第13話 一応うちのクラスでは高嶺の花
「んじゃ、ペア組めよ〜」
体育教師にそう促された我がクラスメイトはゾロゾロと立ち上がりだし、女子は女子と、男子は男子と組み始める。
平日最後の金曜日というのもあってか、それとも体育だからか、ただただ男子が体育が好きだからか分からないがいつも以上に騒がしい。
「賑やかだな」
「ね」
そんな会話を俺と
千明は元々クラスでよく話す好もあって、体育の授業ではよくペアを組む。
身長こそは平均よりも小さいが、茶髪がよく似合う男子だ。
「確か今日ってバスケだったよね?」
「それでテンション上がるか……?」
「分かんない。けど皆楽しそうなら良いんじゃない〜?」
「千明が言うならそうか」
「そそ〜」
この会話でご察しの通り、千明は常日頃からテンション高い系の男子だ。
なぜこんな話しやすい男子が俺と一緒にペアを組んでいるのかは謎なのだが、ボッチよりかは断然マシだから特には気にしてはいない。
「あっ!分かった。あれだね。女子に良いところ見せたいんだよきっと!」
「あー。なら納得できるわ」
「うちには藍沢さんがいるからねぇ〜。皆狙ってるんじゃない〜?」
「そういやあいつ、うちのクラスでは高嶺の花枠だったな……」
何度も言っているが藍沢は顔だけはよく、性格までもが評価されている。
美緒の性格を好きでいる俺からすれば藍沢の何が良いのか分からないが、クラスの男子からは嫌に評判がいい。
「そそ〜。
「いねーよ。少なくともこのクラスには」
「他クラスにはいるんだね〜」
「まぁな」
なんて会話をしていると全員がペアを組み終わったのか、教師がパスのやり方を説明し始めた。
パスのやり方なんて誰でも分かるだろ!という文句が飛び交うが、教師いわく、最初の3分だけはパス練習をして、その後はずっと試合をするらしい。なんでも肩慣らしなんだってさ。
「崇くんってバスケ経験ある?」
「中学の頃かじった程度だけど、どした?」
「なら試合が始まったらボール全部回すね〜」
「なんでだよ。自分でいけ」
「だって魅せたい人がいるんでしょ?」
「だから違うクラスだって」
カゴからボールを取り出しながら会話する俺と千明は、少し距離を取ってボールをパスし合う。
顔色一つとして変えない千明の口から出る言葉は、冗談なのか冗談じゃないのか区別が難しい。
「え、藍沢さんは狙わないの?」
「狙うかあんなやつ」
「なんでー?」
「うるさいしすぐ怒るし自分勝手だし」
「ほへ〜。ちなみに崇くん。後ろに藍沢さんがいることをご存知でして?」
「…………それ先に言ってくんね?」
カゴからボールを取る前から俺の視線は千明に向けたまま。即ち、周りにいる人の顔なんて見てないということだ。
千明が藍沢のことを口にしたからか、それとも俺が藍沢のことを気にし始めたからか、嫌に背後から圧を感じる。
熱いような、寒いような。でもこれだけは分かる。
「――えーっと、藍沢?怒ってる?」
「別に怒ってないけど?でもごめんね?うるさくて自分勝手ですぐ怒るやつで」
「あーうん。すぐ怒るやつだと思ったけど、案外怒らないんだな」
「うんうん。私は怒らないよ?短気じゃないからね。でも、後で覚えておくことね」
「……うーっす」
微笑みを浮かべながらも、どことなく圧を感じる藍沢の口からは熱の籠もっていない冷淡な声が返ってくる。
俺の発言は功を奏したとも裏目に出たとも言い難い形で終わり、藍沢はペアの女子から熱の籠もった微笑みでボールを受け取る。
藍沢は藍沢なりに自分の立ち位置を理解しているようで、俺以外のやつには笑顔以外の顔を見せない。
まぁ俺も、ついこの前まではその一人だったんだけれども。
「あはは〜。怒られてやんの〜」
「別に怒られてはねーだろ。てか、いるなら先に言ってくれ?ずっと分かってたろ」
「面白そうだなぁと思ってね〜」
「何が面白そうだよ。こちとらあとが怖いんだぞ」
「頑張れ〜」
「……薄情な奴め」
千明の手から放たれるボールは言葉のように柔らかく、こちらに辿り着く頃には勢いのいの字もないほどに。が、それを拾い上げた俺は、『助けろよ』という意味を込めて力強くパスを返す。
「残念だけど、僕は助けないよ〜」
「意味を受け取れるなら黙って手伝ってくれよ……」
「やだ〜」
察しが良いことはそりゃいいことだ。だけど察したうえで手を貸さないと言い放つのは些かどうかと思う。
「もういいぞー。試合するぞー」
最後にボールを拾い上げ、もう一度力を込めてパスをしようとした時、教師が笛を鳴らして俺達のことを呼ぶ声が体育館に響く。
その声にいち早く反応した千明はいつの間にか俺の前から姿を消し、手を後ろに組んで教師の前に立っていた。
「不完全燃焼が過ぎないか……?」
パスの構えから脇にボールを挟む俺はニスの着いた地面に言葉を吐き捨てた。
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