思い出のダンボール
大家さんに部屋の鍵を受け取り中に入った。
ちなみに誰が引越しの時の荷物を運んでくれたのかは教えてくれなかった。なんでも話さないでくれと大家さんに伝えてるらしく、自分で探さないといけなくなってしまった。この事は後回しでもいいか。
俺達は靴を揃えて部屋に入った。
部屋には家具が予め置かれており、それがなくてもそこそこ広く、二人でも暮らせるくらい広いので、一人だともっと広く感じる。
「なんでテーブルやベッドが既に置かれてるんだ。」
「きっとダンボールを運んでくれた人からのささやかなプレゼントじゃないかな?」
「そうだといいんだけどな。家具屋に行く手間が省けたと思えばいいか。」
「うんうん。そう言うことにしようよ!」
誰が運んだか、誰が手配したのか。いずれ分かることだろう。今から焦って探す必要は全くない。
「それにしても結構広いね、キッチンや水周りも綺麗だし。本当に怜斗君一人で暮らすの?」
「そのはずなんだけどな...。もしかしたら誰かがうちに来るのかもな。」
冗談でこんな事を言ったつもりだったが、文香は少し落ち込んだような顔をした。
「ははっ...。そっか。」
「...まさか本当にそんな事あると思ってないよな?」
「えっ?そんな訳ないじゃん!冗談だってわかってるよ」
彼女は笑いながら言ってはいたが、多分内心本気でドキドキしていたんだろう。その証拠に彼女の顔がパッと明るくなった。わかりやすいな本当に。
「そんなに俺が他の人と暮らすのが嫌なのか?」
「えっ?別にそういう訳じゃないけど。」
「そんな事言って本当は不安だったんだろ?俺の事でも好きなのか?」
「うーん。好きって言うより、また他の人に友達を取られちゃうのが嫌で...。」
「そうか。」
少々素っ気ない返事をしてしまった。ごめんな。
しかし、また...か。過去の文香にそう思わせる何かがあったのかもな。
「そ、それよりダンボールの片付けしちゃおうよ!全力で手伝うよ」
「ありがとな。じゃあまずはこの1番でかいヤツから。」
そう言っていちばん大きなダンボールに手をつける。
テープを取り中身を見ると、本が詰められていた。
経済学、心理学、物理学など。様々な分野の本から、ライトノベル等の小説まで。王国にいた頃のささやかな楽しみが本を読むことだったので、大学生活にそれが着いてくるのは嬉しい事だ。
「すごい量の本...。読書家なんだね」
「まぁな。本があるだけで毎日の生活が豊かになるし。いいもんだよ。」
「それはあるかもね。っていうかジャンルの幅が広いけど。」
「高校生の頃までやっていた仕事の関係で、色んな分野の本があってな。」
「高校生の頃までなんの仕事してたの?」
「まぁ、外国でちょっと。」
「外国で...へぇ。それなのにライトノベルがあるんだ?」
「通販を使って買ってたんだよ。外国には本当にいたんだ。」
「ふぅん。そういうことにしてあげる。それより残りのダンボールの中身早くみたいな。」
「はいはい。待ってろすぐ開けてやる」
文香に急かされて残りのダンボールを開ける。
昔の仕事場で使った時の服や、仕事を辞める時に貰った写真立てなどが入ってた。それら一つ一つを懐かしみながら次々とダンボールを開け切った。
全て開けきり、残り1つとなったダンボールの中に
奇妙なものが入ってた。
「これは...?」
そこには昔の俺と王国のわがまま王女のツーショット写真と、裏に手紙が添えられていた。恐る恐る手紙を開くと、日本語でメッセージが書いてあった。
"私から逃げられると思わないでね。いつかきっと探し出してやるから覚悟しておきなさい。"
...。怖い。逃げるようにあの場所から出たのに。って言うかいつだ?いつ手紙を入れていたんだ?ひょっとして俺が居なくなることがわかっていたんじゃないか?
「...。」
動揺しながら必死に思考を巡らせた。
「どうしたの?なんか怖い顔してるよ?」
どうやら俺は気が付かない間に怖い顔をしていたらしい。そんな顔をしていたのか。真顔だったと思うんだけどな。
「いや、なんでもない。それよりダンボールの手伝いありがとな。」
「全然いいよ、あっ、後で私の家に来る?一応ご近所さんだし、おばあちゃんにも怜斗君を紹介したいし。」
「あぁ。行こうかな。」
「おっけ!じゃあ今から行こうか!」
「そうだな」
悪魔の写真と手紙をテーブルの上に置いて、文香の祖母の家へと向かった。
ストレリチアの道しるべ ASACA @Asaca_Gray
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