第272話 色んな国から③
そろそろ寝ようと言う時にタウさんから集合の連絡が入った。
ハケンからは俺と春ちゃんキヨカの3人が会議に参加した。時間が時間だったのでマルクは布団に入らせた。
南棟、そこは養老の砂漠のアジトであるのだが、俺達が集まるための会議室を一室借りてある。
そこにはタウさん、ゆうご、大地、ミレさん、カンさんが居た。俺らが席に着いた時、アネさんも来た。
タウさんの話は、俺の2度目になる海外旅行の話だった。いや、旅行ではない。1度目も旅行ではなかったからな。
話し始めたのはタウさんではなく大地だった。
あの大災害の始まりに海外に居たと言う大地の兄貴の居場所がわかったらしい。
居場所がわかった、と言う事は、生きていたって事だ。良かった。
大地の兄貴は現在、英国の日本大使館に居るのではという事だった。本人と連絡が取れたわけでなく、同じ職場の人の家族から得た情報だそうだ。
「日本大使館ですか……、バッキンガム宮殿の横ですね、ロンドン市内はかなり酷い状態のようです。海上自衛隊からの情報でイギリス海軍との連絡はつくそうです」
「待て待て、イギリスって土葬の国じゃないか?ゾンビがモリモリ出てきそうだな」
ミレさん、それは本当か!
「今は火葬ですよ。70%は」
タウさんがすかさず答えたが、俺は気になった。
「残りの30%は?」
「…………土葬ですね」
おぉぉぅ。10人に3人は土の下に………。
今回も空自がヘリを出してくれるそうだ。途中途中、給油と共にブックマークをしたいそうだ。
「今回のメンバーは?」
「ブックマークまでは空自、カオるん、春さん、私です。イギリスに上陸後は、私、ゆうご君、大地君、ミレさん、カオるん、春さん、キヨカさんです。カンさん、アネさんとマルク君は待機で何かあった場合はお呼びします。それとブックマーク地点の安全を確認次第、おふたりにもブックマークには来ていただきます」
「馬持ってるメンバーが少ないけど上陸後はどうやって移動するん? あっちは車が通れるんか?」
「海自からの情報ですが何とか進めるのではと言う事です。それとブックマーク後に空自は引き返しますが海自が同行します」
「えっ陸上なのに? 海自が? 陸上なのに?」
「カオるん、海自の方に怒られますよ? 海自は国内外での災害救助のプロですよ」
そうなのか。船を漕いでるだけじゃなかったのか。うん、良かった口を滑らせる前に知れて。
アネがツカツカと俺の前に来た。
あ…ぁ…ぁ、こないだマカチョコを買えなかったんだ。
「カオるん、ロンドン行くなら紅茶買ってきて。フォートナム&メイソンのロイヤルブレンドティね」
「フォート何とかがわからん!」
「高級デパートよ、そこら辺の人に聞けばわかるわ」
「そこら辺のゾンビに聞いても教えてくれますかね」
「そのゾンビがロンドンっ子なら知ってるはずよ」
「その前に俺、英語喋れんわ」
「大丈夫、ゾンビはきっと共通のゾンビ語よ」
ゾンビ語ぉ?
ヴー (こんにちは)
ヴヴー (良い天気ですね)
ヴ、ヴゥゥ? (デパートはどこですか?)
いや、ないだろ、無理だろ。ゾンビと会話とか。
「………あー、買えたらな。うん。なんだっけ? ふぉーとなむさん、むにゃむにゃ」
アネにメモを渡された。
良かった、春ちゃんが預かってくれた。
まさか春ちゃん、ゾンビ語が話せるのか? 昔ゾンビだった事があるとか……。
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人生2回目の海外。
何度かの給油でどっかの地に降りて、ブックマーク。自衛隊さんを呼びに行きブックマークしたら帰りはアジトスクロールで勝手に帰ってくれるそうだ。
そしていよいよイギリス上陸だそうだ。
海自の人達を呼びに行き連れてきた。俺らの仲間も連れて来た。皆がブックマークを済ませたらいよいよ出発だ。
イギリスのゾンビは走らない事を祈る。
街はゾンビ映画さながらの荒れ様だった。
道にはうーうー言いながら彷徨うゾンビ達。しかし怖かったのは人間だった。
走るゾンビかと思いきや襲ってきたやつらに『清掃』が効かん。
マップで見ると赤……、でも、ゾンビじゃない?
「カオるん、ただの敵です! 下がって」
自衛隊が銃で蹴散らした。
海外は攻撃的な人間が多いと聞いてはいたが、まさに荒んだ人間達が攻撃してくるので、マップにも赤い点として表示される。
なんか、嫌、だな。
ゲームやアニメ、小説でも、盗賊や強盗は『敵』として対処するのが当たり前、なんだが、それは架空の世界の話だ。
平和なニッポンで生まれ育った俺たちが甘いのはわかっている。だが、『赤』でも見た目人間に襲われるのは恐怖以外のなにものでもない。
それを返り討ちにしないといけないのも。
わかっているが重い。
俺らの気持ちをわかっている自衛隊の人も、俺らを守り俺らが手を出さなくてもよいように頑張ってくれている。
そんな甘い世の中では、もうないのだ。どこかで割り切らなければ。
サモンを出してサモンに倒させても、結局『人間』を殺すように指示をしたのは自分になる。
「カオるん、精霊を出せますか? 精霊の風で強盗や暴漢を飛ばしてください」
「おう! カモン、大精霊!」
タウさん、ありがとう。そうだ。風で吹き飛ばしてもらおう。吹き飛んだ先で頭をぶつけて死のうがどうしようが知ったこっちゃない。
赤いヤツはみんな吹き飛べ!
そうして精霊に吹き飛ばしてもらいながら進んでいく。
マップに映る『赤』の多いこと。しかも魔植やゾンビじゃない。
シェルターに入れず、地上で隠れ住んでいる者が助かってはいるが、お互いに物資を奪い合っているようだ。
川には死体が浮いている、が、岸にぶつかり這い上がってくるアレはゾンビだ。
ゾンビは自衛隊が排除してくれる。
自衛隊に先導してもらいバッキンガム宮殿へと近づいていく。
バッキンガム宮殿に着いたらそこで隊員とは別れて俺らは在英日本大使館へ。
そう、大地が入手したのはバッキンガム宮殿の近くの日本大使館に逃げ込んでいるとの情報だった。
しかし、大使館の建物は荒れ果てて誰も居なかった。ようやく兄貴の避難しているであろう場所に辿り着いたというのに。
大地が地面に座り込んだ。誰も声をかけられない。
その時、バッキンガム宮殿の中へ向かった自衛隊から連絡が来て、なんと大使館員達はバッキンガムに避難していたのだ。
俺たちも直ぐにバッキンガム宮殿へと向かい、自衛隊から話を聞いた大地の兄貴が、建物の入り口まで出てきていた。
ふたりは抱き合って再会を喜んでいた。
「よがった……もう、生きて日本には帰れないと思ってた、みんなもあの隕石で死んだのかとも思ってた、よかった、よがった、大地ぃ」
「兄貴、こっちこそ、どっかで死んだと思ってたぞ。家でも陰膳を供えてた」
とりあえず帰国しようとなった。
日本大使館に逃げ込んだ日本人達も一緒に日本へ帰還した。
紅茶を買い忘れた事に気がついたがブックマークがあるので買いに行けるぞ、ただしデパートがオープンしてたらの話だ。
あ、やっぱり買ってこようかな。でもあの荒れ具合、とてもデパートがやってるとは思えない。
春ちゃんから、アイテムボックスで検索してみてくださいと言われてメモを渡された。あのアネメモだ。
『フォートナム&メイソンのロイヤルブレンドティ』
おおぉ?ヒットしたぞ?しかも結構ある。箱入りと缶入り。
何だ、日本でも売ってたんか。
とりあえず箱と缶をひとつずつ出した。箱はティーバッグで、缶は葉っぱだそうだ?
アネに渡すと喜んでいた。お返しにバナナを貰った。
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その後も時々、自衛隊の依頼で外国にブックマークを作っていく。
最近はヘリや飛行機にも慣れてきた。酔い止めの薬だけでなんとか乗り切れる。
空から見える地上は建物は壊れて流されて、道など見えない。
木々は所によっては火山灰を被り枯れたり折れたりしている。
地上をあれほど移動していてわかっていたはずなのに、こうして上から改めて見ると、被害の大きさを実感した。
それでも都市部に動いている人達が見えて、まだ人類は死に絶えていない事がわかる。
海を越えて現れた大地は酷かった。
ハワイに行った時は海を越えていったのでここまで酷い事になっているのは気が付かなかった。(アイマスクもしてたし)
2回目のイギリスに向かった時も酔わないように外を見ないようにしていた。
酔わなくなってきて初めて、飛行機から大地を見たのだ。
俺は地図が読めない男だから、今、どこの国の上空にいるのかはわからない。
まるで月面のクレーターのような穴が幾つもあいた大地が見えた。
あの穴は、元からあったのだろうか?
それとも今回の災害で出来たのか。もしも今回だとしたら、あのクレーターの地が最初から砂漠かジャングルであった事を願う。
「随分と酷いですね。国が大きかったのもありますがかなり落ちましたね」
「軍事施設や核施設は避けて飛びますので少し遠回りになります」
「そうですね。放射能が怖いですから」
「カンさんにスキンをかけてもらいましたが流石に放射能までは対処できないですよね」
「そうですね。どちらかと言うと物理攻撃に対する防御ですから」
「……放射能って何攻撃になるんだ? カンさんのスキンやウィズのシールドは物理攻撃の対防御、カンタマは魔法攻撃の対防御。じゃあ放射能は……」
「放射能は攻撃ではないですね。放射能を浴びる事で肉体が損なわれる、人間は恐ろしい物を作り出してしまいました」
「物理でも魔法でもない、呪いでもない。肉体が滅びていく攻撃か……」
「人間だけでなく地球上の、あらゆる物が影響を受ける。それに対抗できるゲームをしていた異世界帰りの人が居れば良いのですが」
「でも今は、放射能で病気になってもウィズが居れば助かりますよね」
「そうだな、ウィズが居れば問題ないか」
「そうですね、深刻になりましたが問題ないですね。地球を壊されたらまずいですが」
「砂漠の皆さんの話を聞いていると、暗くなってる自分らがばかばかしくなります!皆さんは心強いです、これからもずっと味方でいたい」
「我々も自衛隊の皆さんを敵には回したくありません、末永くお付き合いをしていきたいです」
「そうそう、その為にはカオるんをお安く貸し出しますぜ」
「え、俺、貸し出されるんかい」
地上がボコボコでも、空を行く俺たちはへこたれないぜ。
自衛隊に頼まれた場所でブックマークをして国から関係者を運ぶ。
俺たちはゲームやネットで気になった救助先へ、自衛隊のヘリで運んで落としてもらう。
そう、最近は海外の個人プレイヤーの救助も行なっている。ゲームで知り合った人達だ。
そして、ある程度の高さからの落下&着地に慣れた。地上近くを飛んでもらい飛び降りる。
ゲームの力があってこそだよな。
普通の人間のままなら、1m上からの着地でも足首捻挫か下手すると骨折とかありえるからな。
『俺、TUEEEEEE』ではないが、『俺、SUGEEEEEE』とは思う。子供達に比べるとへっぴりごしではあるが、良いのだ。
海外は相変わらずゾンビに溢れている。そしてそれ以上に危ない人間が多い。何であんなに好戦的なんだ?
ひとりひとりじっくり話すと悪い人ではないのにな。ゾンビより怖いしゾンビより始末におえない。
俺もマルクも常に風精霊を出している。
今日はアメリカの……どこだっけ?アリゾナ州???とかの石化の森公園が目的地だ。
凄いな、ここ。隕石落下や災害とは関係なく前からこうだったんだと。
見渡す限り延々と街などない、たまに低空飛行をしてもらうが、大木が石化しているそうだ。近くで見たいな。
異世界よりファンタジーな世界だな。
たまに道っぽいもの見える。
「あの道の先でしょうかね。ルート66のウィンズローでしたよね」
「そうです」
タウさんが端的に答えた。
今回の救助者がウィンズローで生き残っているらしい。
「これは……人が少ない事が幸いだったな。争うほどの人がいないだろ?」
「ゾンビも少なそうですね。過去に埋葬した死体もぐずぐずでゾンビとして這い出しても碌に動けないでしょうね」
「ヘルプマークに黄色い布をあげているはずです」
「あ、あそこ、街ですね」
皆が飛行機の右側に寄った。俺は飛行機が傾くのが怖くて必死に左側で踏ん張った。
「適当にその辺で下がってくだされば、飛び降りますので」
タウさんが操縦者にそう言うと皆が降りる準備を始めた。俺も座席の前のポケットに入れて置いたエチケット袋やらペットボトルをアイテムボックスへとしまった。
ドアに集まり、自衛隊が開けたドアからタウさんが、ミレさんが、次々に飛び降りていく。
俺は右手をマルクに左手を春ちゃんにしっかりと握られていた。
「押しますね」
キヨカの声に背中が押されて空中へ、引きづられるようにマルクと春ちゃんが俺の手に引っ張られて飛び出した。
毎回、飛び降りるたびに口から内臓が出そうになる。が、実際には一度も出た事はない。
精霊が下から柔らかい風を送ってくれて身体がふわりと浮きながら降りていく。
が、着地は結構な衝撃だ。つんのめりそうになる俺を両手の春ちゃんとマルクが引き戻してくれる。
後から降りてくるカセ達も、カッコいい着地だ。俺にはまだ無理。…………一生無理かも。
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