欲しいのは 服の下にある夜だった

久々原仁介

プロローグ 裸の感情

 人の裸を描写するという趣味があった。


 昔から、人の裸が好きだった。


 他人の裸について「そんなの知りたくもないよ」という人もいるかもしれない。それでも僕は、裸について話をしたい。倫理観とか、貞操観念とか、そういう正しさを超えたことを、僕は話したい。


 この話を人にすると「性欲がつよいね」という言葉が返ってくる。僕はそれがすごく悲しかったし、嫌だった。


 「セックスをしたい」という欲望と、「人の裸を見たい」という感情は、僕にとってはまったく別物だからだ。


 僕の言う「人の裸を見たい」というのは感情だ。楽しいとか、悲しいとか、嬉しいとか。これらの喜怒哀楽と同じように、僕には「人の裸を見たい」という感情がある。


 街中でふと見かける人の裸を想像するときがある。この人はどういうカラダをしていて、自分のカラダについてどう思っているのか、好きな部位や、コンプレックスがあるのか。あるいはそのスタイルに至るまでのエピソードなど、気になり出したらキリがない。


 そこに男女の縛りはない。醜美の境もない。太っているとか、痩せているとか、そんなことは些細なことだ。僕は人のカラダを想像する。

そしてときには、目の前で服を脱いでもらい、描写をした。まるで仲のいい友達をキャンプに誘うように。


 人の裸を見たいのは、そこに嘘がないからだ。


 言葉はどれだけ偽ることができても、カラダは常に真実を表現している。カラダは噓を吐けない。だから僕も真実だけを書きたいと考えたとき、人の裸を書くようにしている。


 もしかするとそれは、ノンフィクション映画からしか得られない感動があるのと似ているのかもしれない。


 服を着ているときに話すことと、服を脱いで話すことは違う。僕にはそれを知りたいという感情がある。ずっとある。この感情は、溶けることのない雪のように積もっていく。


 僕は、人の裸について書くという行為をやめられない。


 欲しいのは、服の下にある感情だ。


 この感情を誰かと共有できたとき、僕の言葉はいったいどんな色を咲かすのか。


 それはきっと。


 君の裸を見ないと、わからない。

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欲しいのは 服の下にある夜だった 久々原仁介 @nekutai

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