第6話 優しさは受け付けています
次の日の放課後。
荷物をまとめた俺と藍沢は、昨日ほどとは言わないが、隣に並んで一緒に正門を後にした。
なぜ綺麗に隣を歩いていないのかは察しの良い人ならわかるだろう。
一応ここは学校前。帰る方向も俺と藍沢はほぼ同じ。即ち、お互いの幼馴染がどこに潜んでいるか分からない状態にあった。
藍沢は分からないが、俺は全く持って美緒の事を諦めていなかった。
だから藍沢のことを彼女だと思われないように半歩開けて歩いているのだ。
俺の初恋はまだ終わっていない!最終手段として彼氏から奪うことすら考えるほどに美緒の事が好きだ!
「大丈夫……?覚悟決めてる顔してるけど」
「ん?大丈夫に決まってるだろ」
「そうには見えないけど……」
「気にすんな気にすんな」
疑念を抱くような目をこちらに向けてくる藍沢に、軽く手を仰いだ俺は学校のすぐ近くにあるファミレスに入った。そして店員さんに2名だと言うと、奥の席へと案内される。
流石の近さというべきか、うちの学校の制服を着た生徒たちがぞろぞろとファミレスへと入ってくる。
俺たちと同じように勉強しに来たのか、はたまた恋愛話でもしに来たのかは分からないが、この店の売り上げのほとんどはうちの生徒だろう。
見る限りでも9割方の席はうちの生徒たちで埋まっており、ほんの少しだけ他校の生徒がちらほら。
「なんでも頼んでいいの?」
「どうぞどうぞ。一応気遣いは受け付けてるけど」
「えー、どうしよっかな」
「別に受け付けてるだけで願ってはないけれどね?」
「なら晩ごはんここで食べて良い?」
「まぁ……。それで気が済むなら……」
「わかりやすく嫌な顔するねぇ」
椅子に腰を下ろし、タブレットを手に持ちながらそんな会話をする。
藍沢の指が液晶版をなぞり、ハンバーグやらオムライスやらのガッツリとした食事の画面で手が止まる。
「このハンバーグ美味しそうじゃない?」
「そうっすね……。ほんと美味しそう。でもパフェとか良いんじゃない?ドリンクバーとかさ」
「あっ、パスタもあるじゃん。私イタリアン料理好きなんだよね」
「イタリアンならティラミスとかあるんじゃない?美味しいよね」
「……ちょっと否定的すぎない?私のこと慰める気ある?」
「別に慰めようと思って誘ったんじゃねーよ。慰めるのはついでだ」
「これだから善田は……」
やれやれと言わんばかりに、わざわざタブレットから指を離して肩を竦めてくる藍沢は顎で使うように言葉を紡ぐ。
「美味しそうなパフェ選んでくれる?ついでにドリンクバーも」
「なんで俺が藍沢の下僕みたいなことを……」
「いいから。慰めはついでなんでしょ?ならそのついでを今やって」
「こうなるからついでにしたのに……」
そんなことをブツブツと呟きながらも、慰めると口にしてしまった以上逆らえることもできず、素直にタブレットをスライドさせる。
デザートの欄に目を通していると、先ほど話に上がったティラミスに照準が合う。
値段は170円。高校生のお財布には優し過ぎるほどの値段。藍沢もイタリアンが好きだと言ってたし、これにする――
「――あ、ボリュームが有るやつでお願い」
「……うっす」
『注文する』と書かれた文字をタップしようとした指をそっと離し、代わりに左上の方にある、見るからにボリューミーなパフェを注文する。
そしてドリンクバーも二人分注文をし終え、タブレットを充電器の上に戻す。
チラッと正面のソファーに座る藍沢のことを見やると、わざとらしく微笑みをこちらに向けて「ありがとぉ〜」と腕を組みながら言ってくる。
それが奢ってもらったやつの態度か、なんてことを言おうとしたのもつかの間、聞き覚えがある声が近づいてきたことによって、俺の思考――いや、俺達の思考と視線は無意識にそちらに向けられた。
「な、んでここに……!」
「あれが彼女……!?」
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