うすぐや密室殺人事件 捜査編
「おはようございます…」
次の日の朝。
俺たちは旅館の食堂に集まった。
食堂では、不穏な空気とともに、俺、キリヤに対する殺意のようなものすら感じる。
「それで?なんでキリヤはリュウイチを殺したんだ?」
ギロリとした目付きでシオンが睨む。
「だから!!俺はリュウイチを殺してなんかいない!!!」
「これだけは言いたくはないが…あそこの中で殺せるのはお前だけなんだ…それに、今更足掻いても無駄だよ…なんつったって凶器はすでに見つかっているからな…」
そう。すでに昨日。何故か、俺とリュウイチの部屋には拳銃が入っていた。
そして、昨日の内に拳銃の中身は空っぽであったことが判明している。
「じゃ、じゃあ!!マスターキー!!カウンターとかに誰かが潜んでマスターキーを盗むとかあるじゃん!!!」
「その線はないってさ。マスターキーはいつも女将さんが持っていて、リュウイチが殺された時には、女将さんはカウンターで他のお客さんの接客をしていたし、女将さんにはアリバイがある。」
「そ、そんな…」
ここでユウタは「はあ」と息をついて、「もう認めろよ。部が悪いぞ」と言った。
「お、お前!!!」
俺はついカッと頭に血がのぼり、ユウタの服の胸元を掴んだ。
「おお…随分と演技が上手なんだな…」
俺は手を上に掲げる。
「これが演技に見えるか!?」
「は、はは!!ほ、他の奴らの顔も見てみろよ!?」ユウタは怯えた声でそう言うので、俺は周りの奴らも見る。
だが、俺は仲間達…いや、仲間と思っていた奴らの目を見たが、俺は一気に失望した。
シオンは少しだけ、俺から距離をとっていて、リョウは右腕を抱えて斜め下を見ていて、ショウはこちらを憎むような敵を見るような、そんな憎たらしい何かを見ている目をしていた。
「す、すまん…お前のことは信じられない…」
リョウが、追い込むようにその言葉を発した。
「お、お前がやったんだ…絶対そうだ!!お前だけができたんだ!!!あんな部屋でお前以外がリュウイチを殺すなんて…到底できないさ!!!」
「し、信じてくれよ!!ショウ!!俺は無罪だ!!!」
「だめだ!!信じられない!!お前以外に殺人鬼なんていない!!そうだ!そうに決まってる!!!」
「お前なんか…来なければよかったんだ!!」
「し、シオンまで…」
俺は強く右手を握った。爪が食い込み、痛みが走ったが、今は気にしない。
「リョウ!!お前は信じてくれるよな!?!?」
リョウとは、中学の時はリュウイチの次に一緒にいた存在だ。あれだけの信頼があると思い、俺はリョウを信じた。だが、俺はすぐに裏切られた。
「すまん。お前以外に犯人がいるのかは俺にはわからない。」
つまり、遠回しの言い方ではあるが、「俺は犯人がお前であるに違いない」と言っているのだ。
「そ、そんな…」
俺はその場に倒れ込んだ。
「お、俺はやっていない…」
目の焦点が合わない。
手がプルプルと震える。
足に力が入らない。
「おい。手を出せ。」
「え?」
「いいから早く!!」
俺はシオンに、言われるがままに手を出すと、いつの間にか、両手はビニール紐で縛られていた。
「な、なんで…!?」
「殺人犯を放っておくわけないだろ!!警察が来るまで、そこで大人しくしてろ!!」
そう言われると、俺は無理矢理立ち上がらされて、ボイラー室の中に投げ込まれた。
「な、なんでこんなことに…」
俺はそう呟いた事を最後にすぐに眠ってしまった。
昨日喪失感で眠れなかったその反動がきたのであろうな…
「起きてください。あなたには一番最初に聞かないといけないことがあるのです。」
「ん…うわああああ!!!!!!」
俺が次に目を覚ますと、目の前には知らない男性の顔が視界いっぱいに広がっていた。
俺は驚きすぎて、頭をボイラー室の鉄の管に勢いよくぶつけてしまう。
「い、痛ってええええ…」
知らない男性は腰を高くあげ、真っ直ぐに立ち上がる。
「早くしてください。一刻も早く謎を解きたいんです。」
「う、腕が、ビニール紐で止められているんですけど…」
「ビニール紐は摩擦なんかですぐに切れます。靴紐とかでちぎってしまいなさい。」
「え?」
「早くしてください。時間がもったいないです。」
俺は少し怪しく思いつつも、靴紐を縄に擦り合わせると、すぐにビニール紐は千切れた。
「え、早」
「それじゃあ、容疑者さん。私を事件現場へ送ってください。今すぐに」
「ちょ、ちょっと待ってください!!一体あなたは誰なんですか!?」
サングラスを掛け、ごく普通の髪型をした、スーツを着こなした男は、「はあ…仕方ないか」というと、スーツの中から何かを取り出した。
「警視庁に新しく開設されることとなりました、探偵課から派遣された菊池と申します。」
「は、はあ…菊池さん…」
「それよりも、早く私を事件現場へ…」
「き、菊池さーん!!!」
菊池と名乗る男が自己紹介を終えると、遠くから誰かの声がした。
「菊池さん!!大体のアリバイやらなんやらと、事情みたいなの?全て聞いてきましたよ!!」
新たに女性がどこからともなくやってきた。
「ありがとうございます佐藤さん。それでは資料をもらえますか?」
「はい!!ってこちらの人は?」
佐藤と呼ばれたスーツ姿のこの女の人はポカンとした顔で俺の事を見る。
「こちらの方は容疑者の方です。」
「よ、容疑者!?え、えっとて、手錠…」
佐藤さんは自身の腰あたりを調べ、手錠を調べたが、一向にそのようなものが出てくることはなかった。
「佐藤さん。いいですか?容疑者の段階ではまだ逮捕できませんよ?なので、手錠をかけることもできませんよ?」
「え?あ!そっかぁ〜私ったらうっかりしてました!」
テヘと言っているようなこの表情は何故か、緊張感のないように感じた。
「ここが事件現場ですね?」
「はい…」
事件現場には、生々しい、血の溢れた痕跡の赤い汚れがあった。
リュウイチの遺体はなく、リュウイチのいた場所には、白いテープが貼られていて、人型の形をしている。
「被害者は窓に足を向け、頭を出口の方に向けて倒れている。」
菊池さんはそう言いながら、テレビの少し横にある、拳銃の入っていた棚の横に立ち、手を銃の形にして、窓側に向ける。
「もし、銃を打つなら、この位置ですね。この位置なら、誰かが来てもすぐに、銃を棚の中に隠すことができる。」
「で、でも僕は…!!!!」
「撃っていない。そう言うんでしょう?」
これは、信じていないな…
「ここから打てば、心臓などに直撃させることも容易でしょうね。サバイバルゲームをしているあなた達なら。」
俺は目をカッ開いて、つい「な、何故そのことを!?」と言った。
「今回の目的の理由。サバゲーをしに来たそうですね。」
「そ、そうなんですか!?」
「はい。シオンさんがそう言っていたらしく、シオンさんの話によると、リョウさんのデービューを目的とした旅とも聞いてます。」
「リョウの!?」
「リョウさんは、銃に関して全くの無知のようですね。とすると、リョウさんはまあ、無いでしょうね。」
「菊池さん!シオンさんの話によると、サバゲーが1番うまかったのは、キリヤさんと意聞いております!」
佐藤さんが、バインダーに挟んだ紙をペラペラとめくりながら言った。
「それでは、あなたは心臓に一発で撃ち込むこともできると言うことですね。」
「そ、それは…」
た、確かに…この距離からリュウイチの心臓を狙うことなんて、容易いことだ。
だが、だが俺は…!!!
俺は何も言えずに、ずっと、手をギュッと握っていた。
「佐藤さん。一つ確認したいことがあります。」
「はい!なんでしょう!」
「殺人事件があった後、ここは誰にも入っていませんか?」
「はい!誰も入ってはいません!外にある監視カメラから、そのことはわかっています!!」
「わかりました。ありがとうございます。んふふ。面白くなってきましたね!!!」
「それで?僕のこと…逮捕するつもりなんですか?」
俺が諦めた声で、言うと菊池さんは驚くべきことを言った。
「ふん。まだ証拠が不十分です。あなたを今、逮捕することは私にはできません。他の人に聞き込み調査をします。佐藤さん。他の人に聞き込み調査をしましょう。」
「しょ、証拠が不十分…?」
「ええ。拳銃に指紋がついていませんでした。」
「け、拳銃って…僕の部屋にあった…?」
「はい。なので、まだ容疑者です。犯罪者ではありません。」
「はあ…」
結局犯罪者扱いされるんだろうな。
「え!?まだ証拠が不十分!?」
「はい。なので、昨晩のことについて教えてくれませんかね?」
「305」と書かれた部屋の中に、リュウイチ以外の人間が集まり、シオンらは事件について菊池さんから話を受けていた。
「はあ…殺された人と同じ部屋にいて、しかも部屋は鍵がかかっていて完全な密室だったのに、まだ逮捕できないんですか!?」
「すいませんね。私も証拠が全てなければ、逮捕ができませんのよ。」
「はあ…しっかりしてくださいよ…」
「それでは、皆さん。事件当時の前後の話を聞いてみてもいいですか?」
リョウとシオンは顔を合わせる。そして先に口が開いたのはシオンの方だった。
「えっと…俺は確かその時にはゲームをしてましたかね…リョウは何してた?」
「俺はその時は、多分音楽を聞いてたんかな?」
「音楽?」
「ええ。これで。」
そういうとリョウはポケットからイヤホンを出した。
「これで聞くんです。」
リョウさんの話が終わると、後ろから佐藤さんの「廊下に設置されていた監視カメラからは、事件当時に誰も廊下に出入りしていません。」
「なるほど。」
「やっぱりキリヤさんがやったのでは…」
「さあ…どうでしょうね…」
「刑事さん、何かあるんですか…?」
とリョウが聞くと、菊池さんは少し微笑みながら、言った。
「いえ、メインディッシュは最後に残しておくものですよ。」
そして、それに付け足すように「それに私は探偵課です。」と言った。
「年の為、他の人の話も聞いておきましょう。」
そういうと、佐藤さんは敬礼をしながら「はい!」と大きな声を廊下に響かせた。
リョウたちの隣の部屋、306と書かれた部屋のドアを菊池さんはノックする。
「はい?」
そう言いながらドアを開けたのは、ユウタだった。
ユウタは俺を見るなり、何かひどいものを見たような目をして、汗を垂らして、「なんですか?」と言った。
「捜査についてまだ不確かなことがあって、それで話を聞きに来ました。」
「はぁ?別に捜査する必要なんてあるわけないじゃないですか!?だって犯人んはそこにいるキリヤに決まっているんですから!!」
「もしもの時の為、捜査にご協力できませんか?お願いします」
そう言いながら、菊池さんは頭を下げる。
そして、それを見たユウタはため息を付き、「手短にお願いしますよ?」
と言いながら菊池さんを部屋の中に招き入れた。
「ショウ。捜査だってさ。」
部屋の中には、黒光する銃をいじっているショウの姿があった。
「ああ。刑事さん。」
「こんにちわ。それよりそれって…」
ショウは手元にある拳銃を一目見てから、菊池さんを見ると、笑って「ああ?これですか?モデルガンですよ…俺とリュウイチはサバゲーをやっていた仲で、この拳銃、隆一から貰ったやつなんですよ。」
「そうだったんですね…」
いつの間にか、横に居た佐藤さんがなぜか涙を流していた。
「それで、何か知っていることがあれば、何か教えていただきませんでしょうか?例えば、ここに来るまでの道中の話とか。」
「道中は何もなかったような気がしますけど…」
「あえて言うんだったら、途中にスーパーに寄った事くらいかな…」
と、ユウタが言うと、先ほどまで泣いていた佐藤さんがなぜか目をキラキラさせなが、「ちなみにどこのスーパーですか?」と聞いてきた。
「え、えっと…堺屋って言う地元のスーパーなんですけど…そこでシオン以外の全員がトイレに行っただけで…」
「特に事件との関わりはなさそうですね。」
◇
「結局何もありませんでしたね…無駄足だったみたいですね…」
「それじゃあ、もう一度、私は事件現場を見てこようと思います。佐藤さん。ホールに6人全員集めてください。」
「え?なんでですか?」
「事件が解けそうです。」
俺はその言葉に驚きを隠せなかった。なぜなら、その言い方はまるで、「真犯人を見つけた。」と言うように俺の目を真っ直ぐ、そして優しく見たからだ。
「そ、それはどう言う事ですか?」
「真犯人がいます。」
「それは…」
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