いたみを抱える男

御願崎冷夏

原稿用紙


いたくていたすぎて

向き合いたくない


いまどき原稿用紙なんて

よくみつかったものの


薄っぺらい紙を

広げればきっと

吐き出せると思ったんだ


腹と背骨の

間に刺さったまんまの

憎むべきいたみを


卑屈な嘘をついてごまかした

本当の気持ちを


行き場所を閉ざされた

愛しているという言葉を



ぼくは何時間も

なんにも書けないまんま


空白の原稿用紙に

ぽたぽたと

涙ばかりを垂れ流した


声をあげてしゃくり上げるうち

いたみはすこしの間薄らいだが

腹と背骨の間にあるままで


むしろ居心地よさげに

わずかにかたちをかえながら


ぼくの中にはっきりと

居坐るのがわかった



いつか原稿用紙が尽きるまで

ぼくはこのいたみを


信じる。









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いたみを抱える男 御願崎冷夏 @uganzaki

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