烙印の目覚め

一日目:「誕生と発覚」


ふわり、ふわり。

浮かぶ感覚が体に伝わる。天国に昇っていく感覚だろうか。

それにしても変な感覚だなぁ…天国に行くってのはどうも不思議と不愉快な気分になるらしい。

子供じゃあるまいし、もっとこうぐんっと登らせてくれよ。これじゃあ本当に煉獄に落とされちまう。

……しかし、目が開かない。どうしてだろうな。

こうなんか力んでみるとか?

そう思いすぐに実行してみる。すると解放感と共にゆっくりと暗闇の視界が開いてきた。

やっとこの憂鬱な感覚が終わる!

そう思って開いていく視界に飛び込む様に目を開くと……



「あぅ?」

「わぁ!見て貴方、可愛い子よ!」

「ああ!凄いな、ユキの血がちゃんと流れてて俺は嬉しいよ!見ろ、妻譲りの青い瞳だ!」

「ホントね!」


何だ、ここ。

ユキって誰?妻譲りの青い瞳?俺の目が?

というか待ってくれ、目の前に光景に一番疑問を持った。

俺の視点が凄く小さい。しかも鮮明に見えている。しかも体が小さい。更には……

俺のおしめが変えられている。解放感の違和感についてスッキリした。二重の意味で。

……一生の黒歴史になるだろう。

一応状況を纏めてみる。

俺は、あいつに殺された。幼地味のクロノスに。

そしてこうして何らかの方法で蘇った。スキルは取られたし、魂は煉獄に堕ちたし何が原因かは分からない。

そして今目覚めると、俺は赤子になっている。要するに一度転生したらしい。

もしかしたら時間逆行なのかもしれないが、その点は有り得ないと放棄する。

クロノスの強みはスキルの「時空間支配」だった。俺はそれを痛感していて、あいつは常人ならざるステータスをその時空間支配のスキルで手に入れていた。俺は努力の賜物で手に入れたのだが……

……ひとまず、転生出来た理由をゆっくり探そう。その前に……

腹が減ったから今から黒歴史二つ目となるおぎゃりをしようと思う。

殺してくれ。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



夜になった。考える事は多いから静かなのは助かる。

この一日を体験して分かった事は、どうやら俺も知らない世界に来ている事だ。

母、父の名前はユキとキリオ。極東方面であるこの村「シラナリ」という場所の名家である「トキオリ」という苗字の家系だと聞いた。

俺の名前は子供が15になった頃に決めるので今はトキオリさんと呼ばれている。むず痒い。

俺は可愛い顔をしているいい子らしいので、暫くはそういう子という設定にして甘えておく。

……さて、表向きのいい話はここまでだ。

俺のステータスを見れる様になった。念じて念じてずっと念じてやっと捻り出す(下ではない)事が出来た。



「(……ステータス開示)」



―――――


リュート


Lv.1


天職:

称号:黒き龍を討つ者(隠蔽)

怪力:10

体力:100

忍耐:60

俊敏:70

妖魔:1000

技能:「██」(隠蔽)「状態異常耐性」「霊術」

魔法:「影魔法」

式神:「 」



―――



赤子だからと思っていたが……最初に疑問を持ったのが隠蔽された二つ。

一つ目が「黒き龍を討つ者」だ。これは確実に前世の因縁である。

黒き龍はクロノスの別称、黒髪に金色の瞳を持っていたのはアイツとあの龍だけ。人々は尊敬と畏怖を込めて「黒き龍」と名付けた。

自分は特にそんな名称欲しくなかったから断っていた。そんな名前を付けるよりかは他の所で仕事していたからな。

……前世の個人話はよそう。あまり喋ってて嬉しいものではないな。

二つ目が隠蔽されたスキルの「██」。これが何が全く分からない。

使おうとしても使える感覚がないので、今は放置という形で収めることにした。


……一度呼吸をしてみる。うん、生きている。

正直あいつの事を考えると真面目に思考を読んでこっちに向かってくるんじゃないかと思っている。まさしくそれが出来たから警戒しているのだが、だとしたら自分は大戦犯だな。

だがいずれ、いずれあいつは殺す。必ず自分の手で殺しに行く。

その為にあのチートスペックに勝てる様にならなければならない。今のままじゃ全盛期の俺のスペックに劣ったまま無謀な戦いには首を突っ込む事になる。

それは爆弾を踏み抜く事と同じだ。

避けた方がいい。


取り敢えず俺とあいつのステータスを見比べてみよう。強烈にインパクトに残ってるから覚えている。


―――


『クロノス』


スキル:『破滅之黒龍』〔多重並列思考・多重並列演算・絶対記憶・時空間支配・龍鎧・龍鱗纏・多重龍憑依・龍之魂・龍支配・超越鎌術・統合武術(異流武技・武技模倣・武芸骨頂)独裁魂域(魂魄領域・独裁権威)〕

『豊穣権能』〔豊穣之約束・能力複製・能力贈与〕

『神之武具庫』〔神器召喚・神器送還・

神器契約・宝物庫〕

『財宝之倉』〔無限収納・空間階層・階層管理〕

『言霊之王』〔魔法支配・属性支配・現象支配・言霊・予言・文字魔導〕


……確か覚えてるのがこのくらいだった気がする。

どうやって勝てと言うんだ。俺の持ってたスキルもあいつに吸収されちまったしな……

実際、俺とあいつがどちらが強かったと言われたら俺じゃなくてアイツだ。勝てる要素が見込めない。悲しい事に。

だが、殺さなければならない。クロノスを。

全てを奪い貪り喰われた俺の全てを取り返さなければ……仲間達の顔に泥を塗る事になる。

となればやる事は簡単だ。まずは強くなろう。

生憎自分は赤子から意識、自我、事前知識がある状態で蘇った。これなら上手く生きていける。

それにしても……ここが別世界なら俺が転生しているとして何年経っているか知りたいな。

その前に喋る様にならんといけないのだが……いや、いいか。

今焦る必要は無い。


取り敢えず過去の俺の戦闘方法をしっかり考えよう。

俺は主に多種多様な武器を使って相手を撹乱し、奇襲。時には真正面から戦い戦闘してきた。

アイツ?アイツのはもう戦いと呼べなかったな。

蹂躙と言った方がいいのだろうか。まさしくその通りで、きっとあんな殺し方された暁には最悪の夢になるだろうに。

……俺はされたんだった。

でもいい点はある。あいつは煽りにクソ弱いという事だった。これはいい、次の布石になる。


「ぅぅー(だがなぁー)……」


赤ちゃんだから特に何を言おうとも変と思われる事は無いが。

……周りを見る。静かな夜だからこそ少し寒気がする。

もしあいつが、俺の転生を知っていたら。

最悪だ。

せっかく俺を産んでくれた母親や俺に名前を付けてくれた父親が殺されてしまう。

ふと、俺に家族がいなかった事を思い出した。

俺とアイツは孤児院に引き取られてて、身寄りのない自分達を聖母さんや神父さんが引き取ってくれた。あれは本当に暖かった。

過去の記憶は鮮明に残っている。

昔の仲間の顔も名前も覚えている。

俺にとって仲間は家族と同じで、例え血が繋がってなくても家族として接した。

まぁ……そんな仲間がやらかした時は俺も頭下げに行ってたなぁ。泣いてる奴もいたし。

けど皆、俺のお陰で変わってたり反省してたりした。それが嬉しかった。

アイツはあの頃何してたんだろ。確かなんだっけ……うーん……

思い出せないな。

まぁいいや、ちょっと喉乾いてきたからおぎゃります。もう尊厳とか浜に捨てました。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




「あぅー、ぇー」

「おお!凄いぞ〜」

「生まれて2週間でもう立ってるの、物覚えがいいわね!」


母さんと父さんに褒められながら生まれて二週間。

これまで問題だった事が浮き彫りになってきた。

成長しないと事を教えて貰えないという事だ。

だから自分はこの世界の魔法とか、この世界の技術とかを知る方法が少ない。故に暇なのだ。

やる事が少なくて特訓できるという時間を捨ててしまうのは本当に勿体ない。

焦る必要は無いのだが、出来るだけ力を付けておきたいというのは本音だ。


「ねぇキリオさん。そろそろこの子にアレ見せてもいいかしら」

「おお、いいぞ?そろそろ触れ合う時だからな〜」

「おぅー?」


アレ?コレ?と母の言葉の謎に首を傾げる俺に、実演してみせた。

虚空に円を描くと、何やら難解なミミズ文字みたいなのが書かれた札を取り出して何かを唱え始めた。


「『祓い給う、浄め給う、賜物を授け其方様の端力を御見せ給う。

式神様、御覧ませ。急急如律令』」


パンと手を叩いて空中に札が浮かび上がると、

なんと札から高速で走り出していく白い狼が出てきた。

金色の瞳でこちらを見ながら、白狼は宙からゆっくりと歩いてきた。


「あ、ぅぅ…」

『……』

「あら、この子」

「見えてるな!?これは才能の片鱗ってヤツだろ?」

「そうね、式神が見える……私の血が濃いのかしら?」

「ははは!良かったなぁ〜母さんの強い所貰えてな〜」

「うぇへへ」


頭をワシワシと撫でられて喜ぶ。まぁこれは純粋に嬉しい。

……そっか。本当の家族がいるとこんな感じなんだな。本当の家族と、家族だと思ってる皆とは、なんか温かさが違う。

褒められるのだって純粋に心から嬉しい。

喜びを噛み締めていると、やはり視線が来る。

狼が見ている。俺の事を。


「うぁー?」

『…』

「……うー?(こいつ、気付いているのか?)」

『<気付いているとも>』

「うぁぁ!」

「あら、どうしたのかしら?」

「そろそろご飯か?ちょっと待っててな」


違う、そうじゃない。

今明らかに俺の心というか意識の方を読んできた。

読心術か?いや式神が使えるものなのか。


「ぅー(本当に聞こえるのか?)」

『<うむ、聞こえるとも>』

「ぁぅー(そうか。それはなんだ、悪かったな)」

『<怪しむ事はした。だが我が契約者に害がなければ契約者に報告する事もない>』

「うぅー?(契約者?)」

『<お前の母君の事だ。まず軽い自己紹介をしておこう。

私は白狼。母君のユキと契約している式神だ。この世界のな>』

「ぉぉー(この世界…まさかお前…)」

『<如何にも。見ていたとも>』


軽く色々と看破されて頭を抱える。

自分の無警戒さと気付かなさにあまりにも無知であった。しかしそんな時でも白狼は俺を見ている。


「ぅ、ぉぉー(なぁ、なんで俺の事真っ先に殺そうとしないんだ?どう足掻いでも怪しいだろ、赤子が大人みたいに考えているとか)」

『<妖の類かとは思ったが、違くてな。お前には特殊な力を感じるのだ。

特に陰の影が深い>』

「ぃー?(陰?) 」

『<陰陽。陰は闇を、陽は光を表す。これは霊術において基盤とされるものだ。

……ふむ、ではここらでお前の名前も聞いておこう。名前は?>』

「ゅー(リュート。別世界から、多分転生してきた)」

『<転生……そうか、輪廻転生か>』

「りー?(輪廻転生?)」


そう尋ねてみると、どうやらこの世界における生命のシステムらしい。

陰陽で善悪の存在と分かれたこの世界の魔物の様な存在、妖魔。

陰陽の妖気を纏い、善にも悪にも転がり込む魔物の妖獣。

そんな妖魔の邪気を祓い、清めた力と姿によって契りを守り契約する霊獣。

白狼は後者のパターンの様だ。


「ぉー(信じてくれるのか?)」

『<過去に前例がある。簡単に信じるとは言えないがな>』

「ほーらご飯だぞ〜」

「ぅー(だから違うって…)」

『<ははは、いいから食べておけ>』

「ぁーう(あのなぁ)」

『<一先ず……また今度落ち合おう>』


リン、と音を立てて消える。まるで元いた場所に帰るように。

またって何時だろう、と思いながらぼーっとしていると母さんに体を持ち上げられる。


「あら、白狼様と仲良く出来たのかしら?」

「あぅ!」

「ふふ、いい子ね〜」

「流石ユキの子だな!育ったらどうなるんだろうな〜」

「そうね。貴方の様な勇敢な子にも育って欲しいわね」

「ああ!」

「うぃー(……ま、ご期待に答えては見せます)」


期待を胸に母さんの乳を頂いた。味はそれなりにだった。

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黒き龍を討つ日まで 黒霧 氷 @Kurokiri0421

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