幕間

体育祭を終えて一週間が経ち、足の痛みも完全に引いた。体育祭から今日までずっと紗雪ちゃんにお世話になりっぱなしだったから今日は紗雪ちゃんに尽くすデーにしたいと思う。

「てことで紗雪ちゃん。今日めいいっぱい私に尽くされるのです。」

「よくわからないけどわかったわ。」

ベッドで横になったままの紗雪ちゃんの了承(?)を貰ったので今日紗雪ちゃんにすることメモを確認する。よしまずは一つ目の美味しい料理からやっていこう。

「てことでドーン!」

紗雪ちゃんがリビングに起きてきたので昨日の夜に用意しておいたフレンチトーストを焼いて付け合わせのトマトなどの野菜と一緒にテーブルの前に座った紗雪ちゃんの目の前に出す。

「美味しそう。」

「召し上がれ。」

紗雪ちゃんはナイフとフォークを手に取って切り分けてから食べ始めた。たまに紅茶を飲みながら美味しそうに食べてくれた。

「ごごちそうさま。」

「お粗末様。」

「美味しかったわ。甘いけどそこまで甘ったるくもなくて。あと紅茶も香りが良いわね。」

「ありがとー。紅茶は楓さんに貰ったんだ。」

「どおりで。いつも飲んでるものとは違ったわけね。」

「そういうこと!」

またメモを見て次にできそうなことを探す。

「えーっと。」

「まさかもうネタ切れ?」

「何かしてほしいことある?」

「押し付けてきたわね.....外に出てもいいのかしら。」

「もうどこへでも。」

「じゃあ外出用の服に着替えてきてくれる?」

「はーい。」

私は部屋に戻って着替える。着替えていると一つ考えが浮かんだので急いで着替えて紗雪ちゃんのとこに急ぐ。洗面台のあるお風呂の横にある脱衣室から水の音がしたので脱衣室に入る。

「どうしたの?」

紗雪ちゃんはちょうど顔を洗っているところだった。

「寝ぐせ直させてー。」

「それくらい自分でやるわ。」

「いいからー。」

紗雪ちゃんの髪を軽く濡らして根元からドライヤーで優しく乾かしていく。紗雪ちゃんの髪はサラサラで触っていて気持ちがいい。

「髪型はどうする?」

「いつも通りで良いわ。」

「りょーかい。」

紗雪ちゃんはいつも通りでいいと言ったが私は勝手に持ってきたヘアゴムでポニーテールにした。

「いつも通りで良いって言ったじゃない。」

「せっかくならお揃いにしたかったんだもん。だめ?」

「いいけど。」

「じゃあ洗面台借りるねー。」

私は洗顔してからスキンケアをして自分の髪もポニテにしてから脱衣室を出た。リビングで紗雪ちゃんの着替えを待っていると寒色系のワンピースを着た紗雪ちゃんが部屋から出てきた。

「え!?かっわいい。そんなの持ってたの?」

「ずっとタンスの肥やしになってたから。あともう気温もそろそろ下がってくるし。」

「えー。かわいい。」

近年の温暖化でまだまだ暑いが確かにそろそろ秋っぽい気温になってくるだろう。

「ごめん私も気合入れてくる。」

部屋の戻ってクローゼットを開けて、買ったはいいけど着る機会のなかった黄色のワンピースに着替えて、バックを持って部屋を出た。

「ど、どうかな?」

「似合ってるわよ。」

「良かったぁ。」

可愛くて買ったけど着れなくて今年はもう着れないと思ってたから着れて嬉しい。

「じゃあ行きましょうか。」

「うん。」

家の鍵を閉めてマンションから出る。

「まだ暑いねー。」

「そうね。」

数年前だったらもう気温が下がって秋って感じの気温だったのにまだ暑い。ただ夏ほど太陽がギラギラしてないのが救いか。

「それでどこに行くの?」

「まだ秘密ね。」

駅に行って二駅分電車で移動すると街中に着いた。そのまま歩いてショッピングセンターまでやってきた。

「ショッピングセンター?何か欲しいものあるの?」

「今日は違うわ。」

ショッピングセンターに入ってエレベーターに乗ると紗雪ちゃんは最上階のボタンを押した。

エレベーターが開くとそこは少し暗くて床には赤い絨毯が敷かれていて壁にはいろんなアニメの看板や映画のポスターが貼ってあった。

「映画館?」

「正解。」

休日だがまだ朝の早い時間なのでお客さんは少なそうだ。

「何か見たいのがあるの?」

「ええ。」

紗雪ちゃんは券売機の方に歩いて行ってチケットを二枚買った。紗雪ちゃんにチケット代を渡す。

「何の映画?」

「私の好きな本の作者が書いた別の話が映画化されたから見たかったの。事前情報を知らなくても楽しめるはずだから。」

「楽しみ。ポップコーンは買う?」

「どうしようかしら。少し多いかも。」

「じゃあ二人でシェアしよっか。」

「そうね。」

飲み物二つとポップコーンを一つ買って映画が上映されるシアターに行く。椅子に座ってしばらくすると明るかったシアターの電気が消えてcmが映し出された。

数分後に映画に来ると絶対見る映画の撮影を禁止していることを伝える映像が流れた。

「これ結構好きなんだよね。」

「わかるわ。」

この映像が終わると映画が上映された。アニメ調の作画で、学園ものの映画のようだ。ひじ掛けに置いたジュースを飲みながら映画を楽しんだ。


エンドロールを見終えるとシアターが明るくなる。

「どうだった?」

椅子に座ったまま紗雪ちゃんが聞いてきた。

「面白かったよ。他の作品も読んでみたい。」

「家に帰ったら貸すわ。」

「ちょっと感想言い足りないからカフェいかない?」

私たちはお昼も兼ねてショッピングセンターに併設されているカフェにやってきた。軽食を食べながら私たちは映画の感想を1時間くらい言い合った。

「そろそろ出る?」

「そうね。」

時計を見るとまだ昼過ぎくらいだった。まだ遊べるな。

「何かしたいことある?」

「そうね.....特にないわ。」

「じゃあゲーセン行ってみない?」

ショッピングセンターにはゲームセンターもあるので行ってみることにした。休日なので子供ずれの家族とかがいて混んでいるだろうか。

実際ゲームセンターに着くと人はいたもののそこまで混んではいなさそうだ。

「ゲームセンターってなかなか来たことが無いからわからないわ。」

「じゃあクレーンゲームとかやってみる?」

お金を100円玉に両替して紙コップに入れる。

「何か取りたいものあったらやってみて。」

「わかった。」

紗雪ちゃんはいろんなクレーンゲームを見ながらグミの箱が二つの突っ張り棒の間に置かれているタイプのクレーンゲームの前で立ち止まった。

「これやりたいわ。」

「おーけー。」

100円玉を投入する。

「これどうしたらいいの?」

「箱の向きを変えて細い面を下にしたら棒に引っかからずに落ちるよ。」

「わかったわ。」

紗雪ちゃんは慎重に縦と横を合わせた。クレーンは一直線にグミの箱に近づいてアームで一瞬持ち上げたがすぐにアームが外れてしまった。しかしグミの箱は少し傾いた。

「それをあと二回くらいやれば取れるよ。」

「わかったわ。」

紗雪ちゃんは続けて二回やって箱の角がかろうじて手前の突っ張り棒に引っかかっている状態になった。

「あとは奥側を持ち上げれば落ちるよ。」

「ほんとう?」

紗雪ちゃんは完璧なボタン操作で奥をアームで引っ掛けるとグミの箱が持ち上がり取り出し口に落ちて行った。

「取れたわ。」

「じょうずー。」

「他のもやってみたい。」

「いいよー。」

そのあとお菓子を取ったり、お菓子がぐるぐる回っていてそれを掬って落として手前のお菓子を取るゲームをやったりした。

「私も何かやろうかなー。」

「じゃあこれ取れる?」

紗雪ちゃんが聞いてきたのはぬいぐるみのクレーンゲームだった。

「これ欲しいの?」

「好きなアニメのキャラだから.....」

「任せて!」

100円を入れてアームの強さを確認するために一回ぬいぐるみの真ん中を持ち上げるようにアームを通すと一瞬持ち上がったもののすぐにアームは力なくぬいぐるみを落としてしまった。ぬいぐるみを持ち上げるのは大変そうだったので次はタグがないか探す。タグにアームの爪を引っ掛けれれば簡単に持ち上げられるからだ。でもタグは見えないので取り出し口の方に寄せて最後に取る方法にした。500円を入れて6プレイにすると徐々に寄せていき最後は壁に擦り付けながら持ち上げてぬいぐるみを取り出し口に落とした。

「どーぞ。」

ぬいぐるみを紗雪ちゃんに手渡す。

「ありがと。クレーンゲームうまいのね。」

「昔ハマった時があってね。」

そのあとも少しゲームセンターで遊んだあと家に帰ることになった。紗雪ちゃんは袋に入ったままのぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら電車に乗って家までたどり着いた。

家に入ると窓を閉めてからリビングのエアコンをつける。

「暑かったー。」

「今日も30度越え?」

「ぽいね~。」

「シャワー浴びてこようかしら。」

「いいんじゃない?」

「じゃあ浴びてくるわ。」

紗雪ちゃんが脱衣室に行ってお風呂場のドアを開けたタイミングで私も脱衣室に入って服を脱いでお風呂場に入った。

「なんで入ってきたの。」

「私もシャワー浴びたいなって。」

「そうなら先に入ればよかったのに。」

「髪洗ってあげるから椅子に座って!」

紗雪ちゃんを椅子に座らせてシャワーを頭にかける。シャンプーを手に取って泡立てて紗雪ちゃんの髪を丁寧に洗っていく。洗い終わった後丁寧に泡を流す。そのあとはトリートメントを手に取って髪になじませるようにして少し置いておく。

「どう?良かった?」

「ええ。またやってほしいくらいには。」

「じゃあまたやってあげるね!」

「ありがとう。次はあなたの髪を洗ってあげるわ。」

「私はいいよ。」

「さ、後ろ向いて。別に前を向いたままでもいいけど。」

「はい。」

紗雪ちゃんの細い指に10分くらいいじめられて解放された。



しっかり保湿をしてシャワーから出るともう夜ご飯の時間になっていた。

「ちょっと待ってて。」

キッチンに行くとしっかりタイマーでセットしておいたご飯が炊けていた。作り置きしておいたハンバーグの種を冷蔵庫から出して焼いていく。同時進行でお味噌汁も作った。


「お待たせ。」

炊き立てのご飯とハンバーグとお味噌汁とサラダをテーブルに並べる。

「懐かしいわね。」

「紗雪ちゃんが初めて来た日もハンバーグだっけ。」

「ええ。」

「冷めないうちに食べちゃお。」

「いただきます。」

紗雪ちゃんは手を合わせて呟いた後にハンバーグを一口食べた。

「おいしい。」

「良かった。あれから研究したからね。」

「研究?」

「紗雪ちゃんが作ってくれたハンバーグが美味しかったから味を近づけたかったの。結局紗雪ちゃんの味にはならなかったけどね。」

「あれは隠し味があるのよ。今度作るときに教えてあげるわ。」

「やったあ。」

「でもこれもおいしいわよ。」

「ありがと。」



ご飯を食べ終わってから私は紗雪ちゃんから本を借りてベッドの上で読んでいたら寝る時間になったので紗雪ちゃんが寝室にやってきた。

「もう寝る?」

「うん。」

「そっか。」

本をサイドテーブルに置いてベッドの中央から端に寄ると紗雪ちゃんがベッドに入ってくる。

「おやすみ。」

そう言って電気を消す。すると紗雪ちゃんが寄って来た。暗闇だけど顔が見える。

「今日は楽しかったわ。ありがとう。」

「こちらこそ一週間サポートありがとね。」

返事はなかった。がスースーと穏やかな寝息が聞こえてきた。

「おやすみ。」

私はもう一度そう言って紗雪ちゃんの髪を撫でてから眠りに落ちた。





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絶対零度のお姫様が私にだけ甘い 緩音 @yurune

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