第57話 大捜査網
詰所から逃亡した男を追って、俺たちはリゾート地を駆け回る――はずだったのだが、さすがにこの広い土地をあてもなく捜し回るというのは効率が悪い。
だが、だからといって男の逃走先に見当があるわけでもない。
「さてどうしたものか……」
そもそも今までのケースとは違い、悪党自体が本来存在していないという前提でこのリゾート地は成り立っている。
……いや、そりゃ腹黒いことやっている貴族とかはいるのだろうけど、そういった輩を狙おうにも厳重すぎて叶わないのだ。
となると、考えられるのは貴族同士の抗争?
その可能性はないかとトリシア会長に尋ねてみたら、
「万にひとつもあり得ませんわね」
即座に一蹴された。
「中には互いによく思い合っていない貴族もいるのでしょうが、事を荒立ててまで相手を押しのけようというのはリスクが高すぎますわ。ただでさえ、国内ではベッカード家の一件が未だに尾を引いているというのに」
ベッカード家って、コニーを拉致監禁していたあの変態教師の実家か。
犯人であるクレイグ先生は国外追放処分となったらしいが、どうもあれから貴族同士での睨み合いは硬直状態に入っているらしい。
まあ、貴族同士じゃなくて、クレアの実家であるメルツァーロ家のようなパターンもあり得なくはないが、こちらもやはりウォルトンのその後を考えるとそこまでやって得られるリターンが少ないという判断となり、無茶はしなくなったのかな。
あんまり派手にやりすぎて王家や御三家とかに目をつけられたくはないだろうしね。
とりあえず、例の男が現れたという場所へ向かってみる。
すると、そこで意外な人物と出くわした。
「おや、奇遇ですね」
このリゾート地を管理するセネットさんだった。
「セネット? ここで何をしているのかしら?」
「このリゾート地で起きた事件の数々に対し、私は責任を感じております。少しでもみなさまのお役に立てるよう、こうして見回りをしていたんです。とはいえ、戦うことに関してはからっきしなので、あくまでも見張り役という面が強いですが」
「それでも行動を起こしているのだから凄いですよ」
俺の元上司なんて部下に責任を押しつけてふんぞり返っている能無しだったのに、それと比べたら真摯で上等すぎる対応だ。
「ギャラード家のみなさまには本当に多大なご迷惑をおかけしました。せっかくの楽しいバカンスを台無しにしてしまって……」
「き、気にしないでください!」
「そうですよ、セネットさん」
申し訳なさからか、顔色が悪くなっているセネットさんに対し、コニーとクレアは元気づけるようにフォローを入れる。
すると、俺たちが逃げた男を追っていると聞いたセネットさんは突然町の南側を指さした。
「あちらには行かないようくれぐれも注意してください」
「なぜです?」
「反対派の住人が居座っているのでしょう?」
険しい表情でそう答えるトリシア会長。
しかし、反対派の住人って?
話を聞くと、このリゾート地を造る際にもともとここで暮らしていた人たちは大反対したらしい。
セネットさんをはじめとする関係者は新しい村へ移転させることを約束し、なんとか建設に持ち込めたらしいが……今でも反対の意思を持っている者はいて、抗議活動を行っているという。
「ただ、近年は沈静化しており、村の者がここで働いたりしています。とはいえ、全員が全員そうではなくて……」
「分かりました。南側には行かないよう気をつけます」
「ありがとうございます。それでは私はこの辺で」
それだけ告げて去っていくセネットさん。
彼の背中が見えなくなると、
「……分かっていますわよね、レークさん?」
「もちろんですよ、会長」
俺たちは示し合わせたように笑みを浮かべる。
――目的地は決まった。
ここから南だ!
※次回より不定期投稿になります(週2,3回ほど)
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