第275話 このタイミングで?②

 日本各地で幾つかの山が次々に噴火を始めた。しかしそれは日本だけでなく、海外もだった。

 自衛隊も今は動けず待機だそうだ。



 まだ地球は人間を減らそうとするのか。


 地球上のいたる場所で山々が噴火を始め、地面は割れていった。

 まるで地球が怒り狂っているように。

 空は噴煙で覆われ、太陽は隠された。

 地上は流れ出るマグマ、飛んでくる噴石、積もる火山灰。人の生き残る道はもう無いのか。


 あ、拠点内は結構平和である。申し訳ない。今は外が危なくて動くに動けないが、拠点内は正常運転だ。



 拠点を出た人を助けに行くつもりはない。冷たいと言われようが知らんがな。

 せっかく命を守ってくれる拠点(避難所)があるのに、わざわざ外へ出た人のためにこっちが命を危険に晒すつもりはない。


 と言うふうに、春ちゃんにもキヨカにもタウさんにもミレさんにもキツく言われた。

 そしてマルクは身体で阻止するように俺の背中にピッタリとくっついて離れない。



「父さん、外は危険だから行っちゃダメ。テレポートでもダメ。一瞬でもダメ。空から大っきい石が降ってくるんだからね!」


「はい。かしこまりました」



 俺は皆に囲まれている。

 タウさんは大忙しながらも時々様子を見にくる。大丈夫だぞ?脱走とかしないぞ?


 せっかく最近はお日様が顔を出していたのに、またしても空は分厚い雲に覆われて昼なのにずっと夜のようだ。

 とは言え、ハケンのアジトはもともと地下1階なので、外が見える窓は無いのだ。


 つまり、今までと変わりはない日々である。


 マルクは南棟の外のバナナ園が気になっているようだ。俺は持っていた『ライト』の魔法書を使っていいかとタウさんの了承を得て、養老の政治叔父さんへと渡す事にした。


 世紀末のような真っ暗な中、神社へテレポートをして政治叔父さんに『ライト』を習得してもらった。

 これでバナナ園に光を与えられる。バナナは大事だからな。





「残ってた千葉県が、日本から離れていった?」


「千葉県、日本から独立したのか」


「接していた茨城も一緒に離れたそうだ」


「もはや県ではなく千葉諸島ですね。……辛うじて野田市と柏市半分は残ったのか」


「もう茨城でいいんじゃないか? もともと尖って埼玉と茨城に刺さってたとこだよな? あのチーバ君のクチバシんとこ」



 自衛隊から送られてきた映像を話題に食事をしている。



 これだけ噴煙が降り注ぐとまたしても飛行機での移動も車での移動も無理だ。徒歩も厳しい。

 噴火やマグマを運良く逃れた人は今はじっと地下に隠れているしかない。


 大地は揺れ続けた。




「暫く地上に出られないならゲームするしかないな。皆頑張ってレベル上げろ。俺もDEとKNも作ろうかな」


「三峰も伊勢も無事です。完全にセーフティエリアですね、あそこは。食糧も渡しておきました」


「魔法書が足りない。地下で作物を育てるのにせめてライトとヒールは必要だな」


「あっちの世界でもっとダンジョンにもぐってれば良かったなぁ」


「こんな事は誰にも想像できませんからね」


「ゴンちゃんにブランクスクを作って貰って、俺とマルクで魔法詰めだな」



「ゴンザレスさんが店舗を使用出来たのも奇跡ですね。そうでなかったら僕ら……地球はもっと早くに詰んでいたはず」


「そうだな。神さまはいつもどこかで俺らを助けてくれてるな。だから俺らはそれぞれが出来る事をやろうぜ」






『世界大噴火』そう呼ばれた今回の噴火であるが、その前にエルフ45でリアルステータス表示済み、三峯神社でスキル発現した者が結構居た。


 エント対策で『国民総エルフ政策(いや、誰の発案か知らん)』を敷いた…強いた?事が今回ラッキーに転じた。

 と言うのもエルフの属性の『風』を選んだ者が三分の一ほどいた。


 つまりは、スキルに精霊魔法が表示されている者は、精霊を召喚出来るのだ。

 風精霊を召喚。たとえそれがミニだとしてもそれなりに風が出せる。

飛んでくる火山灰を吹き飛ばせる。


 土エルフを選んだ者は、避難所や建物の強化が出来る。

 土精霊に地下を掘ってもらえる。自家製シェルターだ。


 水エルフは回復特化だ。地面を湿らせてそこに立つ者の回復を早める、それだけでなく植物にも効く。火山灰で枯れた植物を蘇らせる。


 火エルフは、倒したゾンビの遺体の火葬だ。火葬場の無い今、瞬時に燃やせる火力の強さが武器だ。


 と、『世界大噴火』とそれに伴う大地震も、国民総エルフの日本では何とか乗り切れていた。


 しかし世界ではそう上手くはいかなかったようだ。

 世界は窮地に陥るばかりであった。

 と言うのも日本を真似て、某国でLAFが再開されたが、あちらではまだ『人間の覚醒』は起こっていないそうだった。



「あっちじゃリアルステータスが出ないって問題になっているそうですね」


「魔素は同じように世界中に降り注いでいるのよね?」


「と、思うのですが、同じように降り注いでいるならばあちらでも覚醒が起こってもよさそうですが、何故起こらないのでしょう」


「やはり『キッカケ』が必要で、それが『異世界帰り』だとして、あっちじゃソレを秘密にしてるのでは? まぁ個人的に秘密にしてるのか国ぐるみの秘密だかは知りませんがね」



 覚醒か……、怖いな。

 間違った方向で覚醒が起こったら……。ゾンビだけでなく何が生まれる事か。

 魔人、魔族、悪魔……そして魔王。


 けれどそれが、地球が望んだ新しい地球なのかも知れない。

 俺らは旧時代の人類だが、



「旧だろうが、ギリギリまで俺は生きるぞ?」



 生き残るために、あと、何をすればいいんだろう?

 俺はいつになったらマルクに、俺を追ってきた事を後悔しない未来を用意出来るのか。



「父さん、僕は一度も後悔してないからね。それよりも毎日いろんな事があって楽しいし、父さんと一緒で嬉しい。みんなと一緒で楽しいからね」




良かった。

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