第163話 基本はここから⑨
カセとクマがお互いを肘で突き合っていたが、まずカセが口を開いた。
「……うちは、実家は群馬です。俺は独り身なんで家族はないです。都内に一人暮らしでした」
「群馬の実家と連絡は?」
「隕石落下直後はスマホが通じて、そん時は母親とは通じた。その後直ぐに通じなくなった」
「カセの家族は、母親の他に誰が居るんだ?兄弟とか」
「群馬の実家は両親と弟がふたり。祖父母は別に住んでた。姉ちゃんも結婚して別に住んでた」
「連絡は取れたのか?」
「祖父ぃのとこは固定電話だったからか、災害後に2〜3度通じた。でも、祖父さんもうちに掛けたけど通じないって言ってた。今時はみんなスマホだろ?姉ちゃんとこも通じねぇ。あっこは小さい子供が居るから祖父さんらも心配してるって言ってた」
「みんな群馬県内か? 実家と祖父母と姉さんち」
「そうだけど、それなりに距離があんだわ。まぁ元から群馬は車社会だから隕石落下直後に移動してくれてたら、もしかしたら実家か祖父さんちで合流した、かもしれない」
「そうか、加瀬さんとこの群馬は海無しだから津波は無かったか。火山灰の前までなら移動出来たはずだな」
キヨカが地図を取り出した。地図……どこで入手しているんだろう。
「加瀬さん、住所を教えていただけますか?ご実家とお祖父さんの家、それとお姉さんの家のも。あとこの地図でだいたいの場所も印してもらえます?」
キヨカに赤ペンを渡されたカセが地図にグリグリと点を付けている。
いつの間にか戻ったマルクも一緒に地図を覗き込んでいた。
「群馬は、いくつかブックマークがありますね。そこから何とかいけそうですね」
キヨカが地図から顔をあげてこちらに向かって言った。そうか、そうなのか、良かった。
いや、無事が判るまでは良かったは言わないでおこう。
「もし……行ってもらえるなら、有難いです。これだけでも届けたい」
カセは自分の手首のミサンガを触っていた。
で、今度はクマを見る。
「クマはどこなん?」
「あー……、俺は、その、家族は八王子……です」
家族、クマはもしかして既婚者か?
何故かカセ、クマ、ナラの3人は未婚と思い込んでいた。
で、家族が八王子、と。八王子?聞いたことある場所だな。どこだ?
「八王子、それなら相模原から何とか行けそうですね、カオさん」
「お、おぅ…」
自信なさげな俺の顔に気がついたのかキヨカが言い直した。
「相模原はブックマークがあります。彩ちゃんを迎えにいった場所です。八王子はそこから近いです」
なるほど、あの辺か。(あの辺がイマイチ覚えてはいない)
「家族が八王子って事は実家はどこなんだ?」
「球磨の実家って確か新潟でしたよね」
「そうだ、新米貰ったけど俺自炊はしてないから実家にやったら喜んでたな」
おう、米所新潟か。…………うん、米が美味くて有名なのは知ってるが、日本のどの辺りと聞かれると……。日本を上半分と下半分に分けると、多分新潟は上半分……のどこかだ。違ってたら新潟県民、スマン。
「新潟もブックマークありますね。と言っても新潟のブックマークは2箇所のみなので球磨さんのご実家の場所が近いと良いんですが……」
俺はブックマーク一覧で『にいがた』を検索したがヒットしなかった。
「キヨカお姉さん、新潟って凄く大きいね、球磨さんのお父さんお母さんのうちはどこなの?」
「うちは十日町だ。祖父母が南魚沼市で米はそっちからよく貰うんだ」
「十日町なら大丈夫そうですね。新潟県のブックマークは福島寄りの魚沼市と群馬寄りの南魚沼市です」
あれ、そう言えば最近『にいがた』ってワードをどこかで聞いた。
そうだ。サンバから聞いたんだ。広島のハマヤン達を救助に行くため、地下シェルターの自衛隊が新潟に向かうとか、どうとか。
キヨカ達にちょっと断りを入れてサンバに念話をしてみた。
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