体育祭編(5)

歓声に包まれて入場したがスタートラインに走者が並ぶと歓声は止み、緊迫した空気が流れだした。深呼吸しながらふと横を見ると紗雪ちゃんたちがテントを離れて応援に来てくれていた。軽く手を振り返して前を向いた。足の置く位置を調整してから器具に足を置いてクラウチングスタートの姿勢を取った。銃を持った先生がゴールの方にいる先生と確認を取ってから銃を空に向けた。」

「位置について。よーい。」

「パン!」

銃声と同時に全員がスタートした。いいスタートを切れたのでスピードを上げようとしたとき。

「パン!」ともう一度銃声が鳴りランナーがみんな止まって振り向いた。

「フライング!5レーン!」

スタートの方にいた先生がそう言った。そのあと先生が集まってなにやら話し合っていた。

「フライングって聞こえたけど。」

「フライングって失格だっけ?」

他の走者からそんな話し声がする。先生がマイクを手に取った。

【フライングがありました。5レーンの選手は失格となります。】

グラウンドから「えー」と落胆の声があがる。フライングをした人は悔しそうにレーンから捌けていった。もう一度スタートラインに並んでスタートの姿勢を取る。

「位置について。よーい。」

「パン!」

もう一度スタートを切った。さっきよりもいい感じにスタートを切れた気がする。フライングがあったせいかみんな少し遅らせてスタートしたので今は私が先頭を走っている。午前の走りのせいで足が少し重いが地面を蹴って前へと進む。半分くらい進んでもまだ私が先頭だった。でも後ろから地面を蹴る音がするので差はそこまでなさそうだ。後半はもう何も考えられないので全力で走る他ない。視界の淵に人が見えた気がした。追いつかれ始めているが残りはもう10mもない。最後の力を振り絞ってスパートをかけて私はそのままゴールテープを切った。そのまま徐々にスピードを落として止まる。グラウンドの淵にある段差に座っていると放送が入った。

【ただいまのレースの結果を放送します。1位。1年1組、白組の瀬名唯さん。】

応援団が太鼓で盛り上げてくれる。拍手がグラウンドに響いた。

【2位は―】

放送が終わって次が男子が走るのでゴールを開けるために自分のクラスに戻ろうと立ち上がろうとした。が足にピリッとした痛みがして立ち上がれなかった。

「どうした?」

私の隣で走っていた午前で一位だった子が寄ってきた。

「なんか足痛くて立てない?」

「マジで?靴脱いで。」

その子はを脱がしてくれた後足を触った。

「腫れてないからそこまでひどくないと思うけど氷嚢もらいに本部行こうか。」

肩を貸してもらって何とか本部まで行って軽いテーピングと氷嚢を貰ってからまた肩を貸してもらってクラスの方に向かった。

「大丈夫?」

肩を借りて片足を引きずって歩いている私に気づいたきなこちゃんが走って寄ってきてくれた。

「軽い捻挫っぽいから肩貸してあげて、じゃああたしは戻るよ。」

「ありがとう。」

「いいよ。1位おめでと。」

その子は走り去っていった。きなこちゃんの肩を借りて何とかクラスのテントに戻れた。

「1位すごい!足大丈夫?」

「大丈夫?」

「そんな心配しないで。」

心配されるが立たない限り痛みはないので大丈夫だろう。そこで男子の100m走を終えた快くんんも戻ってきた。

「お疲れー。」

「速かったよ!」

クラスメイトが声をかけるのを聞いていると快君は3位だったのが分かった。快君は私の方に寄ってきた。

「瀬名さんナイス1位....って足大丈夫?」

快君は私が足に氷嚢を当てているのを見ると驚きながら言った。

「うん。軽い捻挫らしい。」

「そっか。じゃあ学年対抗リレーは出れない?」

「あ。」

忘れてた。足がこれじゃあ走れても遅いだろう。

「この場合って代理?」

「わかんないから先生に確認してくる。」

「お願い。」

リレーメンバーの田中君が本部の方に歩いて行った。


「代理出してだって。」

帰ってきた田中君がそう言った。

「代理か。瀬名さんの次に早い人ってだれ?」

「えーわかんない。」

「誰だろ。」

話し合いの末一人代走してくれる子が出てくれたのでその子に任せることにした。







「表彰。総合優勝、白組。」

校長先生に呼ばれて応援団長が優勝トロフィーを受け取って振り返って掲げる。白組から大きな歓声が上がった。あの後3個種目があって体育祭の全過程が終了して今は閉会式の表彰中だ。総合優勝の表彰の前に私は100mの優勝で賞状を貰った。


「これで閉会式を終了します。なにか連絡のある先生方はいらっしゃいますか―」

片付けは体育会系の部活の人たちがやってくれるそうなので着替えてから教室で雪伺さんからの連絡を待っていた。車を呼んでくれるらしい。

「ほんとに足大丈夫?」

「大丈夫だよ。」

足は体重をかけさえしなければ痛くない。

「あ、車来たって。」

「じゃあねきなこちゃん、美玖ちゃん。」

「お大事にー。」

「じゃあねー。」

紗雪ちゃんは私のバックも持って教室を出た。学校の駐車場に行くと雪伺さんが立っているのが見えた。

「唯ちゃん大丈夫?」

「ご迷惑をおかけします......」

「全然大丈夫よ。」

車に乗って家まで送ってもらった。

「車置いといてよかったわ。」

「駐車場代わりにしてるだけでしょ。」

紗雪ちゃんと雪伺さんは車の中でそんなやり取りをしている。マンションは1台まで車が無料で置けるので車を置いておいたらしい。

「じゃあ私は帰るから。」

「うん。」

「ありがとうございました。」

「痛くなったら病院行ってね。」

「わかりました。そうします。」

「うん。じゃあ元気で。」

マンションの前に車を止めて私たちを下ろしてから雪伺さんは行ってしまった。

エレベーターに乗って部屋まで行く。足を引きずりながら部屋までたどり着いた。体育祭のせいでべとべとしてて気持ちが悪い。

「シャワー浴びてきていい?」

「怖いから私も行くわ。」

「大丈夫だよ。」

「はいはい。早く。」

紗雪ちゃんが服を持ってきてくれたのでその間に服を脱ごうとしたが足が痛くて靴下が立ったまま脱げなかったので座って脱いでいると紗雪ちゃんが入ってきた。

「何してるの。」

「いや脱げなかったから。」

「もう何もしないで。」

紗雪ちゃんは少し強めに言ってきた。

「はーい。」

「いい返事ね。」

紗雪ちゃんに服を脱がせてもらい浴場に入る。

「座りなさい。」

紗雪ちゃんがお風呂場用の椅子を持ってきてくれたのでそれに座る。

「足は痛くない?」

「大丈夫。紗雪ちゃんが心配してるほど痛くないから。

「そう。」

紗雪ちゃんがシャワーのお湯を私の頭にかけながら言う。紗雪ちゃんはシャンプーを手に取り泡立てると私の髪を洗ってくれた。体は座ったまま自分で洗って出た。紗雪ちゃんが体を洗ってる間に服を着てドライヤーで髪を乾かしてリビングのソファーに座った。すこし後に紗雪ちゃんが部屋に入ってきて体操着とかを洗濯機に入れてスイッチを入れた。

「ありがとー。」

「今日はもう座ってて。」

「ご飯はー?」

「私がやるわよ。」

「ありがと。」


「ご飯できたけど食べる?」

キッチンからそう声がかかった。

「うん!お腹ペコペコ。」

紗雪ちゃんがチャーハンとワンタンスープをテーブルに並べてから聞いてきた。

「食べるのは自分でできる?」

「ばかにしすぎー。」

そんなこんなで紗雪ちゃんの作ってくれた夕飯を食べたあとすることが無くて暇を持て余していたがさすがに勉強をやる気にもならなかったのでテレビを見ていると眠くなってきた。テレビから流れてくるバラエティー番組と紗雪ちゃんが食器を片付けている音を聞きながらソファーに横になった。


「起きて、唯。」

二時間くらい寝てしまったのだろうか。紗雪ちゃんに起こされて時計を見るともう時計が0を指しそうだった。

「もう寝る?」

「うん。こんなところで寝てたら風邪ひくわよ。」

「わかった。」

歯磨きをしたり寝る前のルーティーンをこなしてからベッドに入ると体育祭の疲れか、さっきまで寝ていたからかわからないがすぐに眠りに落ちた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る