夢見る強者の英雄伝

電さん

第1話 プロローグ

 皆は夢を見るだろうか? 寝ている間のものでは無く憧れているものの方だ。

子供の頃に決まる人、大人になってから見つかる人もいるだろう。小さい頃は俺にだってあった。


になりたい。


それが俺の初めての夢であった。子供らしいと嗤ってくれても構わない。だって子供の時の夢なのだから。


 両親に読まれてきた本に多く出てきた


 その人物は村、街、更には都市を救い遂には魔王を倒すと言う、今聞けば在り来たりな内容であった。けれども子供の頃はそんなお伽話の英雄に憧れた。


 勇者ごっこをして遊んで勇者役を誰がするかで喧嘩になる事も多々あった。

両親には自分は》に成れるかをよく聞いた記憶はやけに鮮明だ。


 聞くたびに「きっと成れるさ」そのような回答と優しい目が返って来たが中身は無かった。


 そのまま俺は何者にも成れないまま成長していった。そして俺は気付いた。


 勇者は存在しないと。


 愕然としたさ。だって信じて来た夢が消し去ったのだから。

例えるなら目標としていた学校の入試に落ちるような感覚だ。かなりの精神的なダメージを喰らうが立ち上がれないほどでは無いそんな感じであった。


 そして俺は第一の夢を捨てた。


 しかし俺はこれで学んだ。夢を作るには世界を知らなければならないと。そうして読み漁った書物。我ながらに馬鹿ではあるがこの頃はまだ12歳程度、これくらい許してくれ。


 そうして俺の第二の夢となったのは冒険者。俺は勇者に成りたかった時からの世界を冒険してみたい。そんな感情からこんな安月給の職についた。そう簡単に世界を回れてはいないけれど。

 

 しかし歳を取らなくなってしまったこの体には丁度良い刺激なのかもしれない。


まぁ、呪文一つで指先から炎や水が出るんだ。この世界に不老者がいてもおかしくは無いだろう?


 20歳で成長が止まったこの体。ここずっとは全盛期である俺。不死かどうかは知らないが強い事には変わりない。


 そんな全盛期である俺の現状は平民。今日も今日とてちっぽけな金額で依頼を受ける。そんな生活を過ごしている。


これが普通と呼ばれるものなのかも知れないが俺が子供の頃に憧れていた勇者とは程遠い。


 けれども自分では何故か少しだけの満足感を身に染み込ませていた。


 もしかするとこの不老を使えばとやらに成れるかもしれない。そんな事は唯の勝手な妄想だと考えていた。







「これを受けたいんだが大丈夫か?」


 とある建物内に俺の声が響く。とあると言っても冒険者なんだからギルド以外はありえない。事も無いかもしれない。


「………問題ありませんよ。ではここにサインをお願いします」


 そう言われて俺はペンにインクを付け走らせる。そして書面にザグレウス・フィオーレの文字を堂々と貼り付けた。それを確認した職員は紙を戻して言葉を続ける。


「今回の依頼、少しランクの高い人向けとなっていますが問題はないでしょうか?」

「無い」


「では、頑張ってください」


 端的な俺の言葉に定型文の職員の言葉。俺はこれ以外を聞いた事がないかもしれない。最早会話とも呼べない。でも口の形は変わらなくともその眼は1回1回変わっている。


 今回は少し冷やかだ。訝しむ様な軽蔑する様なそんな視線が書類を通して俺に刺さっている。


 何故なら俺のランクは20段階の下から4番目の赤、そして今回の適性ランクは紅。ランクは3つ程上のランクのものだ。少し長くなるがランクは下から、黒、白、黄、赤、青、紫、紅、蒼、鉄、鋼鉄、銀、黒鉄くろがね白銀しろがね、金、白金、ぎょく赤玉せきぎょく青玉せいぎょく宝玉ほうぎょくくろである。


 長ったらしいが紅未満はカス。これがギルドの定石だ。


単にランクの低さがこの職員の眼の原因だ。


何故受けるのか?そんな呆れた眼とも取れる。けれどもそんな質問は野暮だ。だって答えは名誉でも承認欲求でも無く金。これに限っているのだから。

 

 夢がない様にも思えるが結局この世は金である。


 大分に背伸びをした依頼を職員は止めようともしない。純粋無垢な新人の職員は止めるが4、5年この仕事をやると止める事は無くなる。


 だって、どうせ死んだら冒険者自身の所為だし、下手に止めたら喧嘩に発展することを知っているからだ。

 

 自分で受けておいて何だが、少しは止めて欲しいものである。まぁ、それは自分勝手な我儘わがままと言うものだろう。


 けれども俺はこの依頼で窮地に追いやられる事は無いはずだ。


 分かる奴もいるだろうが理由はランクの低さだ。60年程、冒険者をやってランクが下位止まりなことは絶対に無い。


 才能が無くとも10年ほどコツコツと依頼を受けていれば鋼鉄ほどにランクは上げれる。これが紅未満がカスと呼ばれる原因だ。それに真に才能の無い奴は10年も経たずに死ぬ。そんな業界だ。


 けれども60年目の俺は下位でカスと呼ばれる存在だ。単に俺の実力不足……と言う事ではなく理由は不老ということを隠す為だ。


 延々と見た目の変わらない人族。そんなの怪しまれるに決まっているし、その件で有名にもなりたく無い。だってこの国は過去に怪しい術を使えると有名な人族が魔の者として処刑された様に度々の悪魔狩りがあるのだから。


 その為に俺は冒険者のランクを3回ほど白紙に戻している。やり方は簡単で別のギルド支店で新しいカードを作るだけだ。


そして前回の更新は6ヶ月前である。そんな簡単にギルドのランクは上がらない。その為に俺のランクは赤だ。だが実力は赤より上にある。


何ならこのギルド支店の中で1番強いまであるかもしれない。そう俺は誇ることが出来ていた。


 今回は初めてエルフとして登録している為にかなりの年数を更新しないで済む。

どうせ種族確認は杜撰であり多少偽ろうとバレやしない。だって今まで何故この策を思い付かなかったのかと思える程に簡単に手続きは終わったのだから。


「気をつけてくださいね」


 そんな薄い言葉に俺はカウンターを背に向けて歩き出す。


 蝋燭すら必要ない程に明るく日光に照らされた建物内の光を吸収した髪が暑い。どうやら今日は気温が高くなりそうだ。

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