やんちゃな子猫を捕獲した話

椛猫ススキ

やんちゃな子猫を捕獲した話

 突然現れた子猫だった。

当時、私は小僧(仮名)と名付けた子猫を保護しようとしていた。

庭に住み着いたのはいいもののごはんの時しか近づこうとしない警戒心の強い小僧に手を焼き、ならば己から近づかせようと勝手口の前にごはんを置いた。

これは正解でごはんを食べるために小僧は勝手口の近くに住み着いた。

勝手口の周りには物置があり、そこを住処にしたようだった。

 そんな時であった。

小僧のごはんを置いてしばらくしたころ、そろそろ食べ終えたかなと勝手口をみるとそこには。

 小僧を押しのけてごはんをがっついているさらに小さい子猫がいたのである。

「なんかちっさいの増えてる!!!」

 無意識にそう叫んでいた。

地声の大きい私が叫んだわけだから子猫二匹はあっという間に走り去ってしまった。

ああ…怯えさせてしまった…もうごはん食べに来てくれないかもしれないと落ち込んだが後の祭りである。

 私はしょんぼりと子猫のごはんを片付けた。

しかし、それは杞憂だった。

新しくきた子猫はかなり肝が据わっているようで勝手口で腹が減ったと鳴いていた。

小僧は臆病で私がいると絶対に近づかない。

しかし子猫は勝手口の前でごはんを要求し小僧の分まで食べたあげく彼を敷き布団にして寝ていた。

 …この子猫態度がでかいな。

網戸の前でころころ転がり、おやつをねだるが網戸を開けるとびゅん!!と走り去る。

なのに私がうちの猫におやつをあげていると若手芸人がストッキングを被る顔芸のように網戸に顔を食い込ませながらよこせと鳴くのだ。

 網戸の強度が心配になるほどぐいぐいくるので網戸を開けると瞬間移動のように逃げるのだ。

 どうしろと。

あまりの素早さにこれは捕まえるの大変だ…と思うと同時に私はこの物怖じしない子猫にぴったりの名前が浮かんでいた。

 たまこ、と名付けた子猫は案外早く捕獲できた。

美味しそうなおやつを設置し、物陰に隠れたまこが食いついたら籠につけた紐を引くと言う原始的な罠で、あっさりと捕まえられた。

あまりにもあっさりと捕獲出来たので喜びがあふれ出て思わず悪役のように高笑いをしてしまったくらいだ。

「ふはははは!!かかりおったな!!」

 悪代官か、私は。

 小僧の方は残念ながら警戒心の塊で私がいるだけで近寄らず、たまこを捕獲したことでさらに私が嫌いになり彼を保護したのはそれから半年以上先のことになる。

小僧からしたら私はただの誘拐犯だ。悪代官かもしれないが。

嫌われても仕方がない。

決してあの高笑いで怯えさせたとか思いたくない。

 たまこは暴れたが体が小さかったのでさくっとキャリーに入れることができた。

鳴きわめくたまこが入っているキャリーはごとごと揺れている。

小さな体を体当たりさせて出ようと暴れている。

蓋が外れたらどうしようと思いながら動物病院に飛び込んで診察してもらった。

 動物病院で診察してもらいながら先生に駆虫を頼み込む。

私はノミが大嫌いである。

なぜかというと猫よりノミに嚙まれるからだ。

野良猫が居た道を歩いただけで足にノミが着いたことがある。

 たまこは野良猫で来し方知らず、いつの間にか我が家に居た。

たぶん、いや絶対ノミたんまりいるだろう。

背中噛まれると絶望なんだよなぁ…などと考えていると先生から呼ばれ診察室へ。

危惧していた通り耳ダニにノミ、寄生虫までいた。

フルコンボ~♪と某太鼓の妖精が頭の中で軽快に合いの手をくれた。

自分につけるフロントラインがほしいと切に思う。

駆虫をしてもらったあとに先生曰く

「このこ、体重軽すぎて採血難しいからもう少し大きくなってから検査したいんですけどいいですか?」

たまこ、態度はでかいが体は小さいものな。

「わかりました」

「検査するまで他の猫ちゃんたちとは接触させないでくださいね」

「はい」

 帰り支度をしていると先生はたまこを撫でながら

「たまこちゃん可愛いですね」

と、にこにこしている。

 そうか…先生庭を駆けずり回るたまこ見てないもんなぁ。

なので真実を伝えることにした。

「たまこ、可愛いですよね」

「ええ、ほんとに可愛いなぁ」

 先生はどうも茶虎猫がお好みのご様子。

子猫可愛い、たまこ可愛いとご満悦で私が飼うとか言われたらどうしようかと心配になるほどだ。

「…たまこはほんとに素早くて、捕まえようとするとぎゅん!!てすごいスピードで逃げるので…まるで鉄砲玉みてえだな、とおもって弾丸の子て書いてたまこにしたんですよね」

 先生はきょとんとしたあと、爆笑。

「そ、そんなヤンキーみたいな理由なの!?」

「ええ、可愛くないからひらがなで書きますけどほんとは弾丸子ですよ」

 ヤンキーと言うより古の暴走族に近い。

道子を魅血呼、誠を魔拳闘と変換するようなものである。

当時の彼らの特攻服に刺繍された漢字は難解であった。

「てっきり玉子みたいに可愛いからかと…」

 先生はくふくふと笑ってたまこを撫でていた。

その次の診察も先生はくふくふ笑いながらも丁寧に診察してもらい血液検査も終わり、心配していたエイズや白血病も陰性で無事に先住猫たちと会わせることができた。どうやら、私の名付け方がツボだったらしい。

 私はその後、体重も増えお姉ちゃんやお兄ちゃんが出来てテンションが上がりさらにパワーアップしたたまこに散々な目にあわされるのだった。

 寝ている私の口の中に前足を突っ込み、首の上に倒れこんで寝る。寝ている先住猫たちに嚙みついて起こし遊んでくれとねだり大喧嘩となり、戦場が私の布団の上だったため足をジャンプ台にされ思い切り飛んだ反動で太ももから大量出血したりと、まあえらいことに。 

足にガーゼを貼りながら私は「弾丸子」でも足りず 「闘魔呼」の方が正しいかもしれないと半泣きでそう思う。

 そこで気が付く。

名は体を表す、と。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やんちゃな子猫を捕獲した話 椛猫ススキ @susuki222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ