第20話 暴力は全てを解決するわね!

 座っている校長に選択を迫られた俺は、冷静に返す。


「で、誰と誰が誘拐された?」


 首肯した校長が、役員机の上で書類を探す。


「……これだ! 女子と男子が交ざっての数人らしい」


 俺の視線で、校長が言い訳する。


「まだ、全員の確認ができておらん! こちらが、指定したポイントと時間だ」


 俺と井上いのうえ亜沙乃あさのは、その文面を読む。


「ハイハイ……。ご丁寧に、今日の夜か!」

「ちょっと、時間がありぎない?」


 椅子を鳴らした校長が、説明する。


「この街には、ナイトウォーカーが出る」


「具体的には?」


 俺の質問に、校長がこちらを見た。


「化け物だよ……。ただし、普段は人間そっくりで、区別がつかん」


 聞けば、雨の日の夜に出るらしい。


 COSコスの一種だな!


 亜沙乃が、校長に質問する。


「警察や軍は?」


「奴らは市民に紛れ込むため、情報を開示しておらん」


 俺は、返答する。


「知っていることを提供しつつ、警察に通報してください」

「……応じてはくれんか」


 ため息をついた校長は、帰っていいと告げた。



 ユンバー高等学校から出たところで、井上亜沙乃を見る。


「このまま、突っ込むぞ?」

「だと思った!」


 笑顔で応じた亜沙乃は、小太刀を取り出した。



 ◇



 井上亜沙乃を誘き寄せることは、無理だったようだ。


 警察やユンバー高等学校の動きから、それを察知したナイトウォーカーの集団は、嘆息する。


 見た目だけなら、普通の人間だ。

 どいつも大きな装置を背負っていて、妙に目立つ。


 リーダーらしき男が、指示する。


高天こうてん早渡はやとを仲間にできれば、この街もとっとと制圧できるだろうに……」


 周りにいる仲間の1人が、同意する。


「奴らは、本土のカワサキ市だ。そっちに進出できれば、こんなところで燻ぶらなくてもいいぜ! 食い物の制限もないだろう」


 リーダーの男は、周りを見た。


「俺たちの数も、だいぶ減った……。掃除屋に対抗するだけの力がいる! まさか、あれほどの凄腕がこんな僻地にいるとはな」


「母国に帰れず、ここの奴らに迎合したってところか? 半年に1回の射撃訓練がせいぜいの日本警察に、あれだけのテクがあるとは思えん」


 その時に、駆け込んできた男が1人。


 反射的に銃を構えた仲間を見ながら、報告する。


「迷い込んできた女子高生を捕まえた! どうする?」


 リーダーは、立ったままで腕組み。


「名前は?」


「井上亜沙乃だ」


 部屋にいた人間が、ざわつく。


「閉じ込めている奴らと、一緒にしておけ……。手を出すなよ? そのコンビとは、まだ協力するかもしれん」


 たじろいだ報告者は、しぶしぶ頷いた。


「わ、分かった……。武器は、取り上げておくぞ?」

「ああ、そうしてくれ」



 ◇



 ボディーチェックを受けた井上亜沙乃は、雑居ビルの中を歩かされる。


 前後をはさまれており、武装しているようだ。


(自分の拠点で、重そうなリュック?)


 前を歩く男は、中身が見えないリュックを背負っていた。

 それも、登山の縦走で使いそうな大きさ。


 不思議がる亜沙乃は、外に見張りがいる部屋に入れられた。


 会議室らしく、落ち込んでいた高校生たちが、椅子から立ち上がる。


「あっ!」

「井上さん……だっけ?」


 観察した亜沙乃は、その中に見覚えのある顔を見つけた。


「井上さん! あなたも捕まったの!?」


 えん由利ゆりだ。


 傍に、『大月おおつきあやの』もいる。


 そちらは、会釈しただけ。


 いっぽう、由利は騒がしい。


「高天くんは?」

「残念ながら、私だけよ」


 向き合った由利に、尋ねる。


「何があったの?」

「深夜の校長室から出た後で、私を迎えに来てくれた友人と一緒に捕まったの……」


 責任を感じているのか、うつむいた由利。


 見回した亜沙乃は、確認する。


「他には?」

「ここにいるだけ! ねえ? 警察に通報してくれた――」


 閉じられたドアに近づいた亜沙乃は、おもむろに横へ回転。


 その勢いで、ドアを蹴り飛ばした。


 外側へ凹みつつ、廊下の壁と抱き合うドア。


「へっ?」


 由利が、間抜けな声を上げた。


「なっ!?」


 廊下で見張っていた男も、同じくビックリ。


 一瞬で近づいた亜沙乃は、床に沈み込むように低くなり、次の瞬間に男の顎を下から跳ね上げた。


 振り抜いた拳が、上を向く。


 言葉にならないまま、崩れ落ちる男。


 やはり、背中に大きなリュック。


 ガシャンと、金属らしい音を響かせた。


(こいつも?)


 けれど、今は時間との勝負。


「はい、帰るわよ? ついてこないなら、置いていくから」


「ちょっ!」

「ま、待って!」

「ねえ、起きて!」


 慌てた高校生が、次々に立ち上がる。


 横になっていた高校生にも、傍にいた人が起こす。


 亜沙乃を先頭にゾロゾロと歩けば、気づいた男が見る見るうちに変化していく。


「ホラー気味の狼男? とりあえず、肉食っぽいわ」

『ガアアアアッ!』


 両手を突き出したナイトウォーカーは、全力で走ってきて――


 半身になった亜沙乃の肘が、見事に決まった。


 後ろへよろめいた化け物に、さらに踏み込んでの掌底。


 奴は、吹っ飛んだあとで、背中から叩きつけられた。


 怒りの声を上げつつ、起き上がろうとしたが――


『グワアアッ!?』


 全身から煙が出て、苦しむ化け物。

 

 まるで燃え尽きるように力尽きて、ドサッと倒れ込む。


 ジュブジュブと、液体のようになっていく。


「……?」


 そこまでの手応えがなかった亜沙乃は、首をひねる。

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