第14話 好きな人のために頑張ってみた
「へいパース!」
なんて言葉が聞こえ、俺はハーフライン近くで手を大きく上げる野球部を見やる。
こちらにパスを求めてきているのは野球部の男子。ずっとあそこにいるのを考えると、相当シュートを決めたいのだろう。
現在は男子が全体コードで試合をしており、あと4分も経てば女子と変わる。
どれだけ点数を決め、どれだけ華麗にドリブルができるかで評価を稼いでいる。もちろんこの評価は成績のことではなく、女子のことだ。
クラスの皆からすれば幸運なことに、俺はこのクラスに求めている女子がいない。なら俺の役割は自然と決まり、とにかく評価を高めたい男子にパスを回す役になる。
もちろん今もあの手を大きく上げている野球部にボールを渡そうとしている。けど、目の前にサッカー部の副キャプテンがいるんだよなぁ……。
「ドリブル突いてるままだと、取られてしまうよ?善田くん」
「分かってますよ……」
こっちだって抜きたいのは山々だし、パスしたいのも山々。でも君が邪魔で抜けないんだもん!てか取れるならさっさと取ってくれてもいいじゃん!?
一応俺だって取られないために、自分の体を挟んで手が伸びてきたら交わしている。
誰か味方が動いてくれたら――って、そういや俺の友達にはすっげー察しのいいやつがいたな?
チラッと横目にその男子に目を向け、動いてくれないかと眼球を動かそうとしたときだった。
俺の友達――千明はあくびをしたのだ。動く気なんてありませんよ、と言いたげに。
「え、協調性なさすぎでは?」
「……うん。それは俺も思うよ」
別に同情を求めているつもりはなかったが、サッカー部の副キャプテンともなれば周りをしっかりを見て、何が起こったのかすぐに理解したらしい。
副キャプテンは気持ちは分かるよ、と言いたげに眉を下げた。
てか、バスケのルールには持ち時間ってものがあった気もするし、時間を食べ過ぎからそろそろチャレンジしてみる――
「メジャーって本当にここにあるのー?」
――その声を聞いた瞬間、身体からは燃え上がるような熱さが湧き上がり、心做しかギアが入れ替わって筋肉が倍増した気がした。
今喋った女子たちの声は本当にただの日常会話程度の声量だったと思う。だけど俺の耳にはしっかりと届き、尻目に見た彼女の顔は鮮明に瞳に写った。
ボールを右、左と突いて相手が手を伸ばした瞬間、身体を回転させ、サッカー部の副キャプテンを鮮やかに抜く。
まるで枝と葉と花の間を掻い潜って地面に落ちる桜の花びらのように、俺は次々に相手選手を抜いていく。
野球部のパスコールなども頭から離れ、自分の思うがままにスリーポイントラインを踏み、華麗な放物線を描いてゴールネットを揺らした。
これまでパス回しに専念していた男子生徒が忽然としてドリブルで攻め、リングにも当たらずにシュートを決める。
なんともかっこいいシチュエーション。これを見て、メジャーを取りに来た女子――美緒はかっこいいと言わざるを得ないだろう。
ネットを揺らしたボールが地面につくのと同時に俺は体育館倉庫の前にいるはずの美緒に目を向ける。
けど、目がまじわることはなく、きっとこちらを見向きもしなかったのだろう。美緒は友達であろう女子と楽しそうに話しながらメジャーを探しに体育館倉庫へと入っていった。
「はぁ……」
深い溜め息がおでこを拭く服に吹き掛かる。
このため息が、プレーを見られていないことの悔しさなのか、はたまた疲れたからなのかは理解が及ばないが、カッコ悪いということは分かった。
ただ俺の片思いを両思いにさせるために、野球部のパスコールを無視し、サッカー部の副キャプテンを出汁として使ってしまった。
それで美緒に見られていないのだから、この上なくカッコ悪い。
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