第15話 友達だけど信じてくれない!

 私は今『なんであんなやつがモテてるのだろう』という疑問が解消された気がした。

 うちのクラス――いや、話に聞けば他クラスからも善田は人気があると聞く。


 隣の席のよしみだから分かるけど、そこまで性格がいいとは思わない。ただちょっと顔が良く、ちょっと運動ができて、ちょっと勉強ができるぐらい。


 私の話はすぐに流そうとしてくるし、自分の話をしたがらないから会話が続かない。

 なんでそんな男がモテるのか、隣に席になった時から私はずっと疑問だった。


 けど、分かった気がする。

 もしかしたら他の皆と私が見ている部分が違うかもしれない。


 優しくされたから好きになったとか、顔がいいから好きになったとか、スポーツができるから好きになったとか、私が見たのはそういう部分ではない。

 誰の目も気にせず、ただ純粋に好きに突っ走るところがモテているのだと思った。


『振られたからどうということはない。俺は俺である限りアタックする!』みたいな、言葉は少し臭いけれどそんな意思を私は感じた。

 なにかに一生懸命になる人はモテるってどこかで聞いたことがある。それと同じようなものを見た気がしたのだ。


「だからといって私は好きになんないけど……」

「えっ、なになに?もしかして夕姫ゆきってそういうこと?」


 ポツリと溢した声は隣に座る友人――佐野さの玲香れいかには聞こえていたようで、ニヤニヤとした顔を覗かせながら問いかけてくる。

 けれど、意味が理解できない私は首を傾げて尋ね返す。


「そういうことって……?」

「好きなんじゃないの?善田くんのこと」

「はい!?好きじゃないけど!?」


 言葉がはっきりされたことで私は目を見開き、慌てて顔の前で両手を横に振る。


「だって『好きにならない』って言ってたじゃん」

「好きにならないって言ってるんだから好きなわけ無いじゃん!」

「え〜?その焦りっぷりで言う〜?」

「別に焦ってない!」

「いやどう見ても焦ってるでしょ」


 ニヨニヨとした玲香の笑みは、獲物を逃さないぞと言わんばかりに目を見てくる。

 なぜこんなにも私が焦っているのか。そして、なぜこんなに玲香が顔を近づけてくるのかにはちゃんとした理由がある。

 私は前々からずっと――


「――三鶴のことが好きなんだから、善田を見るわけ無いでしょ……!」


 周りには聞こえないように声を抑え、けれど自分の意志をはっきりさせるために力強く、玲香の耳にだけ届くように言葉を口にする。


 きっと、玲香は三鶴のことを諦めたの?と目で訴えていたのだろう。

 だから別に笑ってもいないニヨニヨとした目を私に向けて、言葉を出させた。


「本当に?最近三鶴くんの話を聞かないけど?」

「それはぁ……。なんていうか、その……」

「えー?なになに?友達にも言えないことなの〜?」

「ねぇ!その目やめて!?怖いから!!」


 またもや笑ってもいない笑みを向けられてしまった私は、やめさせるために両手で玲香のほっぺたを挟む。


 ボーイッシュな髪も相まって、男女問わずにイケメンだと言われる玲香だけど、たまに私に見せる可愛さもある。

 その一つがこの、ぷにぷになほっぺなんだけれど。


 表情を柔らかくさせるために、パンのようにこねくり回す私は目を伏せながら数日前にあったことを話す。


「……私、振られた」

「へー。で、他に言い訳は?」

「え、待って?もしかして信じてない?」

「信じるも何も、振られるわけ無いでしょ。嘘はやめて?面白くない」

「ねぇそんな事言わないで!?私だって振られると思ってなかったの!」

「うん。私も思わないから冗談はやめて?って言ったんだけど」

「だから冗談じゃない!!」


 伏せていた目もいつの間にか見開いており、優しくこねていたほっぺは潰すように内側に圧力をかける。

 玲香の細くなる瞳から分かる通り、本当に信じていないようだった。


「じゃあ冗談じゃないって証拠見せてよ」

「証拠なんてないよ……!」

「振られた場所を見ていた当事者とかいないの?」

「当事者ならいる!」

「ならその人を連れてきて、私が納得できるようなことを言ってくれたら信じてあげる」

「そんなことをしなくても信じてよ!友達でしょ!?」

「友達だからこそでしょ。私は夕姫が振られたことなんて信じない。だってこんなに可愛いんだよ?」

「やめてぇ……!私が傷つくだけだからぁ……!」


 ほっぺたをこねくり回されても悠然と話す玲香は、私のほっぺたを触る癖に慣れてしまったのだろうか。


 表情ひとつ変えることなく淡々と会話を進める玲香は、やっと私の手を掴んでほっぺたから離させた。


「今日のお昼休み、その人を連れてきて三人でお弁当を食べようね?私は信じてないから」

「うーん……。わかった……」


 相手が異性というのもあり、そして私のことを侮辱したというのもあり、嫌々ながらも頷く私をよそに玲香は立ち上がる。


「男子終わったからコート行くよ〜」

「今はそういう気分じゃない……」

「そんなこと言わないで行くよ〜」


 若干不貞腐れている私の腕を掴み、強引に立ち上がらせた玲香はズシズシとコートへと足を運ぶ。

 これでもバスケのキャプテンを務めている玲香。バスケとなればバスケ部の血が騒ぐのだろう。


 そして私はというと、友達に信じてもらえず、謎に傷を抉られ、昼食のことを考えているせいでバスケなんてする気も起きない。

 けれど成績のためだ。頑張ろう。

 三鶴がここに居たらやる気出るんだけどなぁ〜!


 そんなことを思っていると笛がなり、試合が始まった。

 私の願いがフラグとなったのかはわからないけれど、その時間に三鶴が現れることはなく、結局私の気分も乗ることなく、玲香の頑張りもあったけれど負けるのだった。

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