第6話 鞘の癒し
翌朝。
朝日の差すなか、僕はクワを持って畑をたがやしに出ていた。
「うーん。何日かかるかなあ」
カリバーンが浄化してくれた農地は広大だ。縦横にそれぞれ千歩ずつはあるだろう。もともと父さんが地面師に騙されて買った、魔物が頻繁に出る土地を僕が受け継いだものだった。
育てる予定のものは、じゃがいも・かぼちゃ・キャベツ。
自給自足のためでもあるから、その三つがバランスがいいのだ。
『いよいよ初日ね。はりきっていきましょう!』
「カリバーンさんは朝から元気だね……」
僕はカリバーンを背中に背負っている。不思議と重さを感じないのだ。多分なんらかの魔法の効果があるのだろう。ちなみに霊体のお姉さんは肩に乗っている感じになる。距離がものすごく近い。
『それで何から始めるの?』
「まずは石を取って、ジャガイモを植えるところからだね」
『なるほど。がんばって。私は応援してるわ!』
カリバーンはふれーふれーとチアの構え。
う、スカートだから目に困る。
「あ、あはは。ありがと」
ジャガイモはとても生命力が強く痩せた土地でも育つ、農家の強い味方だ。
長年瘴気に侵されていた土地で最初に育てるべき作物だろう。
というわけで、ひたすら耕し、石を取る。
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく。
ひょいひょいひょい(石拾い)。
朝日が頂上に登っても、
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく。
ひょい、ひょい、ひょい(石拾い)。
「ふう……」
いったい何時間働いただろうか。僕は汗で一杯になっていた。さすがに朝日が昼になるまでぶっ通しで働けば、慣れていても疲れてくる。そろそろこのへんで休憩するとしよう。
と、背中からひょこっとカリバーンが顔を出した。
『ふふふ、シード君お疲れ様。やっと私の出番ね?』
「え。なにが?」
今回、カリバーンの出番はないと思ってたんだけど。
『言ったでしょう、私は生命力を司る聖剣。疲れを癒すのが専門なのよ』
「……なんか、ほんとに剣らしくないね」
『聖剣とはそういうものよ』
聖剣ってなんだろう(哲学)。
『具体的には【鞘の癒し】スキル。これで疲労や傷が回復するのよ』
「へえ。便利だね」
『そうでしょう。というわけで――』
カリバーンは僕の前に立つと、両手を広げて僕に抱きつく仕草。
って、うわっ!?
「かかか、カリバーン!?」
『動かない。じっとしてて』
ふわっと。
抱きついてきた。
「――っ!」
霊体だから感触はない――と思いきや、やんわりした感触が体の前面に伝わる。それはつまり、カリバーンのスカートから覗く太ももとか、たわわに実った胸とかの感触が僕に伝わってくるわけで――!
ふにゃあり。ふにょんり。
これは実体じゃない。実体じゃないのに。
『じっとして。目を閉じて。全身の力を抜いて……熱を感じて……』
だからこそ――この世のものじゃない感覚が伝わってくるのだ。カリバーンの霊体からじんわりと熱が……あああ……伝わってくるぅ……実体はないはずなのに、長い髪がふんわり僕の鼻腔をあたためる。
ふにょうり。じんわり。じわわわわわわ。
体から体に熱が移されていく――。
『はい。【鞘の癒し】おしまい。元気になったでしょう?』
「あうううぅぅぅ……」
うわ。うわ、うわあ。
僕はアタマが茹だっていた。
たしかに疲労感なんかどこかに消えていた。
代わりにカッカするような熱が全身を沸き立たせている。
僕、いま、カリバーンさんに抱かれてた……!
『えへへ。感想は?』
「……う」
僕はごくんと唾を飲み込んで。
「き……気持ち良かった……です」
『うん。素直な男の子は好きよ、シードくん』
くすくすと笑うカリバーンだった。
うう、僕のこんな気持も筒抜けなんだろうなあ……。
『レベル1だと今のが限界ね。レベル120ぐらいになれば、もっと過激な感じで癒してあげられる筈よ。とってもエッチな感じになるから、楽しみにしていてね、シード君』
「うええっ!?」
『ふふふ』
この伝説の聖剣さん、えっち過ぎる!!
――その後癒しのかいあって、僕の体はとんでもない勢いで動いた。
おかげで見渡す限りの畑を耕し、種植えまで夕方に済んでしまった。
「あんれまあ!」
となりのタタコノじいさんがびっくりしていた。
「これシード、おまえ一人で全部耕したのか!?」
「あー。えーとはい、そうですけど」
「はあー。すんげーべ、うちの家族総出でも無理だで、こりゃあ」
「ははは……」
あごが外れるぐらいびっくりしていた。
さすが聖剣さんだ。
一緒にいると、5人分ぐらい働けるみたいだ……。
聖剣の種を拾った。 ZAP @zap-88
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