うすぐや密室殺人事件 推理編
「なんですか?みんな集めて。」
俺をギョロリと睨むようにして、立つ5人。
和風に作られたホールの中で、俺は足がすくみそうになるほどに、恐怖感を覚えていた。
「全員集まったようなので、これからこの殺人事件を真相を解いてみたいと思います。」
菊池さんがその言葉を言うと、ユウタが、眉を顰める。
「何を言ってるんだ刑事さん。犯人はキリヤに決まってる!それが真相だ!」
ユウタが大袈裟に、なんと言っても俺に見せつけるようにして、言った。
でも…
「キリヤさんは犯人であることは非常に低いように見えます。」
あたりに衝撃が走った。
「は、は!?あんたらちゃんと捜査したのかよ!?」
「ええ。だからキリヤさんが犯人でないことが分かったのです。」
「な、何故!?」
「まず、一つに銃を使う目的がないからです。リュウイチさんを殺すのであれば、射殺以外にも、刺殺や毒殺。窒息死させたりと、他の殺し方があるはずです。それに、殺すのであれば、場所を選ぶべきでしょう。見通しの悪い路地や、証拠がすぐに消せる場所。探そうと思えば、いくらでもあります。でも、犯人は何故か、人に見せびらかすように、旅館の中で、それも、銃という大きな音が出る武器で。私なら、風呂場で後ろから包丁で刺して、止血をした後、森の中に放り込みます。ですが、犯人はそれをしなかった。まあ、正しくいえば、出来なかったが正しいでしょうかね。」
解説を聞き終わると、今度はシオンが疑問を打ち明ける。
「で、でも、凶器がキリヤの部屋の中から発見されてますけど…」
「それについても、説明が可能です。銃を一番最初に見つけたのはユウタさんと聞いていますが合ってますか?」
「え?あ、はい…合ってますけど…」
「それでは、そんなユウタさんに質問です。銃の中の残弾数は0で、全て撃ったように見えた。そうですよね?」
「え?あ、はい…」
「それじゃあ、キリヤさんに銃を見せるとき、こんな風にして見せましたか?」
菊池さんは銃身を手のひらでしっかりと握り、銃口を下に向けてユウタに見せつける。
「あ、はい…そんな感じです…」
「銃は連射するほど、摩擦熱や、銃弾の火薬が爆発したことによって生じる熱のせいで熱くなるんです。そのため、発砲した後、銃身を握ることは火傷につながります。でも、火傷をしていない。それは、その銃が、元から撃たれていないことを示唆します。」
「え…」
「あ!!!」
「そして、銃は撃つと、薬莢という物が排出されます。ですが、それは先ほども言った通り、すでに爆発をしたもので、とても、熱くなっています。九発も銃を撃つと、そんなちょっとでも触れたら火傷レベルのものが、地面に転がっていたら、他の人は見逃しません。ですが、事件現場にはそれが転がっておらず、見つかっていないとなると、『銃を撃たれたのは外から』ということも考えられます。」
「た、確かに!!!」
その場に今までに無い可能性が提示されると、俺を睨みつける目は無くなっていた。
「もし、外から撃つのであれば、ガラスの損傷を避けて撃てる大きな窓の隣にある、小さな窓からでしょう。」
「あの小窓ですか?」
「はい。あの、上下による開閉ができる小窓。あそこからとしか考えられません。そうなると、リュウイチさん自信が開けた時、銃弾が撃ち込まれたとしか言いようができません。」
「それはスナイパーとかですか?」
「いえ。拳銃です。」
「拳銃!?」
「はい。犯人は拳銃を木に括り付けて、窓が開くと同時に重しが下に落ち、そして、その重しの重さによって、引き金が引かれる仕組みにしたんです。その時、拳銃はフルオート。つまり、長く引き金を引くことによって、何発も出るようにしたのです。そのせいで、九発。つまり、全ての弾丸が発射されるようになってしまったのです。」
「ま、待ってください!」
ここで、シオンが菊池さんを引き止める。
「な、なぜ、紐を使ったとわかるんですか?それに、もし、そうやって犯行を行ったとしても、どうやったら、『リュウイチが窓を開けた』となるんですか?おかしいですよ!」
菊池さんは今までの真顔をちょっとした笑い顔に変える。
「それが聞きたかったのです。シオンさん。あなた達の部屋の中には紐がありますよね?」
「え?」
「だって、何よりゴミ箱に捨ててありましたし、キリヤさんを縛ったビニール紐は持参したものでしょう?」
「あ、は、はい!そうです。何故か部屋の中にあったので持ってきました。」
「実は、ゴミ箱の中にあったビニール紐の一つに、木の破片がついている物がありまして、私はそこから犯行に使われたのではと思いまして、それと、実は私、木の側に二つの『ある物』を見つけていまして。」
菊池さんはポケットの中をごそごそと探すと、写真のようなものと、葉っぱのようなものを出した。
「まずは写真の方をみてください。」
写真には泥の上に何か、重いものが落ちたような地面の跡があった。
「実はこれ、中庭の写真なんですが、このように何か重い物がのしかかった跡がありました。まあ、重しなんでしょうか?すぐ近くにちょっとした岩があったのですが、何故か、動かされた形跡があり、泥が従来着くことの無いようなところにもついているんですよね。」
菊池さんは岩に泥がこびりついた写真を見せる。
「どうやら、犯行時間が夜だったようで、見えなかったのでしょうか…」
菊池さんは写真をポケットにしまうと、左手に仮持ちしていた葉っぱを出した。
葉っぱには丸い穴が空いていて、何故か穴の周りが少し焦げていた。
「これは、弾丸が撃ち込まれたと思われる葉っぱです。実はこのような葉っぱは中庭のある一定の部分にだけたくさんあったんですよね。」
「それって…」
「事件現場の、小窓の真っ直ぐ直線上の位置にある、一本の木の枝です。なので、この観点から私は先ほど言ったようなトリックを考えました。あってますよね?リョウさん。」
菊池さんが言った名前の人物。
その人物を見ると、何故か、苦しいような顔をしている。
「お、俺はやっていない…」
「無駄ですよ。この中で、銃知識が無いのは、リョウさんあなただけです。」
「だ、だからって…」
「実は先ほど、あなた達がここに集まっている中、こっそり、リョウさんの荷物の中を探ってみたんですけど、こんなものが出てきました。」
菊池さんは何か、青く塗装されたスピーカーのような物を出した。
「それって、音楽プレイヤー?」
シオンがそのスピーカーのようなものを見て言う。
「いえ。これはコンクリートマイクと言って、壁越しの盗聴ができるマイクです。話に聞くと、夕飯の前、ショウさんとリョウさんで、事件現場のトイレに行っていたらしいですね?その時、ショウさんはトイレに行った後、手を洗って夕飯に向かったらしいですけど、そのあとにリョウさんは、手洗い石鹸を全て流した後、詰め替え用だけを置いて、トイレを後にした。そうですよね?そして、リュウイチさんはめんどくさがって、石鹸の詰め替えをしないけど、キリヤさんは真面目だから、石鹸の詰め替えをする。その可能性を信じたんでしょう?」
「だ、だからって…!!!」
「先ほど、キリヤさんから全ての話を聞き、その後、私がコンクリートマイクを取りに行く時、レシートが転がってまして、それを見ると、石鹸の詰め替えパックの欄がありました。それを参考に、筋の通るように言ってみただけです。でも、私の一番の決め手となったことは、リョウさんのその火傷の後ですね。」
「っく!!!」
リョウはそのことに気づくと両手を急いで隠す。
「空薬莢の存在に気づいたんでしょう。外に落ちていた空薬莢を処分しようとした時、銃知識に劣ったあなたは、空薬莢は排出された後はとても熱くなることを知らず、そのまま素手で触ってしまった。そして、火傷した。親指の怪我はその時のものでしょうね。」
リョウを見ると、リョウは黙ったまま、滝のような汗を流し、じっと菊池さんの目を睨んでいた。
「今、全て言えば、刑が軽くなりますよ。」
菊池さんはそのことを言うと、リョウは目を瞑り、諦めたかのように全てを語り始めた。
「はい。俺がリュウイチを殺しました。」
「な、なんで!?」
「あいつ…俺が貸した1000万返さねえから…」
その途端、その場が凍りつく。
「探偵さんが言ってくれたのと同じです…窓を開いたら、銃弾が放たれ、リュウイチを殺す。重しを使ったトリックで、ショウがトイレに入っている際に、窓に引っ掛けを挟んで、コンクリートマイクで、キリヤがトイレに行くのを見計らって、下の階の部屋に向かって、石を投げる。そうすると、好奇心旺盛のリュウイチは窓を開け、それと同時に引っ掛けは窓から外れて、重しが落ちるのと同時に、窓辺に撃たれるよう、設置した銃はリュウイチを突き抜ける。これが事件の全てです。」
そのことを話すと、すぐに、佐藤さんが手錠を出し、リョウの手首に掛けた。
「午後13時39分。リョウさん。あなたを現行犯逮捕します。」
「はい。」
全ての事件が解決すると、俺はようやく、肩を落とす事ができた。
「はぁ…」
「残念でしたね。」
椅子に腰を下ろしていた俺には菊池さんが俺を覗きこんでいた。
「まさか、二人も友人を失うなんて思ってませんでしたよ…ホント…」
「まあ、これからもまだまだ、何か出会いがきっとありますよ。」
俺は目元を拭って、「そうだといいんですけどね。」とだけ言った。
「これからの人生は長いですよ。」
「な、なんかありがとうございます。」
「いえいえ。それでは。」
そう言いうと、菊池さんはいつの間にか居なくなっていた。
「はあ…リュウイチ…」
うすぐや密室殺人事件 最悪な贈り物 @Worstgift37564
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