第8話「デート!? その二」
電車に揺られること15分、駅を出て目的の水族館にたどり着いた。
「やっぱり並んでますね」
チケットを買うための入口には行列…とまではいかないが少しばかり列ができているように見える。
とはいっても数時間待ちとかではなさそうだ。
これ以上列が長くならないうちに足早にゲートを抜け、列の最後尾に並んだ。
「ここって有名なのか?」
「知らないんですか?ここは県で一番大きな水族館なんですよ」
「え、そうなのか。全然知らなかった…」
確かに、外見がスポーツ競技より一回り小さいか、同じくらいの大きさだろうか。太陽の光を反射して光沢を出す金属でできた板が何枚も組み合わさって大きな壁を形成している。
「あ、もう順番来ましたよ」
並んでから5分もしないうちに順番が回ってきた。
俺たちはチケットを購入し、いよいよ入場した。
すると、外の気温より涼しいくらいの冷気が身を包んだ。水に囲まれていることもあり室内温度が低いみたいだ。
「あ!見てください!クラゲがいますよ!」
少し進むと、数種類のクラゲが青い光でライトアップされ展示されている。天井の照明が消えていることから幻想的な雰囲気が漂ってくる。
テレビやネットでは見たことはあったが、実際に間近で見たことはなかった。
冬華はまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにはしゃいでいる。意外と子供っぽいところもあるんだな、とふと思ってしまった。
「ふわふわしてて可愛いですね」
「こんなにふわふわしてるもんなんだな」
こんな幻想的な生物に猛毒があるとは恐ろしい。そう思ってしまったが、あえて口に出さないようにした。
クラゲの展示を堪能したあとに待っていたのは、マンボウだった。
先程よりも展示スペースや水槽が大きく、マンボウのみならず多種多様な魚が泳いでいた。
すると冬華が何か思い立ったようにこちらに顔を寄せ、
「マンボウって非常に繊細な生き物らしくて、ちょっとのストレスや環境変化で死んでしまうらしいですよ」
俺にそっと耳打ちをした。一瞬、体が固まった。周囲のことを配慮しての行動だと理解したがそれでも急に耳打ちされるのは心臓に悪い。
「へ、へぇ~。そうなのか」
俺の赤くなった顔をみた冬華がニマニマとしている。こういう顔もするんだな…。
なんとなく冬華の知らない一面を見れた気がした。
「あ、向こうにカワウソがいますよ」
また少し進むとカワウソと握手ができるコーナーがあった。ここは特に人気のコーナーらしく、人が他の展示スペースの倍近くいる。
「ここは結構混んでるな。よっぽど人気なのか」
「まあ水族館ではトップクラスに人気ですからね。握手の体験もできるので余程人気なんでしょう」
小動物が三匹ほど入れそうなガラスケースの中にカワウソが二匹入っており、手前のガラスには握手する(餌を与える)ための丸い穴が一つ開いていた。
少し並ぶと、順番が回ってきてふれあえることができた。
冬華は手の上に餌をのせ、穴に近づける。すると一匹のカワウソが穴から手を出し、餌を一つずつ取って食べた。
「わあ!かわいいですね!」
冬華がぱっと笑顔を見せた。なんだろう。ふと、どこかで見たことのあるような記憶が掘り返された。あの時だ。七年前のあの時も、こんな風に無邪気な笑顔を見せて一緒に遊んだっけ。
「楓くんもやってみませんか?」
「え?」
昔の記憶に浸っていると、冬華に餌を手渡され、半ば強制的に腕を引かれ餌やり体験をすることになった。まあ、嫌ではなかったが。
「うわ、なんかくすぐったい」
カワウソの手が俺の手のひらの餌を探る。ふにっとした肉球の感触が少しくすぐったい。
「ふふ、かわいいですよね」
冬華が笑顔で言う。太陽のような輝きを放って。いや、カワウソもかわいいんだけどね。冬華のその笑顔もかわいいよ。なんて心の中で思った。
その後、俺たちは水族館を楽しく見回った。
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「水族館、楽しかったですね」
「ああ。初めて行ったけどいろんな生き物が見れてよかった」
水族館を出て駅の方へと向かう。予想以上に館内が広く、たくさん歩き回ったため少し足が痛い。
「そういえば昼食…というには少し時間が経ってしまいましたが…」
時計を確認すると、14時55分と示されていた。確かに昼食にするには少し遅く、3時のおやつの時間帯である。
「すぐに帰って何か作りましょうか。少し多めに作って夕飯に持ち越せばいいですし」
冬華がそう提案し「そうだな」と一言返した。
少し早歩きになりながら駅へと向かった。
世話焼きで甘々な天使は俺とのハグがお気に入り 系坂 快卜 @KiNaKoAGePaN
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