第58話 キナ臭いリゾート地
セネットさんの証言から、このリゾート地が完成するまでに地元住民とひと悶着があった事実が発覚。
それと今回の騒動がどう関係しているのか……接点に関してはまだ不透明だが、俺とトリシア会長はともにキナ臭さを感じ取っていた。
「セネットがわたくしたちを地元の方々から遠ざけようとしている理由……単に恨みがあるからというだけではないように思えますわね」
「同感です」
「さすがはわたくしが見込んだ殿方ですわね」
うん?
俺ってトリシア会長に見込まれていたのか?
てっきりまだ眼中にない存在かと思ったけど……いや、わざわざ別荘に招待してくれるわけだから他の男子生徒に比べると少しはリードしていると考えてよいのか?
「それにしても、セネットも迂闊ですわね。政治も経営もまずは地方からですわ。足場をしっかりと固めてから大事に取り組まなければ土台から崩壊する恐れがありますのに」
なんか政治家みたいなことを言いだしたな――いや、貴族なんだからその考え方はある意味必然なのかもしれない。
そういえば、前世にいた偉い政治家先生も言っていたよ。
支持を得るには地元の山村や漁村から攻めろって。
トリシア会長……いや、この場合はハートランド家になるのかな。
どちらにせよ、民を導く術を把握できている。
御三家と呼ばれるだけのことはあるな。
そんな調子で南に進んでいた俺たちだが、突然右腕が重くなる。
視線を移すと、なぜかコニーがしがみついていた。
「あの……コニーさん?」
「なんですか?」
「それはむしろこっちのセリフなんだが……何をしている?」
「せっかくなので腕を組んで歩こうかと」
なして?
謎の行動の真意がつかめず、俺は助けを求めるようにクレアへと視線を送った。
……ダメだ。
あっちはあっちで「その手があったか!」みたいな顔をしている。
そしてすかさずコニーと反対方向の腕にしがみついた。
「ふふふ、随分とユニークな歩き方ですのね」
突然の事態にも笑ってそう答えるトリシア会長。
ちなみに一部始終を後ろで見ていたルチーナはノーリアクション――かと思いきや、鼻息が荒くなっていた。
興奮しているのか?
こうなったら、素直に直接聞くとするか。
「本当にどうしたんだ、ふたりとも」
「だって……レーク様ったらさっきからずっと会長さんとしか話してないし」
「そ、そうだぞ。私たちはチームで動いているというのを忘れちゃダメだぞ」
あぁ……そういうことか。
「すまなかったな、ふたりとも。だが決して忘れていたわけじゃない。――ふたりの活躍には期待しているよ」
「「期待している……」」
この言葉が思いのほか効果的だった。
コニーもクレアもヤル気を取り戻してくれたようで、表情がハツラツとしている。
やれやれと肩をすくめていたら、目の前に大きな壁が現れた。
「これがリゾート地と外を隔てる壁ですわ」
「高いな……」
少なく見積もっても十メートル以上はありそうだ。
おまけにただ高いだけでなく、結界魔法で外部からの侵入を防いでいるようだ。
「あの男は本当にここを抜けだしたのでしょうか……」
「手引きした者がいればそうでしょうね」
つまりは行ってみなくちゃ分からないってわけか。
とりあえず、ここからどうやって外に出るのか――これが最初の山場だな。
※次回から不定期更新となります。
週2、3回ほど更新予定です。
次の更新予定
毎日 07:00 予定は変更される可能性があります
楽して儲けたい悪役商人の勘違い英雄譚 ~大商会の御曹司に転生したから好き勝手に生きたかったのに!~ 鈴木竜一 @ddd777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。楽して儲けたい悪役商人の勘違い英雄譚 ~大商会の御曹司に転生したから好き勝手に生きたかったのに!~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます