第21話 シルバーバレット

 2人のシルエットが、向かい合っている。


「……どうして?」


 相手の返事はない。


「みんな、信じていたのに……」


 やがて、1つのシルエットだけが、その場を立ち去る。



『本日の、政府放送です! ユンバー市で相次ぐ変死体について、警察と軍は警戒を強めており――』


『死亡していたユンバー高等学校の「大月おおつきあやの」さんについて、容疑者の発見に全力をそそぐとの発表が――』



 ◇



 始まりがあれば、終わりもある。


 俺は、見送りに来た女子と一緒にいた。

 ユンバー高等学校を仕切っているえん由利ゆりだ。


 遅れていたヘリが到着すれば、それでお別れ。


「……高天こうてんくん?」


 地平線まで続く青空から、由利に視線を戻した。


「何だ?」


「私も……カワサキ市に連れて行ってくれない?」


 通りすぎる風を感じつつ、由利を見た。


「背中のでっかい荷物が、お前の引っ越しか?」

「……うん」


 頷いた彼女をチラッと見ながら、語り出す。


「最初から、不自然だった……」


 大雨が降りしきる中で、ナイトビジョンを装備した特殊部隊の兵士。

 それも、食われていた。


「近くにいたのが、全裸のお前」

「あの時のこと、まだ許していないからねっ!」


 叫んだ由利を無視して、話を続ける。


亜沙乃あさのを指定して、人質になったお前らへの仲介」

「あの子は、あなたと違って来てくれたけど?」


 ぐるりと見ながら、俺は言う。


「普通は……とても冷静じゃいられない。ここで人を殺しているナイトウォーカーどもに捕まったのなら」

「私は、友達を元気づけようと……」


 俺が見つめたことで、由利は黙り込んだ。


「奴らは、何のために高校生グループを攫ったと思う?」

「……私に聞かれても、知らないよ!」


 別の風景を見た俺は、自分の意見を述べる。


「俺たちがカワサキ市のエージェントだと、知れ渡っている。そして、ナイトウォーカーは他人に成りすますか、仲間として変異させるが、全体的に劣勢……。おそらく、俺を狙撃した奴らがハンティングをしていた」

「私も、間違われたけど?」


 合いの手を入れた由利に、語る。


「俺は、ここの人間じゃない! あの校長と女刑事も、ろくに情報を寄越さなかったし。ただの異邦人にすぎん」

「そろそろ、返事を聞かせてくれない? 私、もうこんな場所で同じ毎日を過ごすのは――」

 ドンッ!


 ヴアッ  バシャッ!


 衝撃波が通り過ぎた。


 ザッ

『キル、コンファームド……』


 遠く離れているネネッタの声だ。


 うつ伏せで、バイポッドの二脚で支えている対物ライフルを構えているはず。


 近くでは、ブクブクという液体が沸騰するような音も。


『始末した女子を見ないよう、そこから離れてください』

「分かった」


 由利がいたほうに背を向けつつ、歩き出した。


 遠回りで、本当のヘリに乗る場所へ向かいつつ、話し出す。


「こいつらは、元の人格のままか?」

『……不明です。吸血鬼のように変異させている可能性が高いですが』


 ネネッタの声を聞きながら、足を動かす。


『ユンバー市の問題ですから……。しかし、マスターの行動でだいぶ分かりました』


 毛のない狼男のような姿へ変わると、その代謝により、異常なまでの発熱がある。

 死に至るほどの。


『だから、雨が降っているか――』

「冷却装置を背負っている場合にしか、変身できない」


 初めて遭遇した園由利が裸だったのは、化け物の姿になった後だから。


 食われていた兵士は、ここでナイトウォーカーと戦っていた1人。

 経緯は分からんが、由利に後れを取ったらしい。


『片目のナイトビジョンは、識別用でした。サーモか何かで、見分けられます』

「そうか……」


 続いて狙撃された時も、その部隊は俺に当てないよう気を配ったことで、由利を仕留め損なったと……。


「俺たちにこだわったのは、カワサキ市に来るためか?」

『おそらく……。COSコスとしての感染方法は、食うことでしょう』


「大月あやのは、親友がナイトウォーカーに協力か、そのものだと気づいた」

『けれど、通報せずに対話を試みて、食われたのでしょう』


 ネネッタは呆れたように、息を吐いた。


『先ほども申し上げましたが、私たちには関係ありません! 帰りましょう』

「そうだな」


 やがて、地上で上のローターを回転させているヘリが見えてきた。


 駆け足で近寄り、キャビンに乗り込む。


 遥かなる大地から遠ざかり、やがて関東へ戻り出す。


 側面の扉を閉めたあとで、俺は脱力した。


「あの市はいずれ、ナイトウォーカーに乗っ取られるかもな?」

「そうなったら、丸ごと消します」


 物騒な発言をしたネネッタは、物干し竿のような対物ライフルを抱えたまま。


「やっぱり、すごい威力だな?」

「普通に撃っても、数キロは軽く飛びますから……」


 いっぽう、井上いのうえ亜沙乃は、椅子に座ったままで寝ている。


 彼女も、疲れたようだ。


「俺も寝る……。あとは頼むよ、ネネッタ」

「お任せあれ」


 目を閉じたら、エンジン音などで五月蠅いにもかかわらず、あっという間に眠りに……。


 あの娘は、きっと痛みを感じる前に死んだ。


 そうだろうし、そう願いたい。

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俺と彼女たちの世紀末~寝て起きたら自動人形に支配されていた~ 初雪空 @GINGO

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