第274話 このタイミングで?①

 キングジムの持ってきたレベルEの緊急事態は何なのか、皆がまたお茶を啜りながらジムが話すのを待った。うん、のんびり待った。だってレベルEだからな。



「あー、すんません。お騒がせして。あのですね、LAFの親国だったK国からジャパンサーバーが切り離されました」


「ん?」


「あれ? 海外のLAFって沈黙してたんでは?」


「いえそれが、数日前から急に復活しまして。K国と他にも欧州が幾つか。それがさっき急にジャパンサーバーを切りました。ブチっとね」


「それは、切られると何か問題がありますか?」


「通常なら、親と切り離し……つまりLAFジャパンは終了となるのですが、終了したのはシェルターにあったサーバーですね」


「つまり、洞窟や大雪山は大丈夫なんですね」


「はい。いやぁ、移しておいて良かったぁ」


「逆に日本オンリーになりました。海外からのログインは出来なくなります。外から見たら日本サーバーは終了した形です。つまりそっくりな別ゲームですね」


「そうですか。なるほど、だからレベルEの緊急事態ですね」


「ええまぁ」


「待ってください、今、自衛隊から連絡が入りました。ふむ……」



 タウさんが念話で自衛隊と話をしているようだ。

 話し終わったのか俯いていた顔をあげてこちら見た。



「日本国内に居た近隣諸国の方達が自国へ帰国したようです。何箇所か船での迎えが来たようです。日本海の沖に他国の軍艦らしき船が停泊していたとの事です」


「何で急に……」


「LAFジャパンを切り離した事、そして日本に居た難民の帰国。恐らく日本でのゲームはもう出来ないとみたのでしょうね」



 それは、自国でLAFのレベル上げやらスクロール作成をするって事か?



「やはりあちらにも異世界帰りがいたんでしょうか」


「どうですかね。異世界転移が日本だけなわけはないでしょうがタイミング的に何故今…」


「でもなぁ……。俺は怪しいと思ってるんです」


「怪しいとは何がですか?」


「K国や欧州国の勇み足じゃないかなぁ。日本からどんな情報を持っていったのかは知りませんが、もしも異世界帰りが居たとしたらもっと前からLAFが復活しているはずですよ」


「つまり、こちらの表面だけ見て、LAFをやれば不思議な力が手に入ると? そして日本をこれ以上栄えさせたくない、と」


「そう考えた可能性が高くないかなぁ。どちらにしても再復活出来ないように筑波学園都市の地下シェルターのLAFサーバーは完全に破壊しておきますね」


「そうですね、お願いします」



 タウさんと春ちゃんはまだ何かが引っかかっているようで、眉間に若干の皺を寄せていた。



「他国が全員、日本から引いたわけではないですよね。隣国でもまだ日本に残っている人はいる」


「ええ、恐らくスパイ活動をしている者も残っているでしょうね」


「そのへんは自衛隊でもわかった上で泳がせているのかもしれません」


「僕らは油断をしないようにしましょう」



 日本から引き上げたのはK国と欧州の幾つか。アメリカ人は残ったのか?中国とか他は?



「うーん、今後、徐々に引き上げて行くかもしれませんね」


「そもそもゲームは日本が切られたので、それ以外の国のLAFは復活しているでしょう。日本サーバーにわざわざログインしなくても自国でログインした方が早い」


「うん、って事はもう海外からのログインは無いって事か。ゲーム内でカタコト日本語チャットは日本に住んでいる外国人か」


「自衛隊を通しての頼み事も減りますね。日本は切られたから自国で頑張ってくださいと」



 何だろう、みんななんか悪そうな笑顔なんだが。悪代官が越後屋に「そちも悪よのう」と言ってるような顔だ。



「私たちの生活は変わりませんので」



 タウさんが思いっきりニッコリと言い切った。はい。

 俺は一応頷いておいた。




 それからも俺たちの生活は今までと特に変わりはなかった。

 ただ、自衛隊のブックマークの旅も、行く先を選んでいるようで、俺のところ(実際はタウさん経由春ちゃんだが)への依頼も現在はおさまっている。



「アメリカとも仲が悪いのか?」



 気になったので春ちゃんに聞いてみたが、日本側はアメリカとは今までどおりのつもりでいるのだが、向こうが色々なしがらみで日本への接触を控えているそうだ。

 なので日本側も自発的に動くのは中断しているらしい。



「けど、ネットには相変わらず救助要請は来てるんですよねぇ」


「救助に行けない事情も、タウさんがネットにハッキリあげていますね。自国に救助要請してくれと」


「見殺しにするのか、とか、悲惨な書き込みもあるけど、俺たちに言われてもなぁ?」



 ミレさんが春ちゃんに相槌を求めた。

 あ、またあの悪代官笑いだ。



「そうですね。僕らが行きたくてもそっちの国が来なくていいと言うんですから、勝手にはねぇ?」


「だよなー。俺たちは行くつもりだったんよ? なぁ?」


「香、明日は時間があるので、道内で新しい神社へ参拝に皆で行きませんか?」


「あ、僕、行きたあい」


「う、うん。そうだな。新しいとこを開発か、いいな」



 その時だった。

 何か尻の下から上へと這い上がってくるような変な振動を感じた。



「地震?」



 皆が中腰になり直ぐに動ける体勢をとった。俺は咄嗟にマルクを抱える。春ちゃんとキヨカが俺のすぐ横につく。


 カタカタカタと小さな揺れが始まるが、大きな揺れに変化する事はなかった。

 ただ、小さい揺れが長く続く。それはそれで気持ち悪い。


 タウさんからの念話と、館内放送がほぼ同時にかさなった。



『火山噴火が発生しました。それに伴い各地で地震も起きています。北海道内の噴火はありませんが、日本の幾つかの山が噴火したそうです。筑波山も噴火しました』



 えっ、筑波山が?

 俺たちの洞窟拠点がある筑波山が噴火?


 いや、今は自分の関係者は北海道に居るが、茨城にはまだ知り合いは多い。

 カンさんの親戚もそうだし、棚橋ドクターらの病院拠点もだ。


 俺らは慌てて南棟の会議室へと集まった。



「タウさん……」


「洞窟拠点や病院拠点はどうなってる?」



 タウさんは複数相手の念話とパソコンでの連絡を同時に行なっているようだ。

 俺は邪魔をしないように静かに指示を待つ。



「香、大雪山のアジトと苫小牧に居る血盟員には、全員拠点へ戻るように指示を出しました」


「うん、拠点待機で」


「子供達も今のところ落ち着いています。こちらは噴火も地震もありませんから」



 ミレさんやアネさんも自分の拠点に連絡をしている。ゆうごは函館のアジトへ向かった。アネさんも一旦アジトへと戻るそうだ。

 カンさんは茨城の親戚にパソコンで連絡を入れたが返事がないそうだ。因みにスマホは電波が乱れて繋がらないそうだ。



「カンさん、エリアテレポートが必要なら俺、行くよ?」


「ありがとう、カオるん。ただ、今まだ繋がらないのでどこにいるのか状況が不明です」



 そうだよな。筑波山の山の麓、山肌と言うかそこにあった洞窟を利用して作った拠点だ。

 その筑波山が噴火したんだ。拠点がどうなってるのか……。テレポートして見てきた方がいいのか……。



「皆さん、遅くなりました。漸く情報が入りました。筑波山が噴火をしていますが、洞窟拠点はかなり頑強に造ってあるので今のところ拠点内は無事だそうです。ただ、慌てて外へ出られた方も多かったらしくかなり混乱が起きています。病院拠点はドクターらの指示で現在は地下へと篭っているそうです」



 そうなのか。とりあえず洞窟拠点が破壊されてなくて良かった。ホッとしているとカンさんが小さな声で伝えてきた。



「カオるん、ご心配をおかけしました。連絡が取れました。リアルステータス持ちを探すのに苦労しました。パソコンの返信は無かったので、ステータス持ちの知り合いから情報をいただきました」



 そうか、茨城は北海道ほどまだ一般人のリアルステータスは広まっていないのか。普通に避難所に居る人々って感じだったもんな。



「とにかく洞窟拠点から出ないように伝えておいたのですが……」


「ええ、そうなんです。洞窟拠点はかなり混乱しているそうです。自分達の頭の上で噴火が起きている。じっとしていろと言っても無理かもしれませんね」


「しかし、今、動く方が危険だろ?」


「洞窟が崩れる事はなくても、噴火の衝撃や地震はかなり激しい。そこにとどまれ、と言うのは難しいですね」


「病院も?」


「ええ、ドクターや関係者が避難民を地下に待機させているそうですが、出て行く人を止められないそうです」


「こっちに運ぶか?」


「そうですね、少なくとも噴火中の山の下よりは安全かも知れませんが……、こちらもいつ噴火が起こらないとも」


「だよな。だったら拠点内に居た方安全なんだが」


「一般人にそれを説明するのは至難の業です。それに北海道に連れてきてこちらでも噴火が起こった時、責任は取れませんね」



 春ちゃんも苦い表情だった。



「とにかく、北海道では各血盟で拠点内にとどまるように徹底してください」



 タウさんから再度指示が出た。春ちゃんが念話でアジトへと伝える。アジト内で館内放送を流しているそうだ。

 カセ達にトマコの状況も見てきてもらった。そちらも落ち着いているそうだ。



 噴火したのは日本だけではなかった。


 自衛隊からきた情報で、世界でも次々と火山噴火が起こっているそうだ……と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る