルースのおかげで私は緊張せずにいられているので助かっている。
私はシャドルースの頭を撫でながら、出番を待つことにした。
「レフィーとゴルドは次の試合だ!」
私と対戦者が呼び出され、闘技場へと出て行った。
予選を三回勝てば、明日の本戦へと出場が決まる。
予選では賞金が出ないので、何としても明日の本戦まで残りたい所だ。
それは相手も同じ事を思っているだろうし、気を引き締めて戦わないといけない。
「レイ兄、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
予選一試合目と二試合目を順調に勝ち抜き、三試合目の所で苦戦してしまった。
相手は魔法と剣を巧みに使い、遠近どちらでも上手く戦われてしまった。
弓を持って来ていれば魔法にも対抗できたと思うが、今回は槍のみで戦おうと決めていたから用意していない。
そのせいで魔法を数発くらってしまい、シャドルースを心配させてしまった。
だが、剣術を習った事で私の接近戦での戦い方が以前とは比べ物にならないくらい上達していて、相手が私の懐に踏み込んできた際も上手くあしらう事が出来て、勝利を得る事が出来た。
明日の本戦に進む事が出来たと喜ぶ一方で、明日はより厳しい戦いになるのだと覚悟を決めた。
「レイ兄、無理はしないでよね!」
「あぁ、無理はせず、勝てそうになかったらすぐに降参すると約束する」
本戦当日、シャドルースが周りの対戦相手達を見て私を心配していた。
予選を勝ち抜いてきただけあって、皆強そうだ。
百八十センチある私でも小柄に見えてしまうような男や、身長は高くないものの筋肉隆々の男が、周りを威嚇するかのように筋肉を見せびらかしている。
それと、切れ味の良さそうな武器の手入れを丁寧にやっている者もいる。
あれは間違いなく、人を殺して楽しむ奴の目だな…。
ふっと、ハンターをやっていた時に襲われたことを思い出した。
あれは嫌な思い出だし、こいつと当たりたくはないなと思った。
「ステラウィッチ学園祭最終日の目玉、武闘大会の開催を宣言します!」
観客席には多くの貴族達が座っており、私達が戦うのを楽しみに待っている様子だ。
良い趣味だとは思わないが、娯楽の少ない世界だから仕方のない事なのだろう。
武闘大会本戦が始まり、私とシャドルースは選手の控室の窓から戦いの様子を見ていた。
「うわっ、すごく痛そうだよ…」
「そうだな、早く降参しないと不味い事になる」
戦っているのは人を殺して楽しむ奴で、対戦相手の急所をわざと外して一方的に斬り刻んで楽しんでいる。
観客席の貴族達は大盛り上がりだが、私を含めた控室にいる選手達はあいつと戦いたくは無いと思っているはずだ。
審判はいるが、止めに入る様な事は無い。
今止めに入れば、貴族達から
かなり危険な状態になった所で、やっと降参を宣言したみたいだ。
「くふふふっ、つまらない戦いでした。皆さんは降参なんてくだらない事はしないでくださいね」
人を殺して楽しむ奴は戦いを終えて控室に戻ってきた際に、他の選手達を冷めた目で見ながらそう言って席につき、武器の手入れをし始めていた。
誰もがこいつと戦う事になったら降参しようと思ったに違いないし、私も戦う事になったら降参しようと思った…。
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