第23話 1人で回るよりも2人で回る方が楽しい
食事も終え、美緒たちが出るまで――ではなく、遊園地が開く時間まで休憩をする俺達は背もたれに体重を預けていた。
「この後、一人で遊園地回るのか?」
相変わらずに涙目の藍沢は口の中を泳がせていたお水を喉に通す。
そして一つ頷き、机の上に置いてあったサングラスを手に持つ。
「一応そのつもり」
「なるほど」
「うん」
なぞにテンプルを閉じたり開いたりする藍沢と、中身のないコーヒーカップを眺める俺の間には静寂が走る。
他のお客さんの話し声が耳を通り、美緒たちの会話までもが鮮明に聞こえる中、俺達の机には気まずさがあった。
多分、俺と藍沢が黙っている理由は同じなのだろう。
同じ理由でここにたどり着き、同じ目的で遊園地に行く。
つまり、どこに行こうが藍沢がいるということだ。
遊園地なんて一人で行くよりも二人で回るほうが楽しいことは知っている。
だが、その二人で回るのにも勇気が必要なのだ。
別にこいつが好きなわけでも、気があるわけでもない。心の底からただの友達だと思っている。
なんだけど、なんだけどなぁ……。
「ねぇ善田?」
「ん?」
「遊園地って一人で回るより、二人で回るほうが楽しいね?」
なるほどそうきたか。
俺に言葉を言わせようと促せている、という認識であっているはずだ。
『一人』という言葉と『二人』という言葉をを無駄に強調させてくる藍沢は変わらずサングラスのテンプルをいじる。
もちろん俺がそんな罠に掛かるわけもなく、藍沢と同じように強調して言葉を返す。
「あーらしいな。一人で回るよりも二人で回るほうが楽しいらしいな」
「友達と回るの楽しいよね」
「楽しいよな。友達と回るの」
「ね」
「な」
両者一歩も譲らない攻防戦は第二幕を開け、睨みでもなく微笑みでもなく、視線をまじ合わせることもなく言葉を促し合う。
きっと、こういうところで華麗に誘うことができる人がモテるのだろう。
だが生憎、いつも藍沢が言っている通り俺はモテない。こういうところで口が動かない男だ。
そんな男でもあの祭りの時は勇気を振り絞ったんだけどなぁ……。それが軽くトラウマになってるのかもしれないな。
「ねぇ善田?」
「ん?」
「デートってしたことある?」
「祭りの時に美緒としたが?」
「そのときってどっちが誘ったの?」
「そりゃ俺だが?告白する気だったんだから」
「他には?」
「他は……ないな……」
「ふーん」
なぞの質問攻めをされ、小首をかしげる俺はやっと藍沢の目を見る。
すると視線が交わり、どことなくその藍沢の目に心が読まれているような気がした。
「なんで目細めるの」
「気持ち悪いなと思ったから……?」
「なんでこういうのは素直に言えるのよ……」
ため息のような言葉を吐いた藍沢は目を伏せ、自分の太ももと太ももの間に手をついて顔を近づけてくる。
マリンキャップから垣間見える藍沢の目には微笑みがあり、からかうような、はたまた安心させるような不思議な目をした藍沢が口を開く。
「ちなみに善田くん。私、断る気はないよ?」
「というと?」
「なんかお祭りのこと引きずってるのかなぁって思ってさ?」
「そうっすか……。まぁ別に引きずってはないっすけどね」
「口調が変わる辺り当たってそ〜」
「うっせーな。人に心読まれるの慣れねーんだよ
「いぇーい」
「喜ぶところか……?」
太ももの間についていた手を離し、背もたれに体重を預ける藍沢は満足そうにまた目を伏せた。
「それでどう?一人よりも二人のほうが回るの楽しいよ?」
「はいはい分かってるよ。一緒に回りましょうね」
「なーんか上から目線」
「はいはいありがとうございます〜」
スッキリするようなしないような。よくわからない感情のまま会話が終わり、そのタイミングで美緒たちが立ち上がるのが見えた。
それを気に俺はメガネを掛け、マスクをポケットにしまった代わりに財布を取り出す。
「え!もしかして奢ってくれるの!?」
「んなわけねーだろ自分で払え」
「えーケチ」
レジにて美緒たちがお金を支払うのを見届けながらそんな会話をする。
ずっとテンプルをいじられていたサングラスは藍沢の手によってネックラインにかけられ、俺と同じようにマスクをポケットに入れる。
そうして店を出ていった美緒たちと入れ替わるようにレジの前に立つのだった。
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