第271話 色んな国から②

 大雪山南棟大食堂で久しぶりに会ったキングジム達から…………難しい話を聞いた。

 サバサバサバサ……よりによって、この日の俺の昼食は『サバの味噌煮』だった。


 さばって、さばって何だっけ?俺は自分の皿の中のサバを突きながら話を聞……聞いてるような?聞いてないような?

 ちらりと春ちゃんを見ると頷いてくれた!良かった、任せたぞ?



「では、後ほど鯖移動の血盟及び単騎プレイヤーの名前をお知らせします」


「はい。そしたらこちらでも壁オープンに向けて動き出します」


「ゲーム内のアジトや課金店舗はどうなりますか?」


「大丈夫です。それもそっくり中身を移動させますので」


「ブックマークとかもですか?」



 おお、それ大事。ありがと、春ちゃん、聞いてくれて。



「はい、そういったのもそっくりコピーされますので、大丈夫です」



 凄いなぁ。ジムやうさも、ミレさんもだけど、システム系の人の脳みそってどうなってるんだ?

 生みそじゃないよな、絶対機械で出来てるよな。……AIだったりして…。




「そう言えば気になってたんですが、海外のLAFってどうなってるんですか?」



 おっ、ゆうごと大地も食事か。トレーを覗くと俺と同じサバ味噌定食だ。ふっ。つつくが良い。



「だよな? ジャパンサーバーに海外勢がログインするってさ、自国内でも元はLAF民だったんだよな? まぁ初めてのやつもいるかもだけどさ。自国LAFでレベル上げとかせんのかね?」



 ゆうごも大地も普通にサバ味噌を食べている。俺は突きまくった自分の皿を見た。



「香、そんなにつついて行儀が悪いですよ。子供の食育にも良くないです。食べたくないなら残してください」


「父さん、お魚好きじゃないの? 僕の唐揚げあげるね」



 違うんだ、サバ味噌は普通に好きだ、と言う間も無く、春ちゃんが俺のぐずぐずにしたサバの皿を持っていき、マルクが俺の茶碗に唐揚げを乗せた。


 春ちゃんも焼売の乗った皿をこちらへ寄越す。クマがコロッケをひと切れ、ナラが春巻きを、カセがブロッコリーをくれた。

 カンさんがカツ丼のカツをひと切れ、翔太はカレーを、ミレさんがスタミナ丼の肉をひとつ。


 待って待って、なんか物凄いスタミナ丼になりつつある。キヨカがイチゴをくれた。うん、締めのフルーツは大事。

 俺は皆の愛を感じながらスタミナ丼に向かう、その間も話は続いた。



「もともとLAFはK国発祥の人気ゲームですよね? 人気爆発してアジア、アメリカ、欧州などに拡がったんですよね? まぁ全盛期は5年前くらいか」


「日本でも3年前くらいから急激にログインが減っていきましたね。それでも海外よりは保った方ですよ」



 時々ジムも話に加わる。



「隕石落下後はどの国でも運営は止まっただろう? ジャパンサーバーが生きていた事が奇跡だったよな」


「そうでしょそうでしょ。誉めてくれていいんですよ?」



 いや、君らシェルターに居てゲームしてただけだから?



「隕石落下後、海外は沈黙でしたね。俺らも海外からの情報が入るわけじゃないから詳しくはわからなかったけど、通常、各国のサーバーへの連絡手段もあったんですが、それも全く通じませんでした」


「あちらのサーバーが壊れたのか、単に運営をストップしているだけなのか、全くわからなかったですね」


「実は最近、幾つかがオンになったんですよ。でもこっちからの問いかけは無視されてまして、頭にきたから俺らも無視返しする事にしました」


「だよな? 日本人舐めんなよ。いつもヘコヘコしてると思ったら大間違いだぞ」


「まぁまぁ、うさちゃん」


「あれだけジャパンサーバーに流れて来てるんだ、ある程度の情報は流れているはずだ。自国のサーバーにログインしないわけがないよな」


「って事は世界各国でも、リアルエルフとかウィズが出てるかね」


「いるのかも知れませんね。……香達のような異世界帰りの勇者が」



 うん、それと、異世界帰りのモブもね。



「間違った方向にいってないといいよなー」


「うん? ミレさん、間違った方向って?」


「異世界帰りが俺たちだけとは思わないけどさ、血の気の多い国のやつらが『俺TUEEEEEEE』をやってないといいな。金持ちに操られて馬鹿な事をしないとも限らない、それが怖いな」


「そうですね。リアルの世界がPK鯖のような殺し合いが当たり前になってほしくない。日本は今のところ大丈夫ですが……、海外はあるいは……」


「カオるんはよくT抜きの俺TUEEEEEEやってるよな」



 ミレさんが俺を見て吹き出しながら言ったが、俺、おれつえええええなんてやった事ないぞ?



「良く、乗り物酔いで、俺うええええええってやってるじゃん」



 ミレさん含め皆がゲラゲラ笑い出す。



「の、乗り物酔いを馬鹿にするな! 辛いんだからね! くっそぉ、乗り物酔いの魔法があったらミレさんにかけてやるのに!」



 俺の代わりにマルクがミレさんの背中に頭突きをしていた。



「すまん、すまんw」



 うん、もしも『俺TUEEEEEE』野郎が出たら、俺の『俺UEEEEEEE』を浴びせかけてやるぜ!

 あ、でも先日のヘリは酔わなかった。


 薬も飲んだが、アイマスクしてイヤホンからガンガンに音楽を流していつの間にか寝てたら着いてたんだ。

 ただ、地面に降りた時は少しだけ膝がカクカクしていた。



 食堂でのジム達との会話は終わり、俺はスタミナ丼も食べ終わり、各自それぞれのアジトへと戻った。

 今日は特に出かける予定もなく、皆でゲーム室でパルプ採取だ。


 パルプ取りは単調で流石の俺でも話しながら叩ける。



「ゲームにログインするとさ、ウィスパーで話しかけてくるやつ多いよな」


「ああ。血盟に入りたいってやつが殆ど。今は満タンで募集してないって断るけどウィスが多すぎてうざい」



 ウィスパーとは、ゲーム内でも個人間のチャットだ。内緒話のような感じだ。



「俺、ういすぱ?貰った事ない……」


「カオさんは、ウィス来ても気がついてないんしょw」


「いえ、香のウィスパーは切ってあります」



 それは、すまないな、春ちゃん。俺ういすぱもらっても反応出来んよ。良かった、切ってあったのか。



「それと救助要請もたまにあるなぁ。助けに来てってやつ」


「ああ、ありますね」


「でもそいつって、LAFが出来る程度の境遇に居るんだろ?」


「お近くの自衛隊へ、と言ってる」


「フレ申請も多くてやになる、めんどい」


「それも切ってくれたんだ、春ちゃん。おかげで全然来ないぜ」


「いえ、それは切ってないですよ?」



 えっ…………それじゃあマジで俺にはフレンド申請来てないって事か?何か、ショーゲキだ。

 あ、いや、この歳になって友達欲しいとかじゃないぞ?ないけど何かさ……。


 春ちゃんが突然俺の後ろに周りパソコンを覗き込んだ。



「ちょっと見せてください。…………香、フレンド申請溜まっています。285件。全て排除しますがよろしいですか?」


「カオさーん、気がついてなかったんかw」


「可哀想に、無視かーい」



 皆にゲラゲラ笑われた。



「お願いします。排除で…」



 春ちゃんがサクサクと操作していた。そんなとこ見たこと無かった。あれ?空自の人とは……あ、あれはこっちから申請したんだっけ?いや覚えてないけど、その場で言われたら俺だってピコっとランプ点いたのに気がつくよ。

 知らん間に申請されても、ね。


 春ちゃんは申請却下する前にサラッと名前に目を通したようだった。



「怪しい名前も結構ありましたね。恐らく外国人でしょう」



 その後は夜までパルプ集めに勤しんだ。そしてたまには狩りにも行こうと言う事になり、皆が行けそうな狩場を春ちゃんが選び、俺らはそこでゲームを楽しんだ。


 と言うか、春ちゃんがあまりに手慣れすぎている。春ちゃんまさかLAFの人では?

 気になったので聞いてみたら、普段からゲームは割とやっていたそうだ。異世界へも行ってはいないと言っていた。ふむ。



 そろそろ寝ようと言う時にタウさんから集合の連絡が入った。

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