第32話 友達に好きな人がバレた
「次は二人三脚だっけ〜?」
徒競走から帰ってきた千明はブルーシートに腰を下ろしながら言う。
1位を取れたからなのか、はたまたいつもからなのかはいささか判断のつけようがないが、笑顔は欠かさず浮かべている。
そして、先ほど千明のことを見直した女子たちがこちらを盗み見ていた。
「そだ」
千明自身も女子に見られているということは分かっているはずなのだが、何も対処をしない。
ということはこの優越感に浸っている可能性もある。
この機会だ。良い女子を見つけて好きになったら良いと思う。
そう思って千明のことを見下ろそすと、
「あっ、ちなみにだけど僕は彼女いらないよ」
「……なぜ分かった」
「えぇ〜?男の勘ってやつかな〜」
「そうかよ」
ニヨニヨと俺の顔を見ながら口を緩ませる千明から、目をそらした俺はトラックの方を見やる。
先ほど千明が立っていたカラーコーンには男子同士やら女子同士、たまに男女のペアで立っている生徒が見受けられた。
我がクラスからはあの野球部とあのサッカー部副キャプテンが出るとのことなので、まぁ安心だ。
ひとクラス1グループということもあり、カラーコーンに立つ人数は先ほどよりも少ない。
だからだろう。俺が――いや、隣りにいるこの女も見たくなかったであろうものが目に入ってしまったのは。
「なんで三鶴があの女の肩を掴んでるの……!!」
その人物を視界に入れた途端、隣の女はムッっと口をとがらせ、限りなく目を細めた。
「あの男が美緒と一緒に走る……?もっと他に人いただろ……!」
ブルーシートをバシバシ叩く俺と、自分の太ももを叩く藍沢に、千明は「はは〜ん」と口角を上げた。
「崇くんたち、あの二人のことが好きなんだねぇ〜?」
「「あっ……」」
美緒のことで完全に気を取られていた。
口を揃えて動揺する俺と藍沢は目を合わせ、そして千明のことを見て、また口を揃えて言う。
「「……はい」」
「あの二人、確かに可愛いしかっこいいよね〜」
目を伏せて素直に白状する俺達に、千明はまさかの肯定を示したのだ。
思わず目を見開いてしまう俺に、千明は不服そうに眉を顰めた。
「なにー?僕、変なこと言ったー?」
「いや……千明のことだからからかうのかと……」
「からかわないよ〜。ね?藍沢さん」
「ごめん。正直私も思った」
「ひどーい」
棒読みで言う千明の顔からは、いつの間にか不服がなくなり、いつも通りのほほ笑みを浮かべて美緒たちの方を見た。
「ふーん?でも、あれが崇くんたちの好きな人かぁ〜」
どことなく納得のいかない言葉はいつもより少しだけトーンが低く、腕を組んで首を傾げる。
「僕、あの二人のことよく知らないけど、そんなに良いの?」
「当たり前だ。美緒は地球上にいる誰よりも可愛く、誰よりも天使なんだぞ?」
「三鶴はこの世界で一番かっこいいし、誰よりも性格がいいんだよ?私の自慢の幼馴染」
「へぇー」
「聞いといてそれかよ!」
相変わらず興味がなさそうな返事をする千明は「そっか〜」という言葉とともに後ろに手をついた。
それに続いてなにか言葉を紡ぐと思ったのだが、特に何も言わず、走り始めた1年生のことを見る。
もちろん言葉にしないことには何を考えているのか理解できないので、首を傾げながらも俺は美緒の方を見て――
「近くないか!?そんな近くなくても走れるだろ!!」
「そうよ!私以外のメスの匂いがつくじゃない!」
「どうせシャンプーの匂いとか嗅いでるんだろ!離れろ!」
「あっ!今三鶴の筋肉触った!!」
「…………元気だなぁ」
隣からなにか言葉が聞こえるが、美緒のことに一生懸命になる俺はそちらを向くこともなく、愚痴をこぼしまくるのだった。
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